W-SCOPEの「設備投資決定及び欧州法人設立に関するお知らせ」の考察

 ▼目次

 

 

 

■はじめに

2021 年10 月14 日に開示されたダブルスコープのプレスリリース「設備投資決定及び欧州法人設立に関するお知らせ」について、調べた内容や考えた内容を紹介します。

 

■開示の内容

まず、開示の内容を記載します。

2021 年10 月14 日
各 位
会 社 名 ダブル・スコープ株式会社
代表者名 代表取締役社長 崔 元 根 (コード番号 6619 東証第一部 )
問合せ先 取締役 大 内 秀 雄

        設備投資決定及び欧州法人設立に関するお知らせ

当社連結子会社である W-SCOPE CHUNGJU PLANT CO., LTD.(以下、WCP)は、今後の欧州 EV向け需要の増加に対応するため、設備投資を行うことを決定しましたのでお知らせ致します。
<概要>
1. 今後の欧州EV 需要の増加に対応するため、まず韓国WCP の工場用地に、投資額約120 億円で 2 本の成膜ラインを設置します。稼働予定時期は 2023 年下期とし、これにより WCP の成膜ラインは 8 本となります。

2. それ以降については、年内にWCP100%子会社の欧州法人(設立資本金1万USD)を設立し、当該法人において 2025 年までに 8 本の成膜ラインと 16 本のコーティングラインの設置を進める予定です。今回はその第 1 段階として、4 本の成膜ラインの設備投資を決定しました。これらの設備は 2024 年上期から順次量産を開始する予定です。この欧州法人設立の目的は、欧州の炭素排出権規制等による自動車メーカーの欧州域内での原材料調達ポリシーに伴い、取引先からの要請で域内での現地生産が必要となるためです。
なお、2021 年~2025 年の 5 年間に欧州で総額約900 億円の投資を予定しています。

<生産量>
これらの設備投資により、2021 年末基準での当社グループ全体の供給能力の 2 倍強となる見通しです。(詳細は非開示とさせていただきます)。

<業績への影響>
2025 年には、連結売上高で年間約7 億USD を想定しています。
なお、欧州法人の詳細は現在未定ですので、詳細が決まりましたら開示させていただきます。
以 上

■今後の欧州EV 需要の増加に対する投資について


まず、「今後の欧州EV 需要の増加」について、改めて調べましたが、
2020年では、EU加盟国を中心としたヨーロッパでは、EVが新車市場に占める割合は5.4%と19年の1.9%から急拡大しています。
2021年7月の国別シェア一覧電気自動車のシェアとノルウェー    64.1%、ドイツ10.8%、イギリス9.0%、フランス6.5% と欧州全体では10%程度といわれ、PHEVも含めると17%程度といわれます。

ここでいうEVは「BEV」「Battery Electric Vehicle」、つまり100%電気自動車を意味しています。「PHEV」は「Plug-in Hybrid Electrical Vehicle」、外部から充電可能なハイブリッド車(ガソリン車と電気自動車のハイブリッド)を意味します。
PHEVはガソリンでも走行可能な分、バッテリーの搭載量は少ないのですが、今後はEV(BEV)が主流になると言われています。販売台数もPHEVが減り、EVが増えています。

ただ、ヨーロッパでは、将来の自動車はEVでなければならないとEU政府や各国の政府が決めており、それは民主主義社会のEUで支持されているとのは事実で、EVの販売が急激に増えているというのも事実です。

世界のEVのバッテリーは、中国・韓国企業がシェアの過半を占めていますが、ヨーロッパもそれは同じです。バッテリー輸入額のEU 輸入に占める比率は中国:54.4%、韓国:22.6%といわれています。

欧州自動車産業が創出する総雇用(部品産業などの間接雇用含む)は 、EU の総雇用の 6.7%を担っているといわれ、自動車産業の EV 化が進むと、こうした欧州域内の雇用維持が難しくなるという労働問題も浮上するので、輸入に依存しないで、EU、各国政府がヨーロッパ域内での生産を補助金の支給など奨励しています。

 

それに応える形で、中国、韓国企業はヨーロッパ現地で生産拠点を設けています。
韓国企業の事例だけでもここで、紹介します。

 

■サムソンSDI ハンガリー 2017年生産開始
2021年2月に、サムスンSDIは欧州におけるバッテリー生産拠点であるハンガリー工場に9000億ウォン(約1000億円)を投資して、
生産能力を大幅に引き上げ、30ギガワット時(GWh)GWから40GW後半まで拡大させる計画を発表している。

 

■LGエナジーソリューション ポーランド 2018年生産開始
2021年1月に、LGエナジーソリューション(旧LG化学バッテリー事業部門、以下LGと略)が、ポーランドにあるバッテリー工場を増強する。3億2,000万ユーロ(約403億円)を投じて年産能力を70GWhから100GWhまで拡大させる計画を発表している。

 

■SKイノベーション ハンガリー 2018年生産開始
2021年2月に、6,810億フォリント(約2,352億円、1フォリント=約0.36円)を投じ、ハンガリーに新工場を建設すると発表。建設開始は2021年第3四半期(7~9月)の予定し、生産能力17GWhから、57GWまで拡大させる計画を発表している。

『今後の欧州EV 需要の増加に対応するため』というのは、具体的にどこの企業の需要かはわかりません。
現在取引があり、売上の8割以上を占めているサムスンSDIの需要の可能性が高いでしょうか。

 

なお、競合(同業)他社ともいえるSKアイイーテクノロジー(SKIET)は、2021年からポーランドで、セパレーターの生産を開始していますいます。
今年2021年2月の報道によると、投資金額は1兆2674億ウォン(約1180億円)で2024年に稼働予定で、年間30GWhから60GWhのセパレータ生産量に拡大させる計画を発表している。1GWhで、1.5万台の自動車のEV利用量に相当します。

 

 

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■WCP100%子会社の欧州法人での設備投資

欧州域内の現地生産を要請している取引先についても考えてみました。

『欧州の炭素排出権規制等による自動車メーカーの欧州域内での原材料調達ポリシーに伴い、取引先からの要請で域内での現地生産が必要となるため』とありますが、その取引先は、サムスンSDIか、それ以外かもわかりません。

「2021 年~2025 年の 5 年間に欧州で総額約900 億円の投資」
という現行の韓国の生産拠点の生産設備と同等以上となる投資額の大きさから考えると、サムスンSDI以外の取引先が可能性が高いと思います。

2020年度決算の連結固定資産額(償却前)約544億円ですので、
これが韓国の生産設備の投資額とだいたい同じと考えると、欧州で総額約900 億円は、1.65倍の数字です。

2020年度決算の連結固定資産額(償却前)約544億円で、
2021年度売上予想は、約280億円(償却前固定資産の53%の比率)ですから、
900億円投資したら、償却前固定資産に対し同じ比率の売上が見込めると考えると、その投資から見込める売上477億円です。

上場を予定しているW-SCOPE CHUNGJU PLANT CO., LTD.(WSC)とは、別の生産子会社のW-SCOPE KOREA CO., LTD.(WSK)は、LGの生産設備を買い取って、設立された経緯や、WSKやWCPもLGの工場と場所が近く以前は売上の過半をLGを占めていたことから、サムスンSDI以外の企業はLGかもしれません。

もしかしたら、EU域内のバッテリー企業として急成長しているノースボルトなど韓国以外の企業の可能性もありますが。

「2025 年までに 8 本の成膜ラインと 16 本のコーティングラインの設置を進める予定です。」とあります。

成膜ラインとは、ポリエチレンやポリプロピレンといったプラスチックの一種を薄く延ばして、膜を作成するラインで、ダブルスコープのこう生産工程の技術が高く、価格競争力があると言われています。

コーティングラインは、その名の通り、シリコーンやセラミックの粒子が主材料となると塗料を塗布する設備です。


ダブルスコープは当初は、コーティングしないセパレータの売上が多い時期もありましたが、最近では、車載、民生ともに耐熱性に優れた高付加価値のコーティングしたセパレータの売上が増えています。

コーティングラインの数が、成膜ラインの数と比べて多いのは、高付加価値のコーティングしたセパレータの売上が好調で、その成長が高いことがうかがえますので、その意味で、ダブルスコープの戦略は成功しているのかもしれません。

 

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■この時期にプレスリリースした理由は

この時期にプレスリリースした理由も考えてみました。

2015年から2018年まで毎年ダブルスコープは8月に中期経営計画を発表していましたが、新型コロナの流行など情勢が不透明なことになったこともあり、ここ数年は発表していません。

この時期にプレスリリースしたのは、WCPの上場に深く関係しているのかも知れません。
上場する場合、上場する理由、上場した市場で資金調達が必要な理由の開示が、上場会社は求められますが、この上場理由を子会社のWCPが開示するのに、その親会社で上場しているW-SCOPEが開示していないのは、適当でないと思われ、W-SCOPEも開示したのでしょうか。

 

■株価が上昇した理由は

今回の開示は、10月14日の取引時間後に公開されましたが、それを検知していたかのように、10月14日の取引時間から始値829円・終値880と6.1%株価は上昇しています。
翌日の終値も、927円と47円、5.3%上昇しています。
直近の2021年10月20円で終値、940円と上昇傾向は続いているようです。

為替や市場全体の動向など別の要因もあったかもしれませんが、今回の開示の前後に上昇していますから、今回の開示内容が株価上昇の原因だったと考えるのが自然でしょう。

上昇した理由はなぜでしょうか。

「2025 年には、連結売上高で年間約7 億USD を想定しています。」といった内容が、
株価上昇の理由かもしれませんが、私は上昇する理由でもないように思えます。

上昇する理由と思われないのは、
以前、2017.7月の日経ビジネスの取材記事で
「25年には最低でも1000億円を目指す」(崔社長)という発言が紹介されていますしが、セパレーターの市場自体が、2021年から2025年には2倍強になると予測されているので、2021年の売上が、280億円程度からすると、現行のシェアを維持すれば、560億円、5億USDの売上が可能で、プラス2億USDという数字がそれほど、株価の評価を変えるようなニュースではないと思われます。

そもそも、ダブルスコープの計画の数字自体が、それほど信頼がおけません。

2017年の中期経営計画では、2021年12月期の売上、営業利益は、380億円~480億円、70億円から150億円、を計画上の目標としていましたが、実際の数字は、直近の今期の業績予測で売上280億円 営業利益35億円という数字で、中期経営計画の数字から、大幅減額した数字になっています。


■上昇したのは希薄化の懸念がなくなったからか

WCPの子会社で、欧州子会社を設立ということで、欧州への投資は、WCPがその資金で実施することから、W-SCOPEが増資して資金調達する可能性は低くなりました。
希薄化の懸念がなくなりましたが、収益機会の獲得する期待も減ったのですから、
これが理由でもないようです。

■投資額の大きさが期待されたのか

売上でなく、投資額の大きさが株価上昇の原因かと私は考えました。

売上はあくまで予想ですが、投資額は会社が決めれば実行できます。

その数字を開示したことは、ダブルスコープが強い自信が感じられたのかも知れません。

以前の中期計画でも、売上の予測はありましたが、投資額のついては説明されていませんでした。

2021 年~2025 年の 5 年間に欧州で総額約900 億円 という投資額の大きさだと思います。今回売上の予想が出たのが、2025年度ですが、この投資額から考えると、2026年以降大きな売上成長、もちろん利益成長も確実視されると考えた投資家が多かったからだと考えます。

再掲ですが、
2020年度決算の連結固定資産額(償却前)約544億円で、
2021年度売上予想は、約280億円(償却前固定資産の53%の比率)ですから、
900億円投資したら、償却前固定資産に対し同じ比率の売上が見込めると考えると、その投資から見込める477億円が見込めます。

現行設備での売上も1.5倍程度の成長が見込めると420億円 と477億円=897億円で、
『2025 年には、連結売上高で年間約7 億USD(約800億) を想定というのは控えめ数字である、この設備投資額であれば、2028年位には1千億円程度の売上成長が見込め、200億円ぐらいの営業利益が期待できる。』(あくまで期待の例)といった期待が高まったのかも知れません。

 

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■株価は究極の先行指標

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「株価の動きはこれが予見されていたのか」と結果論的な話ですが、納得することが多いと聞いたことがあります。

というわけで、今回の上昇の根拠となようないいニュースが数か月後に報じられることを楽しみにしましょう。

では、今は買いかというと、2021年11月11日 取引時間後に、3Qの決算発表を予定されています。決算発表後、下げることが多いこの会社の傾向から、決算発表後の下げを期待して、私は、買い増しは少し待とうと思っています。

 

 

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■参考にしたサイト

https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/01/8df8fd9b2459a2f5.html

https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/02/7aa897a353f2272c.html

https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/04/3c5bb72faf33d5ee.html

https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2021/06/report_210617.pdf

https://npi.or.jp/research/2021/09/16101747.html

https://news.yahoo.co.jp/articles/09f7f6f26046b1710c1ebc5625bc1b9db955688b

https://news.yahoo.co.jp/articles/fd11d9434e2c84c42128027a10006c290569cb76



以 上です。