ダブル・スコープの 2021年12月度中間決算の解説(速報版)です。
一言でいうと、『悲観するような数字ではない、総悲観なら買いかも』という状況です。
で示唆した通り、8月12日の中間決算発表は多くの人の期待を裏切る結果となったようです。株式投資でも、人間関係でも仕事でも、普段の生活でも、過度に『期待しない』って大事なことですね。
チーズはどこへ消えた? (扶桑社BOOKS) はネズミが本能のままチーズを探すのように、ビジネスマンもチーズ(課題解決、幸福実現)を探すことだ大事で、そのために必要な何かを解いた本ですが、ダブル・スコープの中間決算を見ると、『在庫はどこへ消えた』という本が出せるかも知れません。
中間決算の決算短信によると
(決算補足説明資料及び決算説明会内容の入手方法)
当社は、2021年8月13日(金)に機関投資家・アナリスト向けの説明会を開催する予定です。この説明会の動画及び当日使用する決算説明資料は、開催後速やかに当社ウェブサイトに掲載する予定です
といった記載があるので、詳しい解説はこの内容を受けてからもしたいと思いますが、8月13日(金)での取引も気になる方もいると思うので、速報版として中間決算の解説をします。
中間決算の内容
2021年8月12日(木)にダブル・スコープが2021年12月度中間(2Q 第2四半期)決算を発表しました。
2021年12月度中間決算の概要--()は会社予想
売上高 127億(125億)
営業利益 △1億(15億)
経常利益 △6億(3億)
---1億未満は、1千万の桁で四捨五入して1億円単位にしています。
といった数字です。売上は会社予想を超えましたが、営業利益、経常利益は大きく会社予想を下回り、目標未達という状態です。市場(証券会社のアナリストや機関投資家の運用担当者)の予想は、会社予想より強気だったと思いますので、中間決算においては、市場の期待を裏切ったものになりました。
市場の予想という意味では、四季報の数字は会社予想と同じでしたが、SBI証券のアナリスト予想は、通期では会社予想を超える売上、利益を予想していましたし、中間決算も10億円を超える数字になるかが期待されるといったレポートを出していたので、発表された数字だけを見ると、失望を買うような決算のようです。
赤字の原因
営業利益が、予想より下回った原因はなぜでしょうか。
赤字の原因が、一過性の短期的なもので解決できるものか、もしくは解決が難しい長期的な課題、構造的な要因によるものかの分析が大事です。
赤字の原因は決算短信で説明されています。
2021年2Q決算短信 1.当四半期決算に関する定性的情報の(1)経営成績に関する説明から抜粋
在庫変動の影響による売上原価の増加が1,676百万円、販売管理費のうち運送費の増加が246百万円などとなっております。
2021年2Q決算短信 (4)四半期連結財務諸表に関する注記事項(継続企業の前提に関する注記)から抜粋
当社グループはこのような事象又は状況(補足:継続企業疑義注記となっている状況)を解消すべく、顧客との長期供給量の合意に基づくハイエンド車載用電池向け等の出荷拡大により売上高を拡大しましたが、第1四半期連結会計期間に比較して在庫評価損、運送費、貸倒引当金繰入額等の費用が増加した結果、当第2四半期連結累計期間は107百万円の営業損失となりました。
運送費の増加が246百万円という部分は、売上も増えているので、どの程度が、昨今の海運市況の高騰を受けているかわかりません。
1Qの決算短信にも『輸送船舶確保のため運送費が前年同期比132百万円増加したこと』といった記載もあるので多少は影響を受けていると思いますが、
海運は典型的な市況産業であり、かつ、一時的なものでなければ、いずれは価格に転嫁されるでしょう。運送費の上昇は、競合他社も等しく同じような状況で、解決が難しい長期的な課題、構造的な要因とはいえなさそうです。むしろ、運送費の上昇は、主要な顧客が韓国内にあり製造拠点も同じ韓国内のダブル・スコープに有利に働くかもしれません。
問題は、『在庫変動の影響による売上原価の増加が1,676百万円』です。
在庫はどこへ消えた
上期(中間)の営業利益の会社予想額 15億円で、実績の営業赤字は1億円ですが、
『在庫変動の影響による売上原価の増加が1,676百万円』、つまり約17億円の売上原価の増加がなければ達成できた数字です。
「会計では、売上原価と在庫はセットで考えます。在庫は要注意事項です」~経営者目線で考える中小企業の決算書の読み方・活かし方⑤ | 井上寧税理士事務所
といった解説を参照して頂きたいですが、この解説の
売上原価 = ①期首在庫 +②当期仕入高 -③期末在庫
の②当期仕入高は、ダブル・スコープのような製造業の場合、製造費用(仕入となる材料費、労務費:製造部門の人件費、外注費、減価償却費など経費を含む)と考えて、
売上原価 = ①期首在庫 +②製造費用 -③期末在庫
といった算式を理解してください。
売上 - 売上原価 から売上総利益が計算され、そこから販売管理費を引いたものが営業利益です。つまり、売上原価が低ければ、それだけ利益が増えます。
売上原価は、期末の在庫の金額を引くので、期末の在庫が多ければそれだけ売上原価が減り、営業利益が増えます。
『ダブルスコープは、売上原価が17億円も上がったので、営業利益の目標15億が達成できなかった。これがなかったら、赤字額は1億円なので、プラス17億円で、16億円となり、15億円の営業利益の目標は達成できた。営業利益の目標が達成できたら、経常利益の目標も達成できた。』
ということです。
具体的な数字を出すと、
2021年12月度中間決算の在庫、製造費用、売上原価は、以下のような状況です。
期首在庫 | 43億円 | 売上原価 | 114億円 |
製造費用 | 121億円 | 期末在庫 | 50億円 |
合計 | 164億円 | 合計 | 164億円 |
もし、期末在庫が予想ではプラス17億円の67億円あったはずだけど、実際に棚卸しをしたら、50億円分しかなかったということです。
もし期末在庫が67億円であれば、以下の表にように売上原価も114億円から17億円下がり、97億円になり、営業利益は17億円増えたのです。
期首在庫 | 43億円 | 売上原価 | 97億円 |
製造費用 | 121億円 | 期末在庫 | 67億円 |
合計 | 164億円 | 合計 | 164億円 |
それでは17億円もの在庫、期末在庫はどこへ消えたのか、原因をさぐっていきたいと思います。
在庫が消えた原因
① そもそも製造量が少なかった。⇒ これは関係ない。
この理由は営業赤字になった理由には該当しません。なぜなら、製造量が少なければ、製造費用も減るわけですから、売上原価も減ります。ですから、製造量が少なく、期末在庫が少ないのであれば、利益面では中立で、赤字、営業利益が大きく減った理由にはりません。
② 販売量(売上)が多かった ⇒ これも関係ない。
販売が増えて在庫が減ったのでしょうか。この理由は営業赤字になった理由には該当しません。なぜなら、販売量(売上)が多かったならば、期末在庫が減り、売上原価も増えますが、売上も増えるので、利益面ではプラス要因で、マイナス要因となりませんから、赤字、営業利益が大きく減った理由にはりません。
③ 盗難・紛失 ⇒ これも関係ない。
小売店などでは、いわゆる万引きなど在庫が減る原因ですが、転売など難しい商品で、一般の生活でも利用できない商品なんで、盗難で在庫が減ったなんてないでしょうw。
紛失も、運送や保管の過程で、従業員の不注意による紛失したということも商品の特性上なさそうです。
④ 品質劣化・破損・陳腐化 ⇒ 関係あるけど、一時的か、構造的かわからない。
1Qの決算短信に、
一部の製品在庫に関して296百万円の評価損失を計上し
とあります。
推測ですが、セパレーターは顧客の仕様毎に規格(単価、添加剤、性能、重さ、薄さ、耐熱性、強度など)が異なるようですが、特定の顧客仕様に製造したものが販売できる見込みがなくなったた可能性が高いと思っています。顧客側の問題か(顧客の発注内容の変更か)、ダブルスコープ側の問題(製品の品質の問題か)かはわかりませんが、いずれにしても、一時的なものか、構造的かものかは私には判断できません。
⑤ 試作品の製造 ⇒ 関係あるけど、一時的なもので、むしろ前向きなもの。
新製品のサンプル生産や、新製品の量産開始時期に量産品質確認生産の試作品が費用面で圧迫しているようです。
決算短信の連結業績予想などの将来予測情報に関する説明より抜粋
費用面では引き続き車載用途新製品のサンプル生産や、新製品の量産開始時期に量産品質確認生産などに伴う費用の発生は見込まれますが、
試作品は、売上原価に含まない研究開発費に計上されることもありますが、いずれにしても利益のマイナス要因です。
https://hyodo-ao.net/difference(兵頭税務会計事務所の解説)には
1. 新製品の試作品の設計・製作および実験のための費用は、発生年度の研究開発費として費用処理することになっている(実務指針2)
2. 製品を量産化するための試作に要した費用は、「研究開発費」とならないため、原則として、製造原価に算入される(実務指針26)
といった記載があります。
ダブルスコープの場合、量産開始前の試作品も多いようなので、製造原価、売上原価に反映される部分も多いようです。
つまり、製造しても、販売目的でない試作品、在庫とならない試作品が多く、在庫が増えなかったということです。これは、新規顧客、新規取引の獲得や新製造ラインの立上げに必須なもので、いずれも将来の売上、利益につながるものですから、一時的なものと考えて、むしろ、前向きに考えてよさそうです。
⑥ 量産の遅延 ⇒ 大いに関係ある。一時的な問題で時間が解決するか。
一番大きな理由は、量産化の遅延、つまり、思ったより、商品として売れるモノが作れなかったということです。⑤の試作品の製造とも関係しますが、試作品の製造は計画的なものですが、量産の遅延は計画的なものというより、原材料、製造設備、製造工程、品質管理など何らかの問題で発生したのでしょうか。
つまり、自社、顧客の要求基準が高いせいか、それに見合う品質、機能を実現するセパレーターが製造するのに苦戦しているようです。
2021年2Q決算短信 経営成績に関する説明
製造の状況に関しては、W-SCOPE CHUNGJU PLANT CO., LTD.(以下、WCP)において4本の既存ラインが順調に量産稼働を続けると同時に累計14,15号ラインの据え付けが完了し、製品試作を経て新ラインからの量産出荷開始を待つ状況となっておりますが、その開始に若干の遅れが出たことからW-SCOPE KOREA CO., LTD.(以下、WSK)で製造する車載案件向け商品のWCP新設ラインへの生産移管が進まず、グループ全体での生産最適化に数カ月の遅れが出ております。さらにWSKでは2023年後半に量産開始を予定する車載用途モデル等の量産ラインでの実験が続き、期中生産数量が期初計画比で減少しております。
2021年2Q決算短信 連結業績予想などの将来予測情報に関する説明より抜粋
当社グループの主力事業であるリチウムイオン二次電池向けセパレータ事業は、主要顧客向け車載電池用及び民生ハイエンド電池用途でのセパレータの需要伸びが続く中、増産体制の確立と生産性最適化への取り組みを推進しており、WCPにおいて新しい製造ライン2本の据え付けを完了しました。第3四半期連結会計期間以降にはWCP新ラインからの量産出荷を開始しWSKの一部の主力ラインで生産品目の切り替えを実施し生産性の高い製品の量産を開始する見通しとなっており、生産・販売量を大きく増やす予定にしております。
上記のような説明を見ると、既に15本の製造ラインの中で、量産化できていないのは、新設した2本のみです。既存の13本のラインが解決できているのであれば、新設した2本もダブルスコープの見込み通り解決できる可能性が高いでしょう。たとえ、遅れたとしても、今期中(2021年12月末あまで)に量産化されるのでしょう。通期の会社予想を変更していない点を考えれば、その見込みには、今はまだ自信があると推測できます。
むしろ、製造ライン1つに20億円以上かかり、製造ラインができても、量産化まで時間、コストがかかるということは、競合他社より、早い段階で積極的な投資をしているダブル・スコープに有利に働くかもしれません。
ただ、他社はうまくできているのにダブル・スコープができていないのも知れません。もしかしたら、ダブル・スコープ固有の構造的な問題かもしれません。セパレーターの専業で歴史も浅く、他の総合化学の大手企業と比べ製造ノウハウが不足していて、量産化がダブル・スコープが不得意な分野、そのタイミングが一番、苦戦する時なのかもしれません。
通期の会社予想
通期の会社予想は、売上280億 営業黒字 35億 経常利益10億は、据え置きです。
上期(中間)で15億の営業利益の予想が1億円の赤字です。単純に未確定の要素があるから据え置きしているだけで、現時点で下げるのがほぼ確定しているのかもしれませんが、下期だけで、上期目標未達分(16億円)をカバーするだけの36億円の営業利益は難しいと思うのですが、もし自信が多少あるから据え置いているということは、下期は、相当な期待ができるかもしれません。
上期は6月末で、下期はすでに7月が終わっています。7月の数字から、そういった自信があるとしたら、その自信は信頼性がありそうです。
繰り返しますが、『悲観するような数字ではない、総悲観なら買いかも』という状況です。
株価の行方
おそらく710円(2021年4月には、マッコリ―銀行を引受先に公募増資した金額、4月7日の終値株価 750円から5.33%ディスカウントした価格)を超えての下落は一時的で、710円程度で下値を固めて、その後は、2021年11月の3Qの発表を受け、2021年年末ぐらいには、800円ぐらいまでの株価には戻る思っています。
予想株価800円の根拠は上記のブログも参考にしてください。
通期の業績予想と実績が大きく変わらない、業績予想を見直し、利益が落ちても、それが将来の売上、利益拡大につながる要因だった場合を前提にしています。
速報版と言っても結構な分量になってしまいました。誤字脱字などあると思いますが、機会をみて、修正しています。
関連本の紹介
以上です。