に続けて、
リアル半沢直樹 西川善文<にしかわ・よしふみ>氏の活躍、活躍というより苦闘という表現があっているかも、その苦闘を紹介します。
どんな活躍をしたのか、彼の回顧録
に従って、紹介しています。
今回は、『第5章 トップダウンとスピード感』の中の、西川氏率いる三井住友銀行ががUFJ銀行争奪戦で、東京三菱銀行と争います。
UFJ銀行の経営危機、その後のUFJ銀行の経営権を獲得するための東京三菱銀行、三井住友銀行の戦いも、三つの銀行や金融庁との利害が絡んで、意外な展開が待っていて、ドラマや小説のような話です。まさに『事実は小説より奇なり。』という感じです。
UFJ銀行の経営危機のきっかけには、半沢直樹の黒崎駿一のモデルといわれる金融庁の統括検査官だった目黒謙一氏、つまりリアル黒崎俊一も登場します。
ノーパンしゃぶしゃぶ事件
大蔵省接待汚職事件とも言われますが、1998年(平成10年)に発覚した大蔵省を舞台とした汚職事件であります。大蔵省の職員らが銀行から接待を受けた際に、中国人女性が経営する東京都新宿区歌舞伎町のノーパンしゃぶしゃぶ店「楼蘭」を頻繁に使っていた事が発覚した事からノーパンしゃぶしゃぶ事件とも言われています。金融庁の前身である大蔵省金融検査部門よりノンキャリア検査官2名が逮捕、1名が自殺に追い込まれる結果となっています。
当時、三和銀行(UFJ銀行の前身)のMOF担(対大蔵省折衝担当者)だった早川潜氏は、東京地方検察庁特別捜査部に積極的に情報提供していました。以来、金融庁など金融当局から不興を買っていました。
金融庁がUFJ銀行に倍返しする
MOF担(対大蔵省折衝担当者)だった三和銀行早川潜氏は、当時は、UFJ銀行の常務として、大口融資先の再建・つまり大口の不良債権の処理を担当していました。早川氏らは、審査資料として「楽観」「成り行き」「最悪」の3シナリオを用意し、「楽観」シナリオが採用され、債務者区分は「破綻懸念先」が格上げされることにより、不良債権処理の損失は圧縮していました。また、「成り行き」「最悪」のシナリオは隠蔽され、さらに議事録も改竄していました。
「成り行き」「最悪」のシナリオは隠蔽するために、都合の悪い資料は、「ヤバファイル」(ヤバイ資料を意味する合成語)と呼ばれ、段ボール箱に入れて、東京本部の15階の審査第5部から、1階下の14階の別室に疎開させ、さらにパソコンに入力してあったデータ約3万5000件分も大阪のサーバーに疎開させていました。
2003年10月から、鬼検査官として各行の役員・担当者を震え上がらせていた目黒謙一氏が、金融庁の統括検査官として、大口融資先の債権は健全か、健全でなければ必要な引当金の処理をしているかという観点で、特別検査をしていました。この目黒氏が、リアル黒崎と言われる人です。
「14階に隠された資料がある。調べてください」という1本の匿名電話による内部告発により、その存在をリアル黒崎検査官といわれる目黒検査官も知ります。
目黒検査官が、告げられたルームナンバーの部屋に入ると、段ボール箱がうずたかく積まれていた。数にして100箱余。目黒が段ボール箱の一つから書類を取り出すときに、『イヤッーホ! 出た!』と満面の笑みでガッツポーズしたかどうかはわかりません。
ただ、かたわらにいたUFJの行員が、慌てて、その書類を取り上げて破ろうとしたというドラマのような光景があったそうです。
金融庁は、これらの行為を「組織的な隠蔽工作」と断罪しました。違法行為に役員が、直接、関わっていた点を重視し、過去に例のない組織ぐるみの悪質な犯罪と認定されました。その後、UFJ銀行は予定していた増資もできず、不良債権の対する引当不足となり、単独での存続が難しくなり、他の銀行との合併を迫られます。
翌年、2004年(平成16年)5月に、頭取の寺西正司は退任に追いこまれ、この検査忌避により、UFJ銀行は一部業務停止を含む金融庁の行政処分を受け、さらに、2004年10月、法人としてのUFJ銀行と、早川常務ら元担当役員ら3人が、銀行法違反(検査忌避)容疑で金融庁より刑事告発を受け、同12月には東京地検特捜部は同法容疑で早川元常務ら3人を逮捕しています。
目黒謙一氏の実像
黒崎氏は2019年12月に亡くなりましたが、以下のような著者も出しています。
「先日、メガバンク取締役の方の役員室でも拝見しました。私は、きわめて信頼性のある良書と存じます。近年、内外金融機関経営に大きく影響を与える規制・制度変更ですが、その背景・方向性などに関して俯瞰できる1冊です。著者の経歴面も本書の信頼性を裏付けます。相応のボリュームがありますが、ここ1・2年の内外動向の基礎の習得を企図される限りにおいては、最良の書と私は思います。一度、お手にとる、いえご購入頂いても決して後悔のないことと存じます。」とAmazonのレビューにありますが、実務家として大変優秀な方だったようです。
目黒氏は宮城県出身で、高卒で1966年に旧大蔵省に入省し、金融機関の検査を担当、現在の金融庁が分離して発足した後も一貫して、ノンキャリア組のベテラン検査官として活躍しています。エリートのキャリア官僚の黒崎のキャラとは違いますね。
また、目黒氏は、公務員のお手本のような実直な人物だったそうです。金融庁の元部下は「金融機関に対して決して威圧的な態度はとらなかった」と振り返っています。検査の際も、立ち入る前より会場を綺麗にするよう指示し、自らトイレのゴミも拾っていたそうです。この辺も黒崎のキャラとは全然違いますね。
本の紹介
上記の話は、西川氏の回顧録には詳しは書かれていませんが、
著者について
西川 善文<にしかわ・よしふみ>
元三井住友銀行頭取、前日本郵政社長。1938年奈良県生まれ。1961年大阪大学法学部卒業後、住友銀行に入行。大正区支店、本店調査部、融資第三部長、取締役企画部長、常務企画部長、専務等を経て、1997年に58歳の若さで頭取に就任し8年間務める。2006年1月に民営化された日本郵政の社長に就任するも、政権交代で郵政民営化が後退したため2009年に退任。現在は三井住友銀行最高顧問。
内容(「BOOK」データベースより)
私は悪役とされることが多かった―。顔が見える最後の頭取=ザ・ラストバンカーと呼ばれた著者が綴った、あまりに率直な肉声!安宅産業処理、平和相銀・イトマン事件、磯田一郎追放、銀行大合併、UFJ争奪戦、小泉・竹中郵政改革。現場にいたのは、いつもこの男だった。密室の出来事すべてを明かす!
逃げたらあかん!
「不良債権と寝た男」、死に物狂いの仕事人生
安宅産業処理、平和相銀・イトマン事件、磯田一郎追放劇、銀行大合併、UFJ争奪戦、小泉・竹中郵政改革……。現場にいたのは、いつもこの男・西川善文だった。「最後の頭取」=ザ・ラストバンカーと呼ばれた著者が綴った、あまりに率直な肉声!
マスコミ報道の騒乱の中で失われた金融史のミッシングリングを埋める。
<目次>
◎第一章 バンカー西川の誕生 ◎第二章 宿命の安宅産業 ◎第三章 磯田一郎の時代
◎第四章 不良債権と寝た男 ◎第五章 トップダウンとスピード感 ◎第六章 日本郵政社長の苦闘 ◎第七章 裏切りの郵政民営化
以上です。