ダブル・スコープの競合 SKイノベーション(現SKIET)とは- 『国策に売りなし』か『国策に売られるか』-

 

 

に続けてダブル・スコープの投資の参考情報です。今回は、ダブル・スコープのコンペ(競合)となるSKイノベーション(現SKEIT)について取り上げます。韓国の産業政策から考えて、ダブル・スコープの競合(コンペ)としてまず考えるべきは、SKイノベーション(現SKIET)だと思います。

 

追記:SKイノベーションはその後、セパレータ部門をSKIET(SKアイイーテクノロジー)として独立、上場(IPO)しています。この記事は、独立、上場前の記事です。

SKグループ、SKIETについては、下記の関連ブログも読んで頂けると嬉しいです。

■関連ブログ

 

 

▼目次

 

 

 

『国策に売りなし』韓国と『国策に売られた』日本

相場の格言に、「国策に売りなし」があります。「国の規制緩和、規制強化、産業保護育成が、その事業に向かい風となる会社は業績向上の確度が高いので、買いの対象、売る対象でない。」という意味です。

 

韓国の産業政策、というよりどの国も同じような産業政策であるが、自国の産業保護のため、世界的な競争力を持つ、世界シェア上位を目指せる企業を育成する傾向があります。そういった会社が国内に1社だと国内市場で独占市場の弊害もあるので、通常、国内でも健全な競争がある程度働くようなに2~3社までが保護、育成の対象となるようです。

 

その場合、リチウムイオン電池産業を保護、育成に国策として掲げる韓国が保護、育成する企業がダブル・スコープになるのか、SKイノベーションになるのか、その両方になるのか重要です。

 

ちなみに、エルピーダメモリが経営破綻し、日本のDRAM産業が壊滅し、韓国のサムソン電子やSKハイニックスが世界シェア1位、2位の企業として、営業利益で1兆円を超えるような残存者利益謳歌しているのは、日本政府がエルピーダメモリを保護せず、保護しなかったといより、円高、金融政策(銀行の貸しはがしを招くような規制強化)など敵視するような政策のおかげです。対照的に、韓国政府が自国通貨安への誘導や補助金や税金軽減、融資の政府保証など様々な保護を与えました。企業の経営努力を超える国家の政策が、韓国が日本を打ち負かしたのです。日本の政策、というより無策が、韓国に有利に働いたのです。

なお、ここでいう政策、国策とは、産業政策という狭い意味より、財政政策、金融政策、為替政策、外交政策、安全保障政策も含めた非常に広い意味でも政策で、『国家政策』、大げさな言葉でいうと、『国家意思』と呼んだほうがいいでしょうか。

 

この辺の経緯は、エルピーダメモリ会社更生法を申請した当事者であった坂本 幸雄氏の著書 『不本意な敗戦 エルピーダの戦い』 に詳しいが、メインバンクの不在が資金繰りに窮した理由というより、韓国との競合と比較して、国の支援がないエルピーダメモリ、日本のDRAM産業の将来性を、銀行が見限ったという見方が適当だと思います。

 

日本のDRAM産業、広く言えば、日本の半導体産業は、『国策に売られた』といってよく、韓国の半導体産業は『国策に売りなし』だったのでしょう。 

 

SKイノベーションとは

  SKイノベーション(SK Innovation Co Ltd)は、主に石油製品、石油化学製品の製造・販売を行う韓国に拠点を置く会社で、韓国の証券市場に上場しています。
 国営の石油精製事業を譲り受けて、石油精製事業を中心に発展したため、日本では、ENEOS(5020)や出光(5019)のような会社のイメージです。
 ガソリンなど石油製品の韓国内シェアは4割ほどあり、日本ではENEOSが、ポジション的に近いでしょうか。なお、日本でも東燃ゼネラル石油がセパレーターを製造していましたが、2009年に東レとの合弁企業に事業は移管され、2012年にその合弁企業が東レが100%子会社することでセパレーター事業から撤退しています。セパレーターの原料がプラスチックの一種ですから、石油精製企業、石油化学企業と親和性が高いようです。

 

 母体となったSKグループは、石油精製業や通信事業を軸とする韓国の財閥で、韓国4大財閥の中で第3位の位置にいます(1位はサムソン、2位は現代、4位はLG)。

 SKテレコムやSKハイニックスはSKグループの関連企業です。

 

SKイノベーションの事業内容

SKイノベーションの事業内容は、大きく5つのセグメントわけれれます。

  • ① 石油セグメント:鉛フリーガソリン、灯油、ディーゼル等の石油製品の製造・販売を行う。
  • ② 潤滑剤セグメントは、主に潤滑剤製品の製造・販売を行う。
  • ③ 石油開発事業・材料事業・その他の事業セグメントは、原油及び天然ガスの開発・製造・販売を行う。
  • ④ 化学セグメント:主にエチレン、ポリプロピレン、スチレンモノマー等の基本的な乳化剤、並びに合成樹脂等の化学物質の製造・販売を行う。
  • ⑤ バッテリーセグメント:リチウムバッテリー及び中型・大型バッテリーの製造・販売を行う。

もともと①の石油セグメントが中心でしたが、近年は、成長が期待できより付加価値が高い⑤の事業に注力しており、リチウムイオン電池市場で世界シェア1位のLG化学と競争しています。

 

SKイノベーションの1~3月期、和解金計上で最終赤字: 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM139390T10C21A5000000/

といった記事の通り、LG化学とは特許紛争も起こしていました。

 

SKイノベーションの車載用リチウムイオン電池のシェア

 

「会社四季報」業界地図 2021年版

によると

 

車載用リチウムイオン電池の2019年市場シェア 

車載用リチウムイオン電池の2019年市場シェア 

と車載用リチウムイオン電池の2019年市場シェアで3%で世界7位の売上があります。

 SKイノベーションリチウムイオン電池はほぼ車載用で、ノートPCやスマホなどの民生市場でシェアは1%も超えないようです。

なお、LG化学は、韓国の最大手の化学企業で、世界でも10位の売上規模を誇り、日本では三菱ケミカルが、その事業内容、規模などから近い企業です。

リチウムイオン電池のセパレーターには、プラスチックの一種であるポリエチレン(超高分子量PE)やポリプロピレン(PP)が利用され、素材から開発、製造しているという点で、

SKイノベーション旭化成と同じく強みにもなり、逆に、他企業の安価・高品質の素材を利用するときの制約になるという点で弱みになるでしょう。
また、SKイノベーションは、セパレーターのアプリケーションとなるリチウムイオン電池自体も製造しており、これも用途に合わせた開発、製造を迅速にでき、用途の知見を素材に応用できるという点で強みになるでしょうか、他のリチウムイオン電池の企業への販売が難しくなるという点、本来、他社で高く売れ利益が確保できるのに、自社内で安く取引され利益が確保できない可能性がある点では弱みになるでしょう。

SKイノベーションのセパレーターシェア 

セパレータメーカー動向(2016年)WSCOPE 2017年12月期第3四半期決算説明会資料より

セパレータメーカー動向(2016年)WSCOPE 2017年12月期第3四半期決算説明会資料より

 

2016年と古い資料ですが、ダブル・スコープの決算説明資料で、SKイノベーションは湿式セパレーター市場で13.2%のシェアを持ち、旭化成に次いで、2位となっています。

乾式セパレーターも合わせた全市場では、東レが2位になることが多く、旭化成について、東レリチウムイオン電池用セパレーターでは2位を争う企業となります。

セパレーターの製造方法には、乾式製法と湿式製法の2種類があります。

乾式製法とは

ポリプロピレン(PP:乾式の主原料)をフィルム状に成形し、加熱しながら延伸することで結晶と結晶の間に隙間を生じさせ、微細な孔を空ける製法で、溶剤を使わないため、比較的安価で環境負荷も小さいといわれます。

 

一方、湿式製法は、あらかじめポリエチレン(PE:湿式の主原料)など樹脂に溶剤を混ぜ込みフィルム状に成形した後、溶剤を抽出して孔を空ける製法であり、耐熱性や強度を高めることができる半面、設備コストが高く、溶剤による環境負荷も高いと言われるます。

 

耐熱性や強度を改良する添加薬品である可塑剤を混入できるのが湿式で、それをしないのが乾式といえます。乾式の方がコストが安くいのですが、湿式の方が耐熱性や強度が高いので、安全性が重視される自動車用リチウムイオン電池では湿式が主流で、ダブル・スコープの主力製品も湿式セパレーターです。

  

SKとW-SCOPEを比較する

でも取り上げた通り、
リチウムイオン電池のセパレーター事業で勝者になるためには、
巨額の最新鋭の設備投資して量産効果でコストを下げ、売上を上げることです。そのためには、設備投資に耐える企業規模、財務体質が必要です。

SKイノベーションはセパレーター事業の比重が少ない、コングロマリット複合企業のため、セパレーター事業専業のダブル・スコープと比較が難しいと考えていたころ、

SKイノベーションリチウムイオン電池用セパレーター事業が担うSKアイイーテクノロジー(SKIET)が、2021年5月11日に上場しており、その財務内容なども公開されており、有益な比較ができそうです。(当初SKイノベーションとダブル・スコープとの比較を考えていましたが、SKIETの上場によりその単独の財務内容、業績も公開されていることを知り、方針を変えています。)

 

 

 とここまで書いて、結構な長文となってしまったので、こういった比較も、別のブログでしたいと思います。

おそらく、ダブル・スコープの数値が悪く、ダブル・スコープへの投資が心配になるような結果となるでしょう。

 

最新鋭の設備を揃え、最新技術の製品を大量に供給すること必要なセパレーター事業は、設備投資を支える財務体質や企業規模に加えて、その企業を支える国の産業政策も必要になり、それについてはまた別のブログでまとめますが、おそらく両方とも韓国の産業政策の保護、育成の対象となるでしょうが、セパレーター事業だけでみると、ダブル・スコープのほうがより、韓国政府の保護、育成の対象となる可能性が高いと考えています。

これについても、次のブログで自分の意見を紹介したいと思います。

 

関連本の紹介

 

 

 

 

 

  

 

 

関連サイト

SKイノ、創業以来最悪の赤字から黒字転換に成功 - 韓国経済新聞国際版

https://www.kedglobal.com/newsView/ked202105130007?lang=jp

 

東レが東燃ゼネラルとのバッテリーセパレータ次号の合弁を解消し子会社化に

http:// https://www.kankyo-business.jp/news/000368.php

 

韓国のSKイノベーションが電気自動車用バッテリーに約3兆円投資を発表 | EVsmartブログ

https://blog.evsmart.net/ev-news/sk-innovation-to-invest-30-trillion-won-to-manufacture-electric-vehicle-batteries/

 

韓国SKIET、ポーランドでEV向けバッテリーセパレータ工場の増設発表(韓国、ポーランド) | ビジネス短信 - ジェトロ

https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/04/3c5bb72faf33d5ee.html

 

韓国「SKイノベーション」がアメリカの大規模電池工場で起工式を開催 | EVsmartブログ

https:// blog.evsmart.net/ev-news/sk-innovation-us-battery-factory-2/

 

韓国SKイノベーション、バッテリー事業の分離・上場を検討 | ロイター

https://jp.reuters.com/article/sk-innovation-batteries-idJPKCN2E73HB

 

이번엔 습식 분리막 시장…LG-SK, 또 다시 붙는다

https://www.sedaily.com/NewsView/22OXOU7AB0

韓国語のサイトですが、
LG化学は、東レとヨーロッパの分離膜合弁工場設立を進めていて、
韓国のSKイノベーションの子会社SKアイイーテクノロジー(SKIET)を追撃へ。

といった内容の記事です。 

 

銘柄メモ

ダブル・スコープ6619  出光興産5019 ENEOS 5020 三菱ケミカル4188 東レ3042 

旭化成3407 住友化学4005

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