ヒトラーの秘密『精神科医の医療ミスが原因で、さえない男が歴史を動かした説』

 

ヒトラーの経歴は、彼の人生を第一次世界大戦終戦の前後で分けると、その差にすごい違和感があります。

この違和感が、『野戦病院でヒトラーに何があったのか: 闇の二十八日間、催眠治療とその結果』という本の内容 が事実だとすると非常に納得できます。

野戦病院でヒトラーに何があったのか: 闇の二十八日間、催眠治療とその結果』という本はノンフィクションですが、『目撃者』という本は、小説です。

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第一次大戦で目が見えないと泣き叫んでいたA・Hを、精神科医である”私”は治療する。
自信を取り戻したA・Hは、やがて世界を恐怖に陥れる存在になる。
独裁者A・Hにとって、当時の「精神病質者」とされた診断記録が邪魔なものであり、一方、診断記録を保管している”私”にとっては危険な武器になっている。

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といったストリーの小説ですが、著者のヴァイスははヒトラーを治療した精神科医エトモント・フォルスターと交流があり、フォスターの話から発想して小説にした可能性が高いと言われています。

 最終的に精神科医フォスターと同様もこの小説の著書ヴァイスも、ゲシュタポナチスドイツの秘密警察)の逮捕、迫害を恐れて自殺したそうです。

 

 

 

 

違和感その1

 ドイツの政治家、軍人には、フォンがつく氏名が多いが、フォンが貴族の称号といわれるように、貴族社会の伝統が強かったドイツで、平民、しかもドイツに帰化したばかりの平民(ヒットラーオーストリア国籍のオーストリア人で、ドイツ国籍を取得したのは1932年)が総理大臣になりました。
 どうして、当時のドイツ国民の多くは、熱狂的に催眠術にかけられたように支持したのでしょうか。

違和感その2

 前半生と後半生で、性格、能力が一致しない。

【前半生】

 

 実技の学校(今の日本で例えると工業高校?や商業高校?)を中退、美術の学校(今の日本でいうと美術大学)を2度受験して、失敗。浮浪者のような生活をしていて、浮浪者の施設に収容されていたこともある。
 その時を知る人の証言。「とても政治家になるような人物とは思えなかった。ヒステリックになることもあったが、根暗で内気な人だった」

 

 第一次世界大戦で、下士官にも昇格できない。ヒトラーの軍歴を考えると、下士官(伍長や軍曹)に昇格するのが通常だった。
 当時の上司は、「下士官になる指導力に欠ける」と評していた。
 同僚などは、「生真面目だが、周囲と打ち解けれない内向的な人だった」と話していたらしい。

注意:ヒトラーは、兵長という兵の中では一番高い階級だったが、伍長や軍曹などの下士官ではない。この点、誤って伝わっている話が多いように思える。細かい話ですが。

【後半生】

第一次世界大戦から15年後ぐらいに40代の若さにで総理大臣になる。
神がかった政治家として、国民から、国の指導者として圧倒的に支持されていた。
後半生の政治家としてのあゆみは、世界史の教科書に必ず記載されるぐらい。

ヒトラーの秘密】
 第一次世界大戦終戦間際に、野戦病院ヒトラーの失明、不眠症の治療に催眠療法が実施された。催眠療法で、自分がドイツの救世主だという過剰な自信を持たせた。
偶然が重なり、その催眠、つまり暗示が解かれず、ヒットラーが政治家になったという話が、この本ではでは記述されています。

 簡単に言うと、担当の精神科医が、戦後の混乱で、ヒットラーの催眠を解けない状態になり、催眠状態のまま、ヒットラーが退院した、その催眠状態が彼の後半生を作ったという話です。

 まさに、事実は小説より奇なり という話です。強い信念は、目標達成には必要だが、ヒットラーの場合、それが催眠で作られた強すぎた信念だったのかもしれない。

 

▽本の紹介

野戦病院でヒトラーに何があったのか: 闇の二十八日間、催眠治療とその結果

 

 

 

野戦病院ヒトラーに何があったのか: 闇の二十八日間、催眠治療とその結果』 単行本 – 2016/6/21
ベルンハルト ホルストマン (著), Bernhard Horstmann (原著), 瀬野 文教 (翻訳) 


ヒトラーは1918 年10月第一次大戦末期ベルギー戦線で毒ガス攻撃に遭い失明し、ドイツ東部のパーゼヴァルク野戦病院に収容される。そこで精神医学の権威エドムント・フォルスター教授に催眠治療を施され回復した。
戦争が終わりミュンヘンに現れたヒトラーは以前の「卑屈で目立たない」男ではなく、異様な目の光を持った政治家・大衆煽動者に変貌していた。
パーゼヴァルクの28日間に何があったのか。独裁者を誕生させた決定的瞬間に光を当て、これまで多くの歴史書が見逃してきた20 世紀最大のミステリーを解き明かす。

内容(「BOOK」データベースより)
ヒトラーは1918年10月第一次大戦末期ベルギー戦線で毒ガス攻撃に遭い失明し、ドイツ東部のパーゼヴァルク野戦病院に収容される。そこで精神医学の権威エドムント・フォルスター教授に催眠治療を施され回復した。戦争が終わりミュンヘンに現れたヒトラーは以前の「卑屈で目立たない」男ではなく、異様な目の光を持った政治家・大衆煽動者に変貌していた。パーゼヴァルクの28日間に何があったのか。独裁者を誕生させた決定的瞬間に光を当て、これまで多くの研究書が見逃してきた歴史のミステリーを解き明かす。

著者について
1919-2008 年。ミュンヘン中産階級の子弟として生まれる。第二次大戦では国防軍の将校として従軍、最後のベルリン攻防戦に参加、ソ軍に抑留後1946 年9 月に解放。戦後は弁護士、ミステリー作家として活躍。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ホルストマン,ベルンハルト
1919‐2008年。ミュンヘン中産階級の子弟として生まれる。第二次大戦では国防軍の将校として従軍、大戦末期に反ヒトラー運動に連座して逮捕、釈放ののち最後のベルリン攻防戦に参加、ソ軍に抑留後、1946年9月に解放。戦後は法律家、ミステリー作家として活躍

瀬野/文教
1955年東京生まれ。北海道大学独文科修士課程卒(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

 

目撃者

 

 

 

第一次世界大戦後のヨーロッパに、すさまじい変動とはかりがたい苦しみをもたらした稀有な人間たち、その中には「あの男」もいた。
運命は私にその男の人生に一役買うことを命じたのだ。……まずは一九一八年十月末から十一月はじめのあの日までの私の人生を、手短かに述べることにしよう。(本書より)
第一次大戦に参戦し失明状態に陥っていた若者「A.H.」を治療し、その男の中に眠る全能感を呼び醒ました医師の独白――という形式で綴られた異色の小説。第二次世界大戦へとひた走る危機の時代を、独裁者誕生の瞬間に立ちあった医師の視点で鮮やかに描き出す。

内容(「BOOK」データベースより)
第一次世界大戦に従軍し、毒ガス攻撃によって失明状態に陥っていた若者A・H。医者としてA・Hと対峙し、この男の中に眠る全能感を呼び醒ました「私」が半生を語る―というかたちで綴られた異色の小説。第二次世界大戦へとひた走る危機の時代を、独裁者誕生の瞬間に立ちあった医師の視点で鮮やかに描き出す。1938年に執筆された亡命作家の遺作。

著者について

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ヴァイス,エルンスト
1882年モラヴィア生まれ。プラハおよびウィーンの大学で医学を学び外科医として勤務。
1913年世界周遊の旅から帰国後、処女小説『ガレー船』を刊行。1914年第一次世界大戦が勃発すると、オーストリア・ハンガリー帝国の軍医として東部戦線に従軍。1921年プラハからベルリンに移り、1923年頃から作家活動に専念。1933年ヒトラー政権の成立にともないドイツを離れ、1934年からはパリで執筆活動を続ける。1940年6月ドイツ軍のパリ占領時に自殺
両大戦間期にドイツで活躍したユダヤ系作家。カフカシュテファン・ツヴァイクとの交流でも知られる。1882 年、モラヴィアに生まれ、外科医として働いた後、ワイマール期のベルリンで執筆活動に入る。ナチス政権の成立後、パリに亡命。1940 年、ドイツ軍のパリ侵攻の日に自殺。作品に『ガレー船』『鎖につながれた獣たち』『神明裁判』などがある。

訳者略歴
瀬野/文教
1955年東京生まれ。
北海道大学独文科修士課程卒(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
北海道大学独文科修士課程卒。著書に『リヒャルト・ハイゼ物語』(中央公論新社)、訳書に『黄禍論とは何か』『偉大なる敗北者たち』『ドイツ現代史の正しい見方』『アタマにくる一言へのとっさの対応術』(以上、草思社)、『ロスチャイルド家と最高のワイン』(日本経済新聞社)などがある。

 

-Amazon レビューより抜粋---------------------

第一次大戦で目が見えないと泣き叫んでいたA・Hを、精神科医である”私”は治療する。
自信を取り戻したA・Hは、やがて世界を恐怖に陥れる存在になる。
独裁者A・Hにとって、当時の「精神病質者」とされた診断記録が邪魔なものであり、一方、診断記録を保管している”私”にとっては危険な武器になっている。
両親との複雑な関係。ユダヤ人医師のカイゼルと、のちに妻となるその娘。
金持ちので医者となる主人公のパトロンとなった医師カイゼルとの師弟愛。と、その息子との友情、裏切り。
密告や裏切りで、誰もが生きていくのが難しい時代。
A・Hの怪物が誕生する瞬間に立ち会った主人公の”私”は、どう生き抜くことができるのか・・。そのスリル。
著者のヴァイスは、シュテファン・ツヴァイクヨーゼフ・ロートトーマス・マンと交流。
「訳者あとがき」を読むと、エトモント・フォルスターという医師が実際にヒトラーを診察し、「精神病質者」とした診断書があったことが書かれている。のちにゲシュタポに追い詰められ、自殺したのだそうな。
ヴァイスも1940年6月14日、ヴァイスもフランスで自殺する。

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追伸:ヒトラーヒットラーと呼ぶ人もいますが、本のタイトルと合わせてブログではヒトラーで統一しています。

  

以上