特許侵害で旭化成に訴えられたダブル・スコープに余裕を感じる(ダブル・スコープは下町セパレータではない)

 に続けて、ダブル・スコープへの投資検討材料の紹介です。

ダブル・スコープは、旭化成から特許侵害で訴訟を提起され、係争中ですが、このリスクはどの程度重くみるべきでしょうか。


双方のプレスリリースを見ると、旭化成とダブルスコープの特許裁判は、特許侵害と訴えられた被告のダブルスコープに余裕を感じます。

ダブルスコープにとって、今回の特許裁判は、たとえ、敗訴しても経営、事業に大きな実害がないのかもしれません。すくなくとも、現時点のプレスリリースや有価証券報告書の内容からは、そのように判断できます。

 

 

 

 

 

ダブル・スコープと旭化成のプレスリリースの紹介

『』の部分は口語調に分かりやすく意訳した内容です。

 
■2020年2月4日 旭化成 『ダブル・スコープ君、俺の特許を勝手に使って、製造、販売するな。訴えたぞ、コラ! 』

ダブル・スコープ株式会社等に対する特許侵害訴訟提起について

旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社長:小堀 秀毅)は、本年1月29日、リチウムイオン二次電池用セパレータの製造・販売会社であるダブル・スコープ株式会社及びその連結子会社であるW-SCOPE KOREA CO., LTD.(以下、ダブル・スコープ株式会社等)を共同被告として、特許権侵害訴訟をソウル中央地方法院に提起しました。

本件訴訟は、当社が所有するリチウムイオン二次電池用セパレータに関する韓国特許(特許第10-0977345号)に基づき、ダブル・スコープ株式会社等が製造・販売する電池用セパレータ製品の韓国における製造・販売差止と損害賠償を求めるものです。

 

■2020年2月4日ダブル・スコープ『ホームページ見たけど、訴状も来てないし、ようわからん』

特許侵害訴訟への対応に関するお知らせ
旭化成株式会社(本社:東京都千代田区)は、本年 1 月 29 日に当社及び当社連結子会社であるW-SCOPE KOREA CO., LTD.に対して、韓国特許(特許第10-0977345 号)に基づき、特許権侵害訴訟をソウル中央地方法院に提起し、当社が製造・販売する電池用セパレータ製品の韓国における製造・販売差止と損害賠償請求を、ホームページで発表しました。
現時点で訴状がまだ届いていないため、具体的な内容が把握できておりませんので、訴状が届き次第、改めて当社見解をリリースさせていただきます。

 

■2020年2月14日ダブル・スコープ『旭化成さんに質問していたけど、回答もないまま、裁判てどうよ。旭化成さん。業績にはほとんど影響ないけどさ。』

特許侵害訴訟に対する当社見解について

本年2 月4 日付で公表しました「特許侵害訴訟への対応に関するお知らせ」について、当社見解をお知らせいたします。

1.訴訟提起日
2020 年1 月29 日

2.訴訟提起者
旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社長:小堀 秀毅、以下「旭化成」)

3.訴訟原因及び経緯
2018 年 2 月 1 日付で旭化成から当社及び中国の当社販売代理店に当該特許権侵害に関する確認の書簡が送付され、当社は旭化成に対してその書簡についての質問書を返送しておりました。その質問書に対する回答がないまま、旭化成は 2018 年 8 月 13 日に中国の当社販売代理店に対して特許権侵害訴訟を提起し、当社の単層セパレータ製品の中国での販売差止と損害賠償を求めています
(現在係争中)。
そして今回、旭化成は中国での特許訴訟と同様の特許に基づいて、韓国での製造・販売を対象に、当社及び連結子会社であるW-SCOPE KOREA CO., LTD.に対して特許侵害訴訟を提起しました。

4.訴訟内容
旭化成が所有するリチウムイオン二次電池用セパレータに関する韓国特許(特許第 10-0977345号)に基づき、ダブル・スコープ株式会社等が製造・販売する電池用セパレータ製品の韓国における製造・販売差止と損害賠償を求めるものです。

5.業績への影響
訴訟対象は当社が販売している単層セパレータの一部製品に限られております。また、当社の主力製品は、新しい技術を使用したEV 用コーティングセパレータや高耐熱性セパレータに大きくシフトしていきますので、本年及び今後の計画に及ぼす影響も軽微なものに留まる事が見込まれます。
なお、本訴訟が結審するまでには数年以上かかる見込みであり、直ちに結論は出ない見通しです。また、主要取引先との協力関係にも全く影響は出ておりません。
現在、訴状が届いたW-SCOPE KOREA CO., LTD.で、弁理士法人や弁護士法人と対応を進めております。

 

■2020 年3 月12 日ダブル・スコープ『旭化成さんの特許はそもそも無効では!』

特許侵害訴訟への対応に関するお知らせ
当社子会社のW-SCOPE KOREA CO., LTD. は、旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社長:小堀 秀毅)が当社及びW-SCOPE KOREA CO., LTD.に対して特許権侵害を主張している韓国特許(特許第10-0977345 号))について、2020 年3 月11 日付で韓国特許審判院に特許の無効審判請求を致しましたので、お知らせいたします。

 

■2020年12月23日旭化成『ダブル・スコープ君から特許は無効といわれたけど、有効だったぞ!ドヤ!』

ダブル・スコープ株式会社等への特許侵害差止訴訟に関する当社韓国特許の維持審決について

旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社長:小堀 秀毅、以下、「当社」)は、本年1月29日、リチウムイオン二次電池用セパレータを製造・販売するダブル・スコープ株式会社(本社:東京都品川区)およびその連結子会社であるW-SCOPE KOREA CO., LTD.(以下、「ダブル・スコープ株式会社等」)を共同被告として、特許権侵害差止訴訟をソウル中央地方法院に提起致しました。
当該訴訟は、リチウムイオン二次電池用セパレータに関する当社の韓国特許(特許第10-0977345号、以下「当社特許」)に基づき、ダブル・スコープ株式会社等が販売するポリオレフィン製微多孔膜製品(「SB12D」、「SB16D」、「単層W-scope」などの品名のリチウムイオン二次電池用セパレータ製品を含む)の韓国における製造並びに販売差止等と損害賠償を求めたものです。
当社が当該訴訟を提起したのち、本年3月11日に被告の一社であるW-SCOPE KOREA CO., LTD.は、当社特許の無効を求め韓国特許審判院に特許無効審判請求を行いました。韓国特許審判院は双方の主張を十分に審理した後、本年12月2日にW-SCOPE KOREA CO., LTD.による無効審判請求を棄却する審決を示し、当社特許の有効性を認めました。
当社は今後も知的財産を重視し、必要と判断した場合には具体的な措置を積極的に講じて参ります。

 

■2021 年2 月1 日 ダブル・スコープ『旭化成さんの特許ほとんど使ってないし、業績に影響なし!ドヤ!』

特許訴訟に関するお知らせ
旭化成株式会社から 2021 年 1 月 29 日付でリリースされました「深圳市旭冉電子等に対する中国特許権侵害訴訟の終審判決について」に関しましては、判決により侵害していると認定された製品規格が“12 ㎛(厚さ)*150mm(幅)*200m(長さ)の単層セパレータのみに限定されました。当社が販売している通常製品は長さ 1,000m、またはそれ以上であり、深圳市旭冉電子等から出荷した該当製品(無償サンプル品含む)は民生向けのごく少量であるため、当社の業績及び今後の事業計画への影響はないことをお知らせ致します。

 

■2021年2月19日旭化成『ダブルスコープ君、嘘つくな。コラ!』

ダブル・スコープ株式会社が行ったプレス発表について

旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社長:小堀 秀毅、以下「当社」)は、ダブル・スコープ株式会社から2021年2月1日付でリリースされました「特許訴訟に関するお知らせ」に関して、事実と相違する記載がありますので、下記のとおりお知らせいたします。

上記リリースには「判決により侵害していると認定された製品規格が“12µm(厚さ)*150mm(幅)* 200m(長さ)”の単層セパレータのみに限定されました。」との記載があります。 当社の「ZL200680046997.8 号特許権」は、製品の厚さを1µm以上50µm以下と限定しておりますが製品の幅及び長さは限定しておりません。

当社は今後も知的財産を重視し、必要と判断した場合には具体的な措置を積極的に講じてまいります。

 

ダブル・スコープの業績、事業への影響に関する考察


旭化成とダブルスコープの双方のプレスリリースを見ると、ダブル・スコープの対応に余裕を感じます。

特許というのは、「新規性のある有用な発明」に対し発明者(特許出願者)に独占的に製造、販売する権利が保障する制度ですが、通常、特許公報など公開されている技術だけでは、特許を利用した製品化は難しいといわれます。
ですので、特許のライセンスでは、特許だけでな、製造ノウハウなど、公開されていない情報など技術供与も合わせて実施されます。

仮にダブルスコープが特許を侵害したかは今後裁判で争われるでしょうか、ダブルスコープは旭化成の技術協力なしで、独力で、旭化成の特許技術と同等の製品を製造、販売し、それが、旭化成のシェアを奪うほど競争力のあったのでしょう。

旭化成のセパレータ製品は、ダブルスコープの製品と価格競争力で負けていて、
ダブルスコープとの競合する製品については、不調なのもかもしれません。

 

価格競争が厳しい分野であることが旭化成の第130期有価証券報告書(2020年4月1日 - 2021年3月31日)からも読み取れます。

旭化成の第130期有価証券報告書において、

各セグメント(3つのセグメント「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」)におけるリスクで、「マテリアル」のセグメントのリスクで

「Environment&Evergy」分野において、リチウムイオン電池用セパレータの世界的な需要変化及び競合他社の販売政策により販売量・販売価格が当社予測を下回る可能性があります。

といった記載があり、セパレータ事業で競合他社の販売政策で販売量、販売価格に影響を受けること、つまり、競合他社の常に価格競争力を強いられている価格下落を強いられる製品であることが読み取れます。

また、
旭化成の決算説明会(2021年5月13日実施)で 

SMBC 日興証券・宮本氏宮本氏 約1割の販売数量増とすると、営業利益への影響はあまり大きくないと考えてよいか。スペシャルティソリューション事業の 2021 年度営業利益予想は、2020 年度比で横ばいである。電子部品事業が減益で、セパレータ事業が増益ではないとすれば、何が増益要因になるのか。


スペシャルティソリューション事業本部 セパレータ事業統括部長 石川
LIB 用セパレータは価格下落があり、販売数量も約1割の伸びに留まるため、セパ
レータ事業としては 2021 年度は若干の増益という見込みである。
スペシャルティソリューション事業本部 企画管理部長 杉山
補足すると、セパレータ事業では若干先行投資的な固定費も増える見通しだ。電子
部品事業の減益を補って増益になる要因は主に旧高機能マテリアル系事業で、中でも電子材料製品だ。また、2020 年度は苦戦した自動車向け機能性コーティングなども増益になる計画だ。

といった質疑応答があり、旭化成のセパレータ事業は順風満帆で、高成長、高収益で強い競争力を持つ事業というわけでなさそうです。

 

2021年3月31日に開示されたダブルス・コープ2020年12月期 有価証券報告書には

事業等のリスク ⑤知的財産権について

当社グループではリチウムイオン二次電池用セパレータ製造技術に関する特許を保有しており、今後もさらなる研究開発を進め、必要に応じて特許を出願する方針であります。
しかしながら、当社グループが現在出願している特許及び将来出願する特許の全てが登録されるとは限らず、当社グループの技術やノウハウが必ずしも適切に保護できるとは限りません。
また、当社グループは、第三者知的財産権を侵害しないように常に留意し、定期的に外部の弁護士、弁理士等を通じて調査しておりますが、万が一、当社グループが第三者知的財産権を侵害した場合には、当該第三者より製造の差し止めや損害賠償などを請求される可能性があります。その場合、当社グループの経営陣が多大な時間と労力の投入を強いられ、弁護士費用が増加し、当社グループの評判が低下することにより、当社グループの事業、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

  

といった記載があります。

旭化成は、特許裁判で、ダブルスコープの経営陣が多大な時間と労力の投入を強いられ、弁護士費用が増加し、ダブルスコープ評判が低下することにより、ダブルスコープの事業、経営成績に影響を及ぼすことを目的かもしれません。

しかし、有価証券報告書公認会計士も監査する公的な報告書)で、
『特許裁判で、ダブルスコープの事業、経営成績に影響を及ぼす可能性がある。』
万が一の可能性のあるリスクとして説明しているということは、
少なくとも現時点では、旭化成との特許裁判は、ダブルスコープの事業、経営成績に影響を及ぼす問題にはなっていないうようです。

 


特許権は、生産者でなく、その違反した製品を部品、部材とした製品を
販売、利用したものも損害賠償や差し止め、場合によっては刑事罰の対象になりうる強い権利です。
つまり、特許侵害をしているダブルスコープの製品を利用したサムソンSDIなど電池メーカーやその先の自動車会社などまでリスクが及びます。
仮に特許侵害の可能性が濃厚なら、ダブルスコープの製品が売れないと思いますが、旭化成の訴訟の後も、売上は拡大しています。

この事実は、我々素人でなく、サムソンSDIなど電池メーカーやその先の自動車会社など技術開発、資材調達、知的財産、法務の責任者などの玄人がどう考えているかを示唆します。

2021 年2 月1 日 ダブル・スコーププレスリリースの通り、
旭化成さんの特許ほとんど使ってないし、業績に影響なし!ドヤ!』
という結論(裁判の判決か和解)に落ち着くのではと私は考えています

関連記事

旭化成の歴史やセパレーター事業の売上、シェアなどを調べたブログ記事です。

旭化成とダブルスコープの特許裁判のその後の話を調べたブログ記事(↓)です。

 

 

本の紹介

 特許や知的財産について興味を持った方へ、いくつか関連する本を紹介します。

 

ドラマ化もされた池井戸潤氏の小説、

ルーズヴェルト・ゲーム

下町ロケット では、大手企業から理不尽な特許侵害で訴えらえる主人公の会社が逆転勝利するようなストーリがありますが。
旭化成から訴えられたダブル・スコープは、あたかも青島製作所、佃製作所のように、資金繰りに困るような状況から、大逆転して、業績の急回復ができるのか楽しみです。W-SCOPEは、下町ロケットの小説のような特許紛争で取引停止、業績悪化という状況ではないようで、タイトルの(ダブル・スコープは下町セパレータではない)はそんな意味があります。
 

 

 

 

ちなみに、

 池井戸 潤氏の小説『半沢直樹』が有名ですが、以前、私は三菱UFJ銀行に半沢頭取の誕生を示唆していましたが、それが現実になりました。

 

 

知財戦略の中でも、特に重要なのは新規事業の武器となる特許を取得できる発明です。発明は、競争力のある製品・サービスの実用化・事業化とマネタイズを考える上で欠かせません。「先読み」の知財戦略の考え方、事業創出につなげるための企画の考え方を、具体的な企業の事例を挙げて解説している本です。

「控えめに控えめに言って最高すぎです。オモロい!!!オモロすぎる!」といった恋艇的なアマゾンのレビューが多いです。

ダブル・スコープ (6619) 旭化成(3407)