湯之上隆氏と国会議員との質疑応答 後半(2021年6月1日衆議院・科学技術特別委員会)

▼目次

 

■はじめに

  の続きですが、国会(衆議院)の科学技術・イノベーション推進特別委員会(令和3年:2021年 6月1日(火曜日))で湯之上隆氏が参考人としての意見を開陳し、その後、質疑を行われています。

湯之上隆氏の著書や意見はこのブログでも何度か取り上げていますが、
国会での参考人としての発言も半導体産業(半導体の材料や製造装置も含む産業)だけでなく、自動車産業など幅広い産業の将来に示唆を富む内容と思われるので、利用されたスライドの画像とともに、その内容を紹介します。

 

湯之上隆氏の著書

日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ (文春新書 942)

日本「半導体」敗戦

「電機・半導体」大崩壊の教訓



■ 維新の会 青山議員の質問で、TSMCの強さなどついて語る

 

青山(雅)委員 日本維新の会無所属の会青山雅幸でございます。

 今日は、大変貴重な意見をありがとうございます。

 私からは、湯之上参考人にお伺いをしたいと思います。

 私は、率直に言いまして、今この半導体というものを、幾ら巣ごもり需要とかいろいろなことで騒がれているとはいえ、取り上げることが、一体どれほどの意味があるのかというふうに思っていたんです。

 今日、湯之上参考人のお話を聞いて、本当に、私が漠然と思っていたこと以外のことで大変重要なことがあるということ、そして逆に、私が直感していたことがやはりそうだったなと確証を持てた点、二つございまして、現実に基づいて物を考えていくということが本当に必要なことだと思っておりますので、湯之上参考人を中心にお話を聞きたいと思っております。

 私の申し上げることで違っていることがあったら、遠慮なく御指摘ください。

 私が思っていたのは、我が国の半導体産業は、ずっと携わってこられていたDRAMとか、確かに世界を席巻しておりましたけれども、いわゆるメモリー半導体の分野である。恐らく付加価値も高く、そして値段も高いロジック半導体は、かねてからインテル、昔はインテルかどうか、的なところ、そこにAMDが加わり、今、GPUでエヌビディアとかが入ってくる。一方、ファウンドリーの部分では、今日も盛んに話が出てくるTSMCが大変な力を持っている。

 そういった中で、漠然と半導体産業をどうにかしようなんといっても、もう到底追いつけるレベルではないと私は思っていまして、例えば、インテルの二〇二〇年の研究開発費は推定で百二十九億ドル、つまり、一兆四、五千億円ですかね。研究開発費の上位十社の総額は四百三十五億ドルで、六四%を占めている。到底、今の日本の企業には、この分野で追いつけるものではないなとは思っております。

 一方で、今日、参考人が大変熱意を持ってお調べいただいたとおり、確かに、そういった最先端のトップのところも、日本の産業なくしてはできないという状況もある。そこを非常に強く思って、やはり何をやるべきかを基本的にきちんと見据えた上で取り組んでいかないと、逆に邪魔するくらいな話である、政府のやることは。

 というのを思ったわけですけれども、その辺について、すごく漠然とした質問で申し訳ないんですけれども、まず、どういうふうにお考えなのか、ちょっと教えていただければ。

○湯之上参考人 何をやるべきかは、非常に重要です。

 アペンディックスの資料を示させていただきます。

半導体材料の韓国への輸出規制 

半導体材料の韓国への輸出規制 


 下手なことをやるぐらいならやめてくれというのが僕の意見なんですけれども、そんな下手なことの代表例が、二〇一九年七月一日に起きた韓国への半導体三材料の輸出規制です。これによって、日本の材料メーカーは大きな被害を被りました。

 

半導体の製造工程のフッ化水素

半導体の製造工程のフッ化水素



 半導体の製造というのは、大体こんなふうになっています。ウェハーがあって、そこを洗浄して、膜を積んで、リソグラフィーでパターニングして、エッチングして、また洗浄して、検査してと。二次元のウェハー上に三次元の構造物を作っていくんですけれども、大体これが千工程ぐらいになります。千チップが同時形成される。

 この洗浄というのが、全部で千工程だとすると、三百工程ぐらいあるんですね。そのうちの百工程ぐらいがフッ化水素なんですよ。フッ化水素の洗浄というのは百工程ぐらいあるんですよ。このフッ化水素を輸出規制しちゃった。

 三材料は、フッ化ポリイミド、EUVレジスト、フッ化水素なんですけれども、このフッ化水素がないと、テレビもできませんし、どんな半導体も、これは丸じゃなくてバツにした方がよかったのかと思うんですけれども、全部にインパクトがあるということですね。

 六月三十日まで大阪でG7のサミットをやっていたんですよ。安倍前総理大臣が、世界の貿易、安定して、仲よく手を取り合ってグローバルにとやっていた翌日に、韓国に対してこれをやったんですね。これは韓国中が大騒動になりました。これは第二の真珠湾攻撃と言われています。韓国のサムスンとハイニックスにフッ化水素の在庫がなくなったら、一個も作れなくなったところなんです。

 これで懲りて、韓国メーカーは、全て日本のボトルネックを洗い出せ、日本がボトルネックになっている材料、装置、部品、全部内製化を目指せというふうにかじを切ることになりました。これは、日本のフッ化水素メーカーにとっては大迷惑、ほかのメーカーも大迷惑なんです。シェアがどんどん下がっていくんです。成功したところから、日本はもういいと締め出されていくんです。ということが起きました。

 ちょっと話がそれたんですけれども、こういう政策をやめてほしいんですよ。

 今、TSMCがRアンドDセンターをつくばに造るなどということを言っています。僕の臆測ですよ、臆測なんですけれども、この第二の真珠湾攻撃が行われたときに、TSMCとかアメリカの半導体の僕の知人が、日本政府というのは怒るとこういうことをするのか、まさかと思うが俺たちにもしないよな、そういうことを言いました。TSMCに、一生懸命、経産省が口説いているわけですね。これを足蹴にしてしまうと、まさかと思うけれどもこれはやらないよなというような警戒感があるんじゃないかと思います。やむなくボードミーティングで百八十六億円計上して、RアンドDセンターを造るかもしれないよというような決定をしたんですけれども、海外から日本というのはこういうふうに見られているんですよ、何か怒らせるとこういうことをやると。だから、是非こういうことはやめていただきたいんですよ。

 では、何をしたらいいのということなんですけれども、一つ提案してもよろしいでしょうか。

 このTSMCと仲よくするということは、日本の未来にとって非常に重要なことなんです。だから、TSMCが今何に困っているということを考えていただきたいんです。

 TSMC、台湾では五月に入ってコロナ感染者が急増しました。今まで完璧に抑え込んでいたのに、コロナ感染者が急増しました。国際線のパイロットを経由してコロナが入ってきたんじゃないかと言われています。これに対してさっと動いたのはアップルです。アップルは、TSMCに対してワクチン支給、こういう協力を申し出ているわけです。

Appleが台湾のワクチンを支援

AppleTSMCへワクチンを支援


 TSMCがある台湾では、もっと困っていることがあります。水不足。

水不足の台湾のダム 

水不足の台湾のダム 


 これはダムなんですよ。今、貯水率が一%なんだそうです。TSMCは、工場全体で二十万トンの水を毎日使います。それで、もう水が足りなくて、まず一七%の取水制限を受けている上に、それでも足りなくて二トンのトラックでピストン輸送しているんですよ。もしそれが途切れたら、半導体工場は止まります。世界的規模でパニックが起きます。

 これはある意味、チャンスかもしれないんです。台湾にとってはピンチなんですよ、世界のインフラが止まっちゃうんですから。TSMCの半導体工場、今、水不足で綱渡りなんですよ。チャンスというのは、日本のトップである皆さんが台湾を訪問して、TSMCを訪問して、創業者のモーリス・チャンとか現会長のマーク・リュウに水不足の解消のための協力を申し出たらどうですか。喜ぶでしょうね。

 これを、ある車メーカー、日本最大の車メーカーで講演する機会があって進言したんですけれども、無視されました。何で我々が三次サプライヤーの台湾メーカーごときに気を遣わなきゃいけないんだと。冗談じゃない、TSMCなくして自動運転車をあなたたちは造れないんだよと反論しましたが。

 でも、日本政府が台湾政府を通じてTSMCに半導体の増産要請をするなんというのは、ちょっと小っ恥ずかしい話です。何か、小学生が先生にチクって気に入らないやつをとっちめているような構図にも見えます。

 日本政府が水不足で困っているTSMCを助けてあげたら、その見返りは大きいと思いませんか。こういうのを戦略的互恵関係、ウィン・ウィンの関係というのだと思います。是非、一考していただければと思います。

日本は水不足問題でTSMCへの支援を 

日本は水不足問題でTSMCへの支援を 



 ちょっと話がそれちゃったんですけれども、済みません。

青山(雅)委員 大変貴重な御提言、ありがとうございます。

 そこで、私、今日のお話を聞いていて非常に強く思ったのが、なぜTSMCがそこまで強いのか。あのインテルでさえも十ナノメートルで限界なところ、七ナノメートルというんですから、これはすごいですよね。二酸化炭素分子で二十個か三十個分くらいの物すごい微細なところですよね。何でそんなことができるのか、どういうゆえんがあって、どういうことで今そこまで強いメーカーになっているのかということを、ちょっと教えていただきたいと思います。

湯之上参考人 お答えします。

TSMCのプラットフォーム 

TSMCのプラットフォーム 

 

 TSMCがロジック半導体のプラットフォーム、デファクトスタンダードを二〇〇四年ぐらいから構築しちゃって、もう盤石なんです。

 垂直統合型、設計から前工程から後工程まで全部やるのを垂直統合型の半導体メーカーといいます。日本はかつてこれが多かったわけです。ところが、ファブレスファウンドリーというのは徹底的に水平分業を推し進めたわけです。

 

IC設計のイメージ

IC設計のイメージ 


 IPベンダー、例えばARMなんというのがありますね。あれはプロセッサーのコアを、設計段階も四段階ぐらいあるんですけれども、その上流工程にARMのプロセッサーコアを提供するわけです。IPとして提供します。それを基にしてファブレスが、例えばスマホ用のプロセッサーというのを設計するんですよ。それで、ファウンドリーがその設計したものを基にウェハー上にチップを作り、後工程の専門の組立てメーカーがパッケージングをするんです。こういうプラットフォームをつくったんです。

 

TSMCのセルライブラリー

TSMCのセルライブラリー 



 これは非常に簡単で、セルライブラリーというのがありまして、これは中馬先生言うところのデザインキットのようなものです。この中に、設計をするための部品が入っています。ファブレスは、ここに入っている部品をぽんぽんぽんと並べるだけで設計ができちゃうんですよ。まず、こういうセルライブラリーという仕組みをつくっちゃいました。デザインキットとも呼ばれます。

 そうすると、メモリーはここに配置、ARMのプロセッサーはここに配置、テキサス・インスツルメンツのDSPをここに配置、この論理回路だけ設計すればいいやと。もう非常に簡単。レゴブロックを作るように設計できるようになっちゃったんです。

熊手のイメージ 

熊手のイメージ 



 これは九州工業大学の川本先生というのが二〇〇五年に示してくれた構図なんですけれども、二〇〇五年ですよ、もうこれをつくっちゃったんです。TSMCのセルライブラリーにアクセスできれば、どこにいようとも、いつでも誰でも同じ設計ができますよ、こういう仕組みをつくっちゃったんです。

 これで、川本先生は非常にユニークなんですけれども、熊手、熊手で世界中のファブレス半導体をかき集めている、こういう構図をつくっちゃったんですよ。非常に便利なセルライブラリー、そこにアクセスしてぽんぽんぽんとキットを並べたら、もう設計が完了しちゃうんだと。

TSMCのファウンドリーシェア 

TSMCファウンドリーシェア 


 その結果がこれです。五十何%のシェアを独占。これがTSMCの強さです。だから、製造が強い、今、最先端を行っているからそこだけが注目されるんですけれども、そうじゃなくて、設計を制しちゃったんです。ファブレスが寄ってくるような、そういうシステムをつくっちゃった。これをプラットフォームとしてつくってしまった。これがTSMCの強さです。

以上です。

 

 

 

■国民民主党(の会派の) 高井議員からの質問で、経済産業省の失敗を語る

○高井委員 国民民主党・無所属クラブの高井と申します。

(中略)

 それでは、湯之上参考人にお聞きしますが、私、この一番最後のページの付録リストというのが、一から八まであって、全部聞きたいなというぐらい興味があるんですけれども、一番聞きたかった八は、今、青山委員の質問で答えていただいたので、ちょっと、七の車産業のボトルネックはTSMCというお話と、あと、あわせて、もう一つ私が聞きたかったのは、やはり、経済産業省がこの間駄目だった原因とか、あるいは何で駄目で、そしてこれからどうすべきかということを、さっき青山委員の質問で大分答えていただいた気はするんですけれども、もし足りない点があれば、その二点、教えてください。

 

○湯之上参考人 最初に、経産省が何で駄目だったかということを答えます。

 セリートというコンソーシアムに属していて、あすかプロジェクトという国家プロジェクトに参画したときのことです。あすかプロジェクトの目標は、日本半導体産業の復権というふうに定義されました。ところが、どうなったら復権と言えるんですか。それは分からぬのですよ。僕はそこに疑問を持った。僕は一課長だったんだけれども、部長に、どうなったら日本半導体復権したと言えるんですか。部長も分からない。今度、取締役のところに行ってきた。分からない。社長まで行った。おまえはつべこべ言わずに技術開発をやっていればいいんだと言われました。

 誰も日本半導体産業の復権の姿を具体的にイメージできていない。そんな中で、技術開発をやる意義を失ってしまった。日立を辞めたのはそういう理由です。

 あすかプロジェクトは、五年間を二回やりました。つまり十年間。その多くをNEC出身の渡辺久恒さんという方が社長をやられたんですが、二〇一〇年にセリート、あすかプロジェクトを閉じるときに記念冊子を作って、最後までセリート、あすかプロジェクトの目的がよく分からなかったと書いているんですよ。最後まで分かっていないんですよ。こんなものをやったって無駄だと思います。

 具体的に、シェアをどのぐらい上げるとか、あるデバイス、あるいはロジックデバイスならロジックデバイスの世界のシェアをこのくらいに上げるとか、何かこういうものがないと、復権と言われたって、ぼんやりした目的を言われても分からないんですよ。

 だから、経済産業省が何か政策立案して、金をつぎ込んで何かやるときに、具体的な、明確な、誰もが分かるような目標を書いていただきたいんですよ。日本の復権とか言われても、どうしたら復権なんだって分からない。これが第一です。

 

 

 次は、車産業ですね。車産業について、皆さん、もっと心配してください。日本の車産業は二〇三〇年ぐらいに壊滅しているかもしれません。壊滅ですよ。


 その理由は、今、ちょっと小さくて申し訳ないんですけれども、車載、車用の半導体メーカーは、四十ナノ以降を全てTSMCにぶん投げているんです。全てTSMCが作っているんです。

車載半導体メーカーのファブライト化

車載半導体メーカーのファブライト化

 世界的な構図というと、こんなのになっているんですよ。完成車メーカーがあります。一次下請、ティア1があります。日本だとデンソーなんというのがありますね。その下に車載半導体メーカーがあります。十社ぐらいあるんですけれども、日本だとルネサスというのがあるんですね。どこにどう注文しようと、最終的に四十ナノ以降は全部、TSMCに行っているんですよ。TSMCがちょっと作るのが足りないとなると、世界中が造れないという事態になるんです。

車載半導体のTSMC依存について 

車載半導体TSMC依存について 

 具体的に言うと、ちょっとややこしいので図を説明しませんが、TSMCの売上高で車載が一%足りない、その額は三千五百万ドル、五億ドルの中の三千五百万ドル足りないというだけで、日米独が、各国車メーカーが造れないという事態になって、TSMCに増産要請するという事態になっているんですよ。これをもっと車メーカーは深刻に受け止めてほしいんです。

TSMCの分野別半導体出荷額

TSMCの分野別半導体出荷額

 

 TSMCの寄与分というのは、車載の世界市場というのは大体五百億ドル、そのうち十五億ドル、たった三%なんです。その三%のうちの〇・一%ぐらい作れないというだけで世界中が大騒動になるぐらいインパクトがあるんです。

 

世界の半導体の分野別出荷額 

世界の半導体の分野別出荷額 

 もっと困るのは、これなんですよ。

 今、自動運転車、自動運転EV車というのをあちこちで開発しているわけです。ホンダがレベル3を出した。トヨタがレベル2を出した。この自動運転EV車の時代、二〇三〇年にはもう来ていると思いますが、この覇者は日本メーカーではないと思います。ここはアップルも乗り出しているわけですね。アップルに対して既存の自動車メーカーは批判的です。トヨタ豊田章男社長は、アップルなんぞ四十年早いとまで言っています。

 

Appleの自動運転EVの可能性

Appleの自動運転EVの可能性

 ところが、アップルにはストロングポイントがあるんですよ。TSMCの売上高に占める割合、TSMCの売上は五兆円ぐらいなんですが、二五%以上、一・三兆円以上をアップルが占めているんです。TSMCをコントロールしている、支配しているのはアップルなんですよ。

 

TSMCの売上(5兆円)の割合 

TSMCの売上(5兆円)の割合 

 車載用の半導体というのは、全ての車用の半導体を含めてもTSMCの売上高の四%にすぎないんですよ。ここにひょっとしたら百社ぐらいが群がっているんですよ、百社ぐらいが。一社当たり〇・〇四%ですかね。TSMCがどっちを優先するというのはもう火を見るより明らかですよね。


 自動運転車を造ります。そうすると、5Gの通信半導体が必要です。これは最先端が必要です。それから、人工知能半導体が必要です。これも最先端が必要です。これを十分に調達できるのはアップルなんですよ。日本の車産業界は、残念ながらこの調達力がないんですよ。

 ということを日本最大の車メーカーに警告したんですけれども、大きなお世話だと言われました。だけれども、政策立案者はもっと深刻に考えてください。これを調達できなかったら日本の車メーカーは壊滅ですよ。二〇三〇年、自動運転車はなくなります。ここを警告しておきます。何とかしてください。そのためには、TSMCとシェークハンドする必要があるんです。

 

 

自民党 松島議員の質問で、エルピーダ倒産の理由を語る

○松島委員 自民党の松島みどりでございます。

 今日、半導体は産業の米という懐かしい言葉を何回か伺いました。実は私、委員長からこのテーマでやらないかという声かけがありましたときにすぐ賛成いたしましたのは、私自身、政治家、国会議員という仕事に就く前、朝日新聞の記者をしておりました。一九八四年から八五年にかけて福岡で経済部の記者をして、シリコンアイランド九州には、日本電気、熊本や大分、そしてまた東芝、TI、三菱電機、いろいろなところに半導体メーカーが来て、それぞれの工場見学もいたしましたし、いろいろ勉強して、非常に胸を張る気持ちで日本の状況を感じたものでした。それがいつの間にこういうふうになってきたやらということで、今日お三方のお話を伺ったわけです。

 特に湯之上さんには、人生を懸けた、小説を書いていただきたいような面白さを感じながら伺っていたのですが、その中でおっしゃった、最後に言われた、台湾に日本からタンカーに入れてでもお水を届ける、台湾というか、特にTSMC。これについては日本と台湾の政治的な関係の難しさもあるかもしれないけれども、これは、産業を考えるときに、本当に要所要所のところにこれから声を上げたいと思っております。

 質問ですが、まず、超高品質をやっていたから韓国に負けた、そこまでは分かるんですが、TSMCに、まあさっきも少し説明がありました、ここは製造が強いだけじゃなくて設計もいろいろなところから取り込んでとあったんだけれども、何で日本のメーカーはTSMCになれないのか、それに近い、代わる存在とか代替できるようなところになれないのかという基本的な質問が一つ。

 もう一つ、付録のリストに書かれた中でまだ答えが出ていない、なぜエルピーダは経営破綻したのか。これも、経産省の問題と、あと、二社が派閥争いという壮絶な戦いというのがありましたけれども、そういったことによるんだろうか。この五番目に、ルネサス那珂工場の火災まで出てきたんですけれども、これも何だったんだろうかというのを教えていただきたいと思います。

 以上です。

○湯之上参考人 湯之上です。

 何か質問がいっぱいあるんですけれども、まず、何で日本はTSMCになれないの、そこからですね。

垂直統合型とファブレス・ファウンドリーの違い

垂直統合型とファブレスファウンドリーの違い

 垂直統合型の企業とファブレスファウンドリーは違いますというこの図を出したと思います。

 日本は、DRAMで強かった時代、DRAMで償却したファブでロジック半導体を作っていました。でも、各メーカー、NEC、東芝、日立、それぞれ違う設計ツール、違うセルライブラリー、違う製造プロセス。世界のデファクトスタンダードじゃないんですよ。それぞれ違うんです。

 ところが、TSMCを中心としたこのファブレスファウンドリー・モデルは、世界標準のIPコア、ARMのプロセッサーとか、それから、世界標準の設計ツール、EDAツール、シノプシスとかケイデンスを使い、世界標準の製造装置を使って世界標準のプロセスをつくる。世界標準なんですよ。だから、世界が、このセルライブラリーを使えば全部TSMCが作ってくれるじゃんといって、こういう構図になったんです。

TSMCのプラットフォーム

TSMCのプラットフォーム

 日本は、それぞればらばらだったんです。設計ツールも違う、IPも違う。それは使いにくいんですよ。日立に頼めばこれだけできるんだけれどもね、でもキャパはこれだけだよね、でも、NECに頼むとなるとまた設計をやり直さなきゃいけないんだけれどもねと。これが日本にTSMCが誕生しなかった理由です。

 次は何でしたっけ。

○松島委員 エルピーダの経営破綻。

○湯之上参考人 ああ、エルピーダが何で倒産しちゃったの。

エルピーダの4回の敗戦

エルピーダの4回の敗戦

 

 エルピーダは四回敗戦したと思っています。

 第一回目、日立とNEC、それぞれ単独でできなくなっちゃったから合弁会社をつくりました。もうこれで敗戦ですよ、実際は。

 僕はここに一年いたんですけれども、シェアは毎年半分ずつになっていった。二〇〇二年には潰れると思いました。ここに、坂本社長、テキサス・インスツルメンツじゃなくてUMCジャパンだったかな、の坂本さんが来て、シェアを上げていったわけですね。この功績はあるんですよ。

 ところが、シェアが上がっているところで、二〇〇九年に産業再生法適用というのを受けるんですよ。三百億円の税金が注入されるんですね。何でシェアが上がっているのにこんなのを受けるのと。

エルピーダの坂本社長の弁明 

エルピーダの坂本社長の弁明 

 更に、二〇一二年には経営破綻しちゃうんですね、あっけなく。

 このときに、経営破綻したときに、東京証券取引所でこんなことを言いました。まとめると、DRAM価格が下落しました、歴史的な円高です、東日本大震災がありました、タイに洪水がありました、以上と。これは全部、外部要因なんですよ。外部要因で倒産した。そんなんだったら誰でも社長はできますよ。外部要因に対応して何とかかじ取りをするのが社長の役割なんですよ。だから、この坂本さんの発言は全部間違っている。社長の発言じゃない。

 じゃ、何で倒産したのというと、こういうことになります。

 いいですか。僕は、ここに一年間社員として在籍したんですね。坂本社長が来て、シェアが急回復。

 

エルピーダの坂本社長の経営の問題点

エルピーダの坂本社長の経営の問題点  

 

 これは営業利益を示しています。赤は赤字、こっちは黒字なんですけれども。

 二〇〇四年から五年にかけて、エルピーダを二回調査しました。その結果、さっき、僕の一番最初の意見陳述のとき、日本は最後のときに三十枚近くのマスク枚数、微細加工の回数をやっていて、韓国より、韓国二十枚、マイクロンの十五枚より随分多いぞと。このとき、エルピーダのマスク枚数は五十枚もあったんですよ。とんでもないなと思ったんです。パソコン用でしょう、このマスク枚数の多さはあり得ませんよと。工程数は千を超えている、千五百ぐらいあって、検査工程も通常の十倍以上あるんですよ。

 ということを坂本社長に直接、これはまずいですよと言ったら、警告したわけですね。広報担当の取締役から出入り禁止になっちゃったんですよ。あいつは何かエルピーダの欠点を次々とあげつらうと、出入り禁止になった。

 要するに、日本半導体産業の過剰技術、過剰品質の病気はずっと引き継がれて重病化していたわけです。この利益率向上対策というのはほとんど行われなかったんです。

 僕は、内部に部下がいたので、何をしていたか全部分かっています。一回だけ利益を出したところはあるんですよ。だけれども、DRAM価格が下落して赤字になり、リーマン・ショックが起きて大赤字になって、円高が進行して、もうこれじゃ立ち行かないから産業再生法を適用して金を注入してもらって、だけれども、大震災とタイ洪水が起きてまた大赤字になって、その二〇一一年、倒産する直前の夏に日経新聞にこういう記事が出ました。エルピーダが設計を大幅に見直して工程数を大幅削減。やっとやったんですよ。だけれども、時既に遅し。倒産しちゃった。

 要するに、マスク枚数が多い、微細加工の回数が多い、原価が高い、利益が出ない。利益を出していないわけですよ。生涯利益は赤です。だから倒産したんです。これが答えになります。

 もう一つ、何かあったけれども。

○松島委員 ルネサスで火災の発生まで出ているから。

○湯之上参考人 ルネサスで三月十九日に火災が発生しました。後にも先にも、こんなにすごい火災になったのを見たことはありません、三十三年間の人生で。先輩に聞いても、半世紀、こんな火災が起きた記憶はないと。半導体工場では火災が起きない、これが唯一の取り柄だった。

ルネサス工場火災の写真

ルネサス工場火災の現場写真

 何で起きたの。幾つか理由が考えられます。僕の推測があります。

ルネサス那珂工場の稼働率

ルネサス那珂工場の稼働率

 まず、これはルネサス那珂工場の稼働率なんですよ。平均稼働率、大体六〇%ぐらいなんです。ちょっと見にくいですけれども、二〇一九年は半導体不況の年で、六〇%に落ちたまま。二〇二〇年、半導体不況から脱したんだけれども、六〇%のまま。多分これは、TSMCにぶん投げていた方が安いものだから、自分たちよりも工程数が短くて歩留りが高いからぶん投げているだけだと思うんですね。

 まず思い出してほしいんですけれども、二月十三日に福島県沖の地震があって三時間停電しました。五百台ぐらいある装置が、全部ばしゃあんと電気が落ちた。その後に、半導体不足だ、車載半導体不足だと、急速立ち上げをする。その最中に、三月十九日にひどい火災が発生したんですよ。この福島県地震による三時間の停電と火災には因果関係があると思っているんです。

 

ルネサスの売上・営業利益・社員数の推移

ルネサスの売上・営業利益・社員数の推移


 ここに至るまでの経緯はちょっと省くんですけれども、まず、これは社員数です。二〇一〇年には四万九千人もいた社員を、作田会長がオムロンからやってきて半分以下に減らした。今、ルネサスには一万八千九百人しかいません。三万人減らしたんですよ。工場関係者、プロセス技術関係者、三万人も減らした。そのような中で、急速に停電した五百台の製造装置を立ち上げる。全部説明すると長くなるので、安全点検がおろそかになっていたと思わざるを得ませんね。あるいは、ばしゃあんと落ちたから、一部、保護回路、保護回路がついていたはずなんですけれども、保護回路が壊れた、そういう装置があった、それが銅配線のメッキ装置だった。そう思っていたら、多分また起きるぞと思っていたら、二回目、ぼや騒ぎがありました。これは更に起きると思います。

 ですので、ルネサス那珂工場の火災というのは、二月十三日の福島県地震で三時間停電した、それを急速に復電して立ち上げなきゃいけなかった、三万人もいない、マンパワーはいない、ベテランもいない、安全点検がおろそかだった、これが火災の要因ではないかというふうに推測しています。

 以上です。

 

立憲民主党 岡本議員の質問で、車載半導体TSMC依存の実情について語る

○岡本(充)委員 ありがとうございます。

 今日は、参考人の皆様方に貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございます。立憲民主党の岡本でございます。


 今、湯之上参考人の方からお話がありました自動車産業のこれからということで、私、愛知県が地元でございまして、昨日もトヨタの関係者の方とお会いしていたわけでありますが、まさにこれからの新しい自動車の技術、自動運転、そして、EVなのか電動車なのかいろいろ言い方はあるとはいえ、我々は電動車ということで今主張してきているわけでありますけれども、この自動運転電動車が日本の車じゃないんじゃないか、こういう御指摘もあったわけであります。

 まずお聞きしたいのは、この実現ができたときに、先ほど来お話しのTSMCの中におけるいわゆる半導体のシェアが、今は使われているシェアは確かに四%かもしれないけれども、これが世界で実現したときにはもっと増えるんじゃないか。先ほどの話で、発言権はアップルが今は多いかもしれないけれども、これだけの5Gの半導体、それからAIの半導体、こういったものがもっともっと数量、金額が増えてくるというふうになってくると、ここは変わるんじゃないかというのが一つ目の質問で、どうなってくるとお考えなのか。

 もう一つは、この車をやはり日本が生産する、日本が世界をリードしていくためには今まさにその転換が求められているんだというのが参考人のお話だったと思いますけれども、これを日本の車にするそのチャンス、まだあるのではないかと思うんですけれども、そのためにするべきことというのは何なのか、お話しいただければと思います。よろしくお願いします。

 

○湯之上参考人 湯之上です。

 まず、今、TSMCの売上高に占める車載半導体の割合は四%しかありません。これはもっと上がるのではないか。上がる可能性はあるんです。あると思います。あると思いますが、TSMCは積極的にこれはやりたくないんですよ。やりたくない。

 なぜかというと、この車載半導体というのは非常に過酷な条件に耐え得るような仕様を求められます。その仕様をちょっと今日、この図の中には、アペンディックスには用意してこなかったんですけれども、コンシューマー用に比べるとはるかに高い、過酷な条件に耐え得るような、そういう半導体に仕上げないといけないんです。だから、検査工程がやたら多いんです。コンシューマー用に比べると、それこそ十倍以上やらないといけないんです。

 これが、車メーカーあるいはティア1のデンソーなどの言い分は、不良率一ppm、そんなことはあり得ない、百万個に一個不良があったとしても、それで交通事故が起きたら一体誰が責任を取るんだと、不良はゼロでなければいけないということを車載半導体を作るところに要求するんですよ。車載半導体を作るところはそれをどうやって実現するかというと、工業製品にゼロなんてあり得ないんですけれども、でも、ゼロに近づけようと努力はするんですよ。それをライン認定というんですけれどもね。

 例えば、トヨタの自動運転車用の何物かのチップを開発したとします、TSMCが。工程が千工程ある。プロセス開発が完了した。そうしたら、そのプロセスを、一年間ぐらい作り続けるんですよ、それで。安定的にできるようになったらライン認定というのをするんですよ。ライン認定ということをやると、もう製造装置もプロセス条件も一切変えてはいけないというふうに、こういう縛りを受けるんですね。TSMCはそんな縛りを受けたくないんですよ、本当は。

 元プロセス技術者から言わせれば、ここをこう変えればもっとスループットは上がりますよね、生産効率は上がりますよね、歩留りは上がりますよねと、改善点はもう山のようにあるんです、やろうと思えば。それを一切やるなと言われるんですよ。

 TSMCはこの四%を、そういうライン認定を受けて生産しているんですよ。そんな縛りを受けた生産を、じゃ、喜んで今後もやりますか。本気でやるとは思えないですね。今やむなくこれをやっているのは、日米独の政府から怒られちゃった、増産要請を受けちゃった、政府越しに作れと言われちゃった、やばいな、政府に盾突いてろくなことはないから、ちょっとこれは増産しようぜと。TSMCの心のうちを忖度すると、そんなような感じがします。だから、積極的にやりたいとは思っていないと思います。

 もしここに日本が、それでもTSMCさん、作ってくださいよということをお願いするならば、さっきのように困っているところを助けてあげるとか、もうちょっと、ライン認定は日本が一番厳しいんですよ。ヨーロッパや米国でもやっているんですけれども、日本が一番厳しいことをやっているんですよ。もうちょっとグローバルスタンダードのレベルに緩和してくださいよ、価格も上げてくださいよということをやらない限りは、これは上がらないと思います。

 

 

○岡本(充)委員 済みません。だからこそ、日本が電動車で自動運転の車を造っていく上でやらなきゃいけないこと、場合によっては、日本がその分野の半導体でもう一度世界に名のりを上げていくチャンスが出てくるんじゃないかということを私は思うわけですけれども、そのチャンスはあり得るのか。つまり、その先に日本製の自動運転電動車が登場する、それが世界シェアを上げていく、こういう絵が描けるのではないかと私は今お話を聞いていて思ったんですが、それについて先生のコメントをいただきたいと思います。

 

○湯之上参考人 お答えします。

 これはちょっと見にくいんですけれども、車載半導体メーカーは、四十ナノ以降を全部TSMCに生産委託していると言いました。ルネサスが生産できるのは六十五ナノまでです。六十五ナノ。それを一気に五ナノ、七ナノ、まあ自動運転用の5G通信チップとか人工知能チップというのは五ナノとか七ナノの最先端でないと作れないんですよ。いきなり六十五ナノから五ナノ、七ナノへジャンプできますか。できません。無理。せいぜい四十ナノを作ることができるかどうか。でも、三万人も首を切られちゃって、マンパワーはいないんですよ。それもかなり難しい。

 だから、自国生産はほとんど無理です。これが僕の答えになります。TSMCに頼むしかないですね。

○岡本(充)委員 車の生産は最終的に日本でできる可能性はあるのか、最後、その質問についてはどうですか。

○湯之上参考人 事自動運転用の通信チップ、人工知能チップについては、日本で生産できる可能性はほぼありません。TSMCに頼むしかない。これが現実です。

○岡本(充)委員 ありがとうございました。

 

 

 

立憲民主党 城井議員の質問で、東京エレクトロン人気の理由を語る

城井委員 立憲民主党城井崇といいます。

 今日は、貴重なお話をありがとうございました。深い絶望の中に希望の光が二つ、三つという印象で、今日のお話を伺わせていただきました。

 お三方にそれぞれ伺いたいと思いますが、そんな状況を見ている若い世代が飛び込んでくれるかどうか、どう育てていくか、この点でお伺いしたいと思います。それぞれお答えいただければと思います。
(中略)

湯之上参考人 湯之上です。

 中馬先生と基本的に同じなんですけれども、東大では、二年生から三年生になるとき、進学振り分けというのがあるんですね。かつては電気電子というのは最も人気が高くて入りにくいところだったんですが、もう十年以上前からそれが最下位になっている、転落しちゃって、人気がなくなっちゃった。もう十年以上前です。こんな状態が十年以上前から続いているんですね。

 僕は、東北大学の工学部博士課程で、一日八時間、半導体の講義をしています、単位を取らせるために。大体五十人から百人ぐらいの博士課程が参加して半導体の講義をやるんですけれども、合間に、あなた、どこに行きたいと聞くんですよ。半導体はどうと言って返ってくる答えは、東京エレクトロンと来ます。ルネサスとかソニーとかキオクシアとか、来ないんですよ。東京エレクトロンと来ますよ。東京エレクトロンは、半導体製造装置で幾つか独占的な分野があって、給料の、あるいはボーナスのランキングで常にトップにいるわけですよ。あそこに行くと高給取りになれると。

 東京エレクトロンという回答をする人間が何人かいます。だけれども、ルネサスとかキオクシアとかいう回答をする人間はいません。中馬先生と同じになりますが、その企業、産業が輝いていないと優秀な学生は行かないんです。そういうことになっていると思います。

自民党 関議員の質問で、半導体の材料、製造装置産業の日本企業の強さの理由を語る


関(芳)委員 今日は、参考人の皆様、本当にありがとうございました。大変勉強になりました。

 それで、お伺いしたいのは、今現在、湯之上先生がスクリーンで挙げていただいておりますように、日本のいわゆる製造メーカーですとか素材部門のところの強い企業がまだたくさんあります、そういうふうな企業をもっと育てていくことこそが日本の進むべき道だと、お話をお伺いして本当にそのとおりだと思いました。

 このそれぞれの企業は、日本の企業は企業で、すごく努力をしてここまで来たんだと思うんですが、ここまでのシェアを部分的に取れた日本の企業の各経営者は、こういうふうな部分のところだけ強くしようという経営方針を取って、そこは非常にリスクも多いんだと思うんですが、こういうふうに特化して頑張ってきたんだと思うんです。そこのところについて、もう少し詳しく教えていただきたいのが一点。

 その現在今強い日本の企業の方々も、一方、世界においては非常に、常在戦場で、ライバル会社とは開発競争されていると思います。それにおけるいわゆる投資対効果のところが見込めるかどうかも、これも大変な判断だろうと思うんですが、経営としてのペイするかどうかの判断というところは今後ますます厳しくなる中において、湯之上先生が取材をされている中において、日本の今強い企業の人たちも、今後もこの分野でしっかりと集中、特化をして頑張っていこうと思われているような方針を取られているのかどうなのか。そこら辺、現状どのような状況なのかを教えていただけたらと思います。

湯之上参考人 最初の質問なんですけれども、日本には、特徴的に強い製造装置、あるいは材料だとほとんど強いですね。これは、トップメーカー、例えばメモリーだとサムスンファウンドリーだとTSMCにぴったりくっついて、彼らの言うことを一言一句漏らさず聞いて、それを反映する材料なり装置なりを提供し続けているからできていることなんです。

 日本にトップメーカーがあったときは日本にくっついていればよかった。もう日本にトップメーカーはないんですよ。だから、サムスンかTSMC、ここにぴったり張りつくしかないんですね。その努力はすさまじいのです。そこから外れちゃうと、あっという間に脱落してしまう。

半導体材料の企業シェア 

半導体材料の企業シェア 

半導体製造装置の企業シェア 

半導体製造装置の企業シェア 



 よく見ると、例えば製造装置なんかだと、一強プラスその他という構造ができつつある。一社総取り。二、三社というところもあるんですけれども、それにしても、一強若しくは二強プラスその他の構造になりつつある。脱落すると浮上しないんですよ。どの企業も一強を目指している、その道の一強を目指している。脱落者には利益なし。その結果がこうなっている。これはもっと今後進むと思います。

 これが一つ目の質問になりますね。トップ半導体メーカーとくっついて、その需要を取り込んで材料なり装置開発をやっている。一歩外れると脱落する、こういう危機が待っている。

 二つ目は何でしたっけ。

関(芳)委員 二つ目は、今このように強く日本の企業で頑張っている企業も、ますます世界との競争が、同じ分野において自分の会社との競争が激しくなる中において、今後どのような方針を取ろうとされているのか、お願いします。

湯之上参考人 より、トップ、TSMCにくっついていこう、あるいはサムスンにくっついていこう、それ以外は見向きもしない、それを鮮明にする。トップのところから、一番先端を行っているところから、これを何とかしてくれよ、この材料をこうしてくださいよ、この装置はこういうふうにしたいんですというニーズが出て、それを実現すると百台買ってくれるとかというようなビジネスにつながるんですよ。だから、彼らは、トップが言うニーズ、これに応える、スピードを持って応える。スピードが命ですね。時間をかけている暇はないんですよ。

 だから、例えばEUVのレジストでいうと、日本が九〇%のシェアを持っている。ほぼ一社独占なんですけれども、これはTSMCと朝会、昼会、夕会をやっているんですよ。オンラインだからできるんですね。朝、昨夜こういう問題が出た、対処しろ。昼会、どうだ、できたか、こういう提案がある。夕方、やってみたけれども駄目だったぞ。それでまた次の朝会。そういうように、TSMCの要求を全てクリアしていく、これによってこの独占的な地位を築くことができている。これをやり続けるしかないんですよ。

 スピード、このスピードに遅れたら次々と取って代わられる、そういう事態になっています。このように企業は努力しています。

立憲民主党 津村議員の質問で、人材の育成について語る


津村委員 田嶋要委員長が、先ほど、本日、半導体をテーマに選んだ趣旨を詳しく述べてくださいました。

 その延長線上で、お三方に一問だけ手短に聞きたいと思います。


 各分野ごとの課題もあるんですが、ちょっと大きく、これから日本の科学技術政策あるいは科学技術そのものを担っていく人材を日本の中で育成していく、もっと言うと、リクルートしていくためにどういう工夫が、私たち政治家が心がけていけばいいかということについて、お三方から一言ずつアドバイスをいただければと思います。

湯之上参考人 大変難しい問題なんですが、現実的に起きているのは、現職の技術者も大学の先生も、この分野についてはどんどん海外に出ていっちゃっています。これをどうやって止めるのか。

 止まらないんですよ。なぜなら、年俸三倍、五倍、十倍を出すからです。止まらないんですよ。止まらない。これに対して、答えはないです。日本の企業が十倍出せるのか。出せない。だったら、個人の自由ですから、年俸が高いところへ行っちゃう。これはもう止められないんですね。止められない。

 これに対して、僕、答えはないんですよ。どうやってそこに、日本に優秀な人材をいさせて、優秀な技術開発をさせるかという答えは、僕、ないです。

 それからもう一点。ちょっと話は変わるんですけれども、経済産業省半導体を管轄しているのは商務情報局というところだと思います。デバイス戦略室というのが以前あって、今呼び方はちょっと変わっているんじゃないかと思うんですが、その局長だとか課長だとか室長がころころ替わるんですね。早いと一年、二、三年で。替わった室長、課長、局長が何か功績を上げようと、一番功績を上げるのに目立つのが、どこに何千億円出した、これですよ。それの失敗の山が、さっきの、経産省が出てくると全部失敗、あそこなんですよ。

 だから、経産省の人事をきちんとしてもらいたい。やったらやった分の後始末をしてください、反省、分析してください、そういう仕組みをつくっていただきたい。でないと、今後も失敗は続くことになります。

 以上です。

2021年6月1日衆議院・科学技術特別委員会の内容は以下(↓)のブログにも記載しています。

 

chanmabo.hatenablog.com

 

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以上