第4章 中国市場の変化と欧米、インド-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで

 

電池の覇者 EVの命運を決する戦い | 佐藤 登 著 を読みました。その要約、所感、関連する銘柄など紹介したいと思います。今回は「第4章 中国市場の変化と欧米、インド」についてです。EV化に伴う石炭火力発電のリプレース、EV用電池の安く生産技術で注目される銘柄も調べてみました。

 

 

 

 

 

に続けてのブログ記事です。

 

■要約(要旨、抜粋)

日本の半導体、液晶パネル、薄型テレビ、モバイル用リチウムイオン電池でも同じようなことが過去に起こった。今は、韓国の液晶パネル、薄型テレビ、モバイル用リチウムイオン電池も中国勢にシェアと利益を奪われている。

日系部材業界は、得意な先端材料技術開発をベースに持ちながら、低価格材料でも中韓企業と戦えるビジネスを強化する必要があるはずだ。電池部材事業では、品質の安定性を武器にし、中韓の部材と戦うビジネスを構築しないと、先端技術だけでは生き残りが難しくなる時代を迎えることになるだろう。

ここで言いたいのは、単なる価格競争に向かうことではなく、安く作るための生産技術の改革でコスト競争力を高めるということだ。高性能、高機能だけが先端技術研究開発ではないはずだ。プロセス改革や低価格の素材を活用する部材開発も先端技術開発であり、さらには生産拠点の見直しも価格競争力を高め、ビジネスを優位に展開できる解の一つとして大きな柱になるであろう。

と部材産業の競争力は、安く作るための生産技術であると述べている。

また、中国、欧米、インドのEV市場の状況についても紹介している。

中国

(中国は)エンジン技術では先進諸国に勝てるシナリオは作れないと完全に認めていることから、エンジンの無いEVは戦略的に絶好のターゲットと言えた

そして中国ローカルの自動車メーカーと電池メーカーを手厚く優遇することで、競争を優位に持ち込むという、あからさまな戦略をとることに余念がなかった
補助金を受けるためには「バッテリー模範基準認証」を取得した企業、いわゆる「ホワイトリスト」に登録された企業から電池を調達していることが条件とされていた。
残念ながら、外資系電池メーカーの登録は2020年に入った時点でもいまだにない。


欧州
欧州で2021年から適用されるCO2規制強化は電動化を排除しては成立しない。それゆえ、欧州自動車各社はジャーマン3を中心に大胆な電動車シフトを始めている。ZEV規制が撤廃されても欧州勢は電動化の手を緩めることはできない。
自動車業界で「ジャーマン3」と言われるのは、フォルクスワーゲンVW)グループのアウディBMWダイムラー

米国
米国では、オバマ政権下で制定された2025年までの自動車の燃費基準を撤廃して、2021年以降の新基準を策定することを、米環境保護局(EPA)と米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)が2018年8月2日に発表した。その中で、全米での燃費基準を統一する目的から、10州が導入しているZEV規制もその対象となり、廃止の方向で交渉を進めるとのこと。

インド
インド政府は、EVを2030年時点で40%規模(400万~500万台)まで拡大することを目標にしている。(2017年、インドでの自動車販売数は約400万台です。)

 

 


■所感(感想)

●インドの発電事情から、見直されるかもしれない石炭火力発電

インドは世界7位の国土面積、人口は13億8000万人。遠からず中国を抜いて世界最大になると言われてます。
2017年、インドでの自動車販売数は約400万台ですが、2030年にはEVだけで400万台まで拡大するといわれています。

インドのEV車の拡大を考えると、火力発電関連、特に石炭火力発電に追い風かもしれません。

デリーの交通渋滞、大気環境は中国より酷いとされ、大きな社会問題と化している。PM2・5は300~500μg/(日本基準は70μg/以下)に達し、切実な課題である。教室でも本が読めなくなることもあり、その場合には学校が休みになるほどだそうです。
インドの発電は石炭発電(しかも低効率)が80%以上、電力負荷が上限を超えることで瞬間停電(瞬停)は頻繁に発生しています。


今後の経済成長、更なるEV化で旧式で二酸化炭素やCO2以外の大気汚染物質も排出量が多い石炭火力発電が、最新型にリプレースされるて行くのは可能性が高く、
これはインドだけでなく、多くの国でも発生する流れだと考えると
今は逆風下にある石炭火力発電、その排煙脱硝装置に強みのある企業に追い風が吹くような気がします。

これは脱炭素、ESGといった潮流で、関連の投資が減少し、石油の価格が逆に上昇し、石油開発、精製の会社の収益が向上するのと同様に、
石炭火力発電も、競合が撤退し、関連の投資が減れれば、石炭火力発電の関連銘柄の収益も向上するかも知れません。

世界最高水準の発電効率 | もっと知ってほしい石炭火力発電 | J-POWER(電源開発株式会社)

温室効果ガスのCO2を削減するためには、省エネルギーの他に、効率的に電気をつくり、化石燃料の使用量を減らすことが必要です。燃焼によって発生するCO2は同じ電気をつくる場合、石炭は天然ガスと比べると2倍近くになりますが、日本の石炭火力は蒸気タービンの圧力や温度を超々臨界圧(USC※1)という極限まで上昇させる方法で、欧米やアジア諸国に比べ高い発電効率を実現しています。
仮に日本のベストプラクティス(最高水準性能)を排出の多い米国、中国、インドに適用した場合には、日本のCO2総排出量より多い約12億t-CO2の削減効果があると試算されています。
J-POWERの石炭火力発電設備は、最先端技術の開発に自ら取り組み、積極的に採用してきたことにより、世界最高水準の熱効率を達成しています。

USC: 超々臨界圧発電

 

●安く作るための生産技術には原材料コストの削減も必要

電池やモーターの開発は日々進んでいる。その中で各元素の役割が極めて重要な位置にある。中でもコバルトやリチウムなどレアメタル希少金属)が様々な機能を果たしています。
安く作るための生産技術には原材料コストの削減も必要です。

日本の戦前の経済成長の主役となった綿紡績産業の発展は、日本の綿花産業が保護せず廃業させて、世界中から原材料となる調達、購入できた田野もその理由といわれます。
日本の戦後の経済成長の主役となった鉄鋼や石油化学産業の発展は、日本が資源がなく、世界中から安い資源を調達、購入できたのものその理由と言われています。

その意味で、世界中でコバルトやリチウムの開発投資をしている企業は、安く原材料となるなニッケル、コバルトやリチウムを調達し、安く作るための生産技術に貢献できるため今後注目されるように思いました。

また、安く作るための生産技術の重要性は、ダブルスコープの崔元根社長もよく発言していますので、注目したいと思います。

 

排気ガス浄化の触媒は、白金(プラチナ)を使わなくてもよいような触媒の研究などが進められてきた。ただ、業界関係の長年の努力も空しく、いまだに白金は不可欠元素として存在しています。
2000年代前半には、100キロワット時級のPEFCに対して100グラムの白金が必要とされていた。したがって、当時でも白金元素だけで1台当たり20万円ほどが必要とされていた。

同じような事象は、家庭用や自動車用に適用されている固体高分子型燃料電池(PEFC)でも存在する。水素―酸素の電気化学反応で発電機能を発現する燃料電池でも、触媒作用がない環境下では水素―酸素の効率的反応が進まない。その仲介的役割を果たすのが白金触媒である。この反応システムにおいても白金使用量の削減、あるいは白金フリーとなる研究が今でも進められているが、実現していません。

 

コバルトなどレアメタルを利用しない、量を減らす技術開発もされていると思いますが、こういった事例を考えると、コバルトなどレアメタルの使用量をゼロにするような技術は難しそうです。

 

■注目される銘柄

●石炭火力で注目される銘柄

三菱重工業(7011):
最新式の超々臨界圧石炭火力発電設備に強みをもつだけでく、
空気吹き二段噴流床ガス化炉、乾式燃料供給システムにガス精製設備、ガスタービンを組み合わせた石炭利用高効率発電プラント「IGCC(石炭ガス化複合発電)」を開発。従来の超臨界圧微粉炭火力に比べ効率が10%から20%向上し、同率のCO2削減が可能となった。

日立造船 (7004):
ガスタービン・各種ボイラ(石炭焚きおよび重油焚きなど)・ディーゼルエンジン・ごみ焼却発電施設・エチレン分解炉・石油改質炉・焼結炉など、あらゆる分野に脱硝触媒および脱硝システムを提供しています

●安く作る生産技術で注目される銘柄

住友商事(8053):
住友グループの大手総合商社。金属取引などに強みがあり、マダガスカルで世界最大級の生産を目指すニッケル・コバルト開発プロジェクト「アドバトビー」を展開している。住友系の総合商社。


住友金属鉱山(5713):
電子材料非鉄金属が両輪で、ニッケルにも強みを持つ同社。先端材料の開発を手掛けており、住友発展の基礎となった世界有数の菱刈鉱山を経営しています。資源は銅価格高騰を享受。製錬も価格高の恩恵大、ニッケルで設備トラブルあったが限定的。材料は車載電池向けフル操業、スマホ向けも増勢で、業績は好調です。


ダブル・スコープ (6619):
リチウムイオン電池セパレーター(絶縁材)の専業メーカーで製造コストに強み。
ダブルスコープの強みについては以下のブログも参考にしてください。

ダブル・スコープがセパレータ事業で創業した理由-エルピーダメモリのような敗者になるのか- - 令和の未来カエルのブログ

 

 

 

■佐藤登氏の著書

佐藤 登氏 の他の著作を紹介します。

 

 

 

 

■改めて本の紹介

●佐藤 登氏 の経歴

名古屋大学未来社会創造機構客員教授エスペック上席顧問
1953年秋田県生まれ。1978年横浜国立大学大学院工学研究科修士課程修了。同年本田技研工業入社。自動車の腐食制御技術開発に従事した後,1990年本田技術研究所基礎研究部門へ異動。1991年電気自動車用の電池研究開発部門を築く。チーフエンジニアであった2004年に韓国サムスンSDIに常務として移籍。中央研究所と経営戦略部門で技術経営を担当,2012年退社。2013年より現職。工学博士(東京大学,1988年)。論文,講演,コラム等多数。
主な著書に『危機を生き抜くリーダーシップ(国際文化会館新渡戸国際塾講義録3)』(共著,2013年,アイハウス・プレス),『人材を育てるホンダ 競わせるサムスン』(2014年,日経BP),『リチウムイオン電池の高安全・評価技術の最前線』(共監修,2014年,シーエムシー出版),『車載用リチウムイオン電池の高安全・評価技術』(共監修,2017年,シーエムシー出版)など。

●内容について

製造業の頂上決戦!
巨額投資で市場を席巻する中国、韓国企業。世界をリードしてた日本企業は勝機を見出せるか--。
パナソニックGSユアサ村田製作所、ATL、
サムスンSDI、LG化学、CATL、BYD……。
次世代革新電池を視野に入れた競争の最前線を徹底解説。

1887年に屋井先蔵が世界に先駆けて乾電池を発明して以来、日本の電池産業は長く世界をリードしてきた。とりわけ1960年代以降は隆盛期を迎え、次々と新たな電池を開発、生産を開始した。さらに1983年には旭化成の吉野彰氏らが経済社会を大きく変えることとなるリチウムイオン電池の原型を確立。1991年にソニーが世界初の製品化を実現した。
日本電池産業の輝かしい歴史も、21世紀に入ると様相が変わる。韓国企業が日本勢を追い上げ、2010年にはサムスンSDIがモバイル用リチウムイオン電池で世界シェアトップに立った。近年は、さらに高い性能を要求される自動車搭載用の大型リチウムイオン電池の世界で、中国勢が急速にシェアを伸ばしている。高性能電池の開発、製造の行方は、製造業の頂点に立つ自動車産業の未来をも左右する。世界の環境規制、中国の産業政策などもあいまって、日本の牙城だった電池産業が大きく変貌しようとしている。

 

●目 次

まえがき-まえがき-を読んで - 令和の未来カエルのブログ

第1章 日本の牙城

-第1章 日本の牙城-を読んで - 令和の未来カエルのブログ 1

1日本の底力

2 電池の基本的仕組み
3 車載用へと電池の用途広がる
4 日本の強み

第2章 モバイル用電池の明暗

第2章 モバイル用電池の明暗-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ

1 電池革命を起こしたリチウムイオン電池
2 戦略の欠如
3 ソニーの電池事業撤退
4 ハイエンド偏重の日本、ローエンドも重視する韓国

 

第3章 EV開発の思惑と電池戦略

第3章 EV開発の思惑と電池戦略-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ (hatenablog.com)


1 環境規制が主導する自動車の電動化
2 トヨタがEVを投入せざるを得ない事情
3 選ばれるEVとは?
4 テスラの巨額投資とリスク
5 急加速のEVシフトに潜む5つの課題
6 元素戦略と資源争奪戦
7 トップブランド参入で競争激化
8 環境対応車における日本のリード

第4章 中国市場の変化と欧米、インド
1 環境改善か下剋上か─EVシフトの先
2 翻弄される日韓企業
3 中国NEV規制への対応
4 驀進する中国EV、電池業界の異変
5 中国のEV政策変化は外資に追い風?
6 EVが減速する中国、加速する欧州
7 2020年、車載電池業界の勢力図が明確に
8 揺れる米国のルール
9 台頭するインドの電動化と矛盾

第5章 車載用電池の攻防
1 合弁が難しい電池事業--韓国勢はフリーを選ぶ
2 R&D投資でも激突する日中韓
3 戦略は随時見直してこそ生きる

第6章 定置型蓄電池の幕開け
1 定置用電池業界に第三勢力参入
2 韓国企業の火災事故
3 2019年からのFIT問題

第7章 品質競争─安全性と信頼性のビジネス
1 なぜサムスンの最新スマホは爆発したのか?
2 電池の安全性を要求する国連規則
3 中国製リチウム電池が信頼できない理由

第8章 成長への戦略
1 加速する次世代電池開発
2 次世代革新電池はいつ実現するか?
3 日本を取り巻く状況
4 日本勢の命運
5 ノーベル化学賞の栄誉

あとがきに代えて
参考文献・資料

 

以上