林原の破綻の真相について、考えてみました。

 『破綻──バイオ企業・林原の真実 』林原 靖 (著)という本を読みました。林原の破綻の真相について、考えてみました。

 

『破綻──バイオ企業・林原の真実』 2013/7/24 林原 靖 (著)

イオンモール岡山と林原

 新幹線も停車する主要駅、県庁所在地の政令指定都市の中核駅のほぼ駅前に巨大なショッピングモールがあるのは岡山駅ぐらいであろう。
岡山駅のほぼ駅前、徒歩5分の場所のイオンモール岡山の土地は、経営破綻し、2011年2月更生会社を申請した林原という会社の所有地で、同年9月に入札にかけられた土地(落札価格は約200億円)です。
そんな駅前の巨大な一等地を保有していた会社(しかも、その土地は再開発目的で保有され、駐車場として利用されていたので、売却しようと思えば、いつでも売却できた土地のようです。)がなぜ、経営破綻するまで、資金繰りに困ることになったのか。


■銀行は雨の日に傘を貸さない。

 アメリカの作家マーク・トウェインは、
『銀行家というのは、太陽が照っている時に自分の傘を差しだし、雨が降り始めるやいなや傘を返せというようなやつだ。』
という名言を残しています。

また、人気ドラマ「半沢直樹」で主人公の銀行マン半沢が、
『銀行は、晴れた日に傘を差し出し、雨の日には傘を取り上げる。銀行員の常識は世間の非常識だ』というシーンがあります。

しかし、企業(事業者)と銀行の関係、融資の前提を考えれば、当然の話で、
貸す必要がないほど優良な取引先だから貸す、
借りないという選択肢もあるが、節税、資本効率上、という目的で借りた方が有利だから、貸す。という話になるわけです。

所得税は、利益に対して4割から5割課税されるので、企業、特に非上場企業は、利益が株主から要求されることも少ないので、節税目的で、利益を計上せず、資本市場から株式の公募もできないので、常に、自己資本(利益の内部留保や増資で調達した資金が原資)が不足気味と言われ、銀行からの融資への依存度が大きいと言われています。

銀行にとっても、自己資本、利益が過少な企業でも、優良な資産があり、それらを担保に設定できれば、貸し倒れがない優良な貸し手、貸出利息の収益源となります。

そんな持ちつ持たれつの関係が崩壊するのは、
企業が節税目的でなく、業績不振で利益を計上できない。
融資額に比べて担保額が低くなる。といった時です。

2009年から2011年にかけて、リーマンショックの影響で、土地価格の下落などが原因で、上場企業でも複数の不動産企業が経営破綻、いわゆる倒産をしています。
日経平均も1万円も割り、株価が大幅に下落していた時期です。

著書が、銀行は、知的財産や将来の収益は担保と考えず、上場企業の株式、不動産しか担保として考えていなかったと、銀行を非難しています。

上場企業の株式、不動産が担保であれば、担保額が貸出債権より小さくなれば、銀行は貸出債権の保全、回収を優先して考えるでしょう。

 

一時的に、上場企業の株式、不動産が担保の評価額が少なくなった、

たったこれだけが、林原の破綻の真相のようです。

 

■弁済率93%の倒産の不可思議

 社員3000人で1300億円あまりの負債を抱えていた林原ですが、最終的にその93%が債権者に弁済できたという。しかも、仕入先などの商事債務の弁済率やメインバンク中国銀行、サブメインバンク住友信託銀行以外の銀行債務の弁済率は100%でした。

著書の中で、メインバンク中国銀行は、弁済率100%で経営破綻させたということであれば、潰す必要がなかったということで、中国銀行の失敗、その責任が追及されるので、意図的に弁済率を下げた可能性を著者は指摘しています。

実際に2015年には日経平均は2万円を超え、地価も大幅に上昇していますから、
後5年も融資を続ければ、林原も利息を払える程度の収益力はあったようですから、潰す必要はなく、その方が銀行も貸出利息でより多くの収益をあげられたのでしょう。

「おかげさまで銀行への弁済率は93%以上となり銀行団は過去の利息収入を計算すると、これまでの林原の取引において、まったく損することなく確実な利益をあげることができた。どの銀行も大変喜んでいると」
管財人代理の弁護士から報告を著者は受けているようです。

経営破綻しても、弁済率は93%以上ですから、
雨の日に傘を奪わなければ、銀行はより多くの収益を林原の貸出から得たのかも知れません。

 

■本の紹介

 

『破綻──バイオ企業・林原の真実』 2013/7/24 林原 靖 (著)

内容紹介
敗軍の将、兵を語る

“バイオの雄"として名を轟かせてきた岡山の世界的優良企業「林原」が、
突然、会社更生法を申請したのは2011年2月。
黒字を計上し続けてきた優良企業に何が起こったのか?
社長急逝が引き起こした混乱と反乱、
スキャンダルを境に失速、
襲いかかった銀行、弁護士、マスコミと弁済率93パーセントの不可思議な倒産——
専務取締役として渦中に身を置いた著者が
「不可解な破綻劇」の真実を語る!

内容(「BOOK」データベースより)
岡山の世界的優良企業「林原」は、なぜ潰されたのか!?弁済率93%の倒産の不可思議!?敗軍の将、兵を語る

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
林原/靖
1947年、岡山市生まれ。1969年、林原株式会社に入社。1978年、取締役経理部長就任。総務、人事、システム、広報、関連事業、各部長兼務。1985年、株式会社林原など基幹四社の専務取締役に就任。2000年、太陽殖産社長に就任。兼務の本体専務として管理、生産、営業、国際、関連子会社もあわせて管掌。2011年2月、会社破綻ですべての役職を辞任、今日に至る。2013年4月より(非営利)グローバル・リサーチ・アソシエイツ代表(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

以上