群盲象を評す、群盲、エイチ・アイ・エスを評す

■はじめに

『群盲象を評す』『木を見て森を見ず』と思われるエイチ・アイ・エスの報道、報道に伴う株価下落について、『群盲象を評す』『木を見て森を見ず』と思った理由を説明しているブログ記事です。そう考える理由を5つ説明しています。

■群盲象を評すとは

『群盲象を評す』とは、数人の盲人が象の一部だけを触って感想を語り合う、というインド発祥の寓話、ことわざです。『盲人が象を語る』、『群盲象をなでる』と似た別の表現もあります。
『木を見て森を見ず』 と同様の意味で用いられることがあります。 『物事や人物の一部、ないしは一面だけを理解して、すべて理解したと錯覚してしまう』 ことの例えとしても用いられます。

 

■報道内容やその後の株価下落

●報道内容

まず、報道されている内容について紹介します。TBSが一番詳しく報道しているようです。

TBSの報道内容からポイントを抜粋します。

 

「ジャパンホリデートラベル」が去年10月から12月にかけ、東京都内のホテルに200人分の名前を使って、それぞれ69泊、あわせて1万3800泊の契約をしていたことがわかりました。GoToトラベルは宿泊料金の最大半額が補助される制度ですが、1泊の料金は補助の上限額が受け取れる4万円で、この契約だけで最大2億7000万円あまりが国から補助され、税金で賄われたことになります。関係者によりますと、200人分の名前は都内の会社が集めたものでした。

 

 もうひとつの子会社の「ミキ・ツーリスト」は、内部資料によると、4800泊分について、宿泊の実態がないままGoToトラベルが申請された疑いがあり、幹部が社員にメールで釈明していました。

 

ミキ・ツーリストの場合、上限2万円 × 4800泊 で計算した場合、最大9600万円が国から補助されたことになる。2社合わせると、3億6600万円、約4億円の不正です。

エイチ・アイ・エスのプレスリリース

エイチ・アイ・エスは、報道された2021年12月10日に2つのプレスリリースをしています。

    2021 年 10 月期 決算発表延期に関するお知らせ


昨日、当社の連結子会社である株式会社ジャパンホリデートラベル及び株式会社ミキ・ツーリストにおいて、会計処理の前提となる事実の精査が必要となり事実関係解明のために調査委員会を設置し調査を開始していることをお知らせいたしました。
その後、本件事案による当社決算への影響の有無を確認するためには一定の時間を要すると判断しましたの
で、2021 年 12 月 13 日に予定しております 2021 年 10 月期決算発表を延期させていただきます。
なお、調査委員会による調査を踏まえ、監査法人の監査の後に決算発表を行う予定です。決算発表予定日については、決定次第、速やかに公表いたします。
また、調査委員会による調査結果につきましても、速やかにお知らせいたします。
株主・投資家の皆様をはじめ、取引先及び関係者の皆様には、多大なるご迷惑とご心配をおかけしますことを、深くお詫び申し上げます。

 

    当社子会社に関する一部報道について


昨日、「当社連結子会社における取引に関する調査委員会設置のお知らせ」でお知らせしましたとおり、当社の連結子会社である株式会社ジャパンホリデートラベル及び株式会社ミキ・ツーリストにおいて Go To トラベル事業に係る取引の中に宿泊の実態がない取引、すなわち同事業の受給対象とならない取引が存在すること
が判明したため、当社は事実関係解明のために調査委員会を設置し、調査を開始しております。
昨日、TBS の「news 23」、毎日新聞ほか一部の報道機関において、Go To トラベルに関わる不正利用があったとの報道がありましたが、当社としましては、報道された内容も含めて調査を実施しております。
株主・投資家の皆様をはじめ、取引先及び関係者の皆様には、多大なるご迷惑とご心配をおかけしますことを、深くお詫び申し上げます。

 

●報道翌日の株価下落

報道の翌日 2021年12月10日は、株価は暴落という表現が適当か不明ですが、大幅に下落しました。12月9日前日の終値が2104円(時価総額 約1622億円)で、12月10日の終値は、1803円(時価総額 1390億円)と、マイナス301円 マイナス14.31%の下落で、
時価総額でいうと約232億円近く下がりました。

 

群盲象を評すと考えた理由

エイチ・アイ・エスを、非難する声が大きく信用失墜して、大幅に株価下落していますが、私は株価は下落しすぎだと考えています。

まるで、不正に補助金を受給した2社の取引をもって、エイチ・アイ・エス全体を評価かしているように思えます。

そう考える理由を5つ説明します。

 

●①グループ会社217社のうちの2社の不正であること

2020年10月末期の有価証券報告書によると、連結子会社 148社 非連結子会社 43社、持ち分法適用会社 7社 持分非適用関連会社 19社とグループ会社は合計217社もあります。そのうち、不正を報道されたのは2社のみです。

 

それぞれの子会社の分類の意味は以下の通りです。

ジャパンホリデートラベルは、連結子会社有価証券報告書に記載がありましたが、

ミキ・ツーリストは、有価証券報告書には特に記載がありませんでしたが、買収当時のニュースを見ると連結子会社のようです。

HIS、ミキを子会社化、持株7割超に-中立性は維持 | 観光産業 最新情報 トラベルビジョン

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H.I.Sの有価証券報告書より抜粋 2020年10月末期

 

連結子会社:企業の連結財務諸表の対象となる子会社のこと。連結子会社かどうかは、親会社が子会社の議決権の過半数の株式を所有している場合のみならず、親会社が役員派遣などを通じて子会社の意思決定権を支配するなど、実質的な関係をいくつかの基準によって判断する。

連結子会社:連結対象ではない子会社。親会社が経営を支配している子会社であっても、当該企業グループ全体の経営や財務への影響度が低かったり、支配が一時的であったりする企業は連結対象から外すことができます。ただし、議決権所有比率が20~50%の非連結子会社は持分法適用会社とされ、連結財務諸表で持分法が適用されます。

持分法適用会社:持分法適用会社とは、企業が連結財務諸表を作成するにあたって、持分法を適用する対象となる関連会社のことを言います。親会社の保有する議決権比率が20%以上50%以下の非連結子会社や関連会社が原則的に持分法適用会社となる。連結財務諸表を作成する際には、連結子会社のように財務諸表を合算することはなく、持株比率に応じて投資有価証券勘定に持分法適用会社の損益等を反映させていきます。

持分非適用関連会社:親会社の保有する議決権比率が20%以上50%以下の非連結子会社や関連会社が原則的に持分法適用会社となりますが、重要性が低い場合は持分法を適用しないこともできるとされています。いわば、株式を保有しているだけの会社といえます。

●②不正した2社の規模は大きくないこと

ジャパンホリデートラベルは、社員数139名(2020年9月1日現在)、資本金3000万円の会社です。
1993年創業、1998年インバインド業務をスタート、2011年にHISの子会社となっています。
大阪に本社がある会社で、「海外観光客を日本へ誘致するのを得意とする旅行会社です!」という記載があり、中華人民共和国訪日観光客受入旅行会社連絡協議会(中国訪日旅行は、指定旅行会社のみ取り扱い可)に加盟しているので、主に中国からの日本国内、特に大阪を中心とした関西地域にくる観光客、いわゆるインバウンド中国客を得意とする会社のようです。
    
ジャパン・ホリデーは、社員数 135名(2021年8月1日現在)、資本金 9800万円の会社です。
会社沿革に
1967年 英国にロンドン本社、東京にオフィスを設立。ヨーロッパ諸都市に直手配網を設置し、ツア−オペレーターとしての第一歩が始まる。
1972年    ミキツーリスト カンパニー リミテッド東京支社になる。
とあり、ヨーロッパ方面の海外旅行に強い、2017年    創立50周年を迎える。老舗と呼べる旅行会社です。

 

H.I.S.は連結 社員数 12,128名  資本金 193億円 ですから、
この2社の占める比率は社員数にして約2%、資本金にして約1%で、売上や利益に占める比率も、2%から1%程度と推測されます。

仮にこの2社が破産など倒産しても、その事業をH.I.S.、または別のグループ会社が引き継げば、利用者に迷惑がかかることも少なく、H.I.S.全体に大きな損害が与えるような可能性は少ないと考えます。

 

●③不正受給した補助金の額はHISの売上などと比べると大きくない

不正受給した金額が約4億円としても、H.I.S.の業績は、コロナ禍前の2019年10月期末で、約8085億円、最終利益 122億円です。

コロナ禍は出始めた2020年10月期は、売上4332億円、最終損失は250億円です。
コロナ禍が直撃している今期2021年10月期は、売上 1380億円 最終損失は400億円という予想になっています。

 

今期2021年10月期でみても、不正受給の補助金の額は売上に占める比率は3%近く、損失に占める比率は1%程度と思われます。

 

最終的に不正受給の金額の10倍程度40億円程度、損失が発生するとしても、
資本金193億円、利益剰余金491億円ですから、債務超過となるような金額ではありません。
時価総額でいうと232億円近く下がるのは、下げすぎだと考えます。

 

●④グループ全体が不正をした可能性が低いこと

GoTo給付金不正受給で5人逮捕−NEWS - とちテレ

宿泊したように装い国の観光需要喚起キャンペーン・Go Toトラベル事業の給付金に申請し、だまし取ったとして県警捜査二課などは2日、那須町高久甲で民泊を経営する鈴木直幸容疑者(50)ら5人を詐欺の疑いで逮捕した。5人は、去年10月1日から31日の間に鈴木容疑者が経営する民泊施設に、鈴木容疑者以外の4人とその家族らが宿泊したように装い給付金の申請を行って630万円を不正受給した疑い。この給付金の不正受給に関する逮捕は県内初。

GoTo給付金詐取疑いで宿泊業の女逮捕 広島県警、全国初摘発 | 中国新聞デジタル

政府の観光支援事業「Go To トラベル」を巡り、広島市東区愛宕町で経営していた民泊施設に客が泊まったように装って国から給付金を詐取したとして、広島中央署と広島県警捜査2課は7日、東京都品川区西大井、無職栗栖かいん容疑者(51)を詐欺の疑いで逮捕した。県警によると、トラベル事業に絡む宿泊事業者の摘発は全国で初めてという。

 

H.I.S.グループはH.I.S.ホテルホールディングス株式会社という連結子会社を中心にホテル事業も行っています。
「Go To トラベル」は、ホテルなどの宿泊料金に対して補助が宿泊者に支給される制度ですから、不正受給して、本来宿泊者が得る補助金を宿泊者の代わりにホテル側が取得するような不正が簡単です。ただ、今回、H.I.S.のホテル事業については、不正が報道されていません。

不正が容易なグループのホテル事業で報道されていないことを考えると、旅行代理店 子会社2社だけの不正が高いと考えます。

また、不正の方法も、社員を宿泊者にする、同じ宿泊者に69泊させるなど、不正とすぐに疑われるような方法で、組織的な不正としては、手がこんでない、単純、稚拙なように思えます。

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H.I.S.ビジネスレポート 2021年10月期 より

 

●⑤子会社の統廃合などのリストラの好機になるかも

 これは想像ですが、H.I.S.は、買収を積極的に規模を拡大して、グループ会社の数を増やしてきました。ミキ・ツーリストのように、H.I.S.の関与度、支配度が低く、独立した経営を許容していたのかもしれません。

 H.I.S.は、連結子会社 148社 非連結子会社 43社、持ち分法適用会社 7社 持分非適用関連会社 19社とグループ会社は合計217社もありますが、今回の子会社の不正発覚により、不正の防止のため子会社のガバナンス強化が進み、グループ会社のリストラ(不採算事業、重複事業の整理、子会社の統廃合)が進む可能性があります。

 もちろん、不正受給のようなことは許されることではありません。ただ、H.I.S.の現会長で創業者の澤田秀雄氏は、一代で、H.I.S.の創業し、国内の2位の旅行会社まで発展させて手腕の持ち主です。2010年4月より18年連続赤字だったテーマパークハウステンボスの社長に就任し、半年で黒字に転換させた実績もあります。

 災い転じて福にさせるような経営手腕も期待できると考えています。

 

■まとめ

「麦わら帽子は冬に買え」「人の行く裏に道あり花の山」(きれいな花を求めて山に行くのなら、誰も行かない裏道を行ったほうがよい)といった相場の格言があります。
 投資の世界では他人と同じ売買を行っている限り、利益は得にくい。むしろ、他人と逆の行動をとることが大事ということで、逆張り的な投資の場合を考えると、今はHISの株価は買いでしょうか。

以前、逆張り投資として紹介した航空機リース会社の株価は、約半年で、
FPG 38%、JIA 43%と上昇し、日経平均 25%やTOPIX 18%といった市場平均を表す指標と比較でも、大きく上回りました。
詳細は以下のブログを参考にしてください。

逆張り投資に関する本

 

H.I.S.やその創業者(現会長)の澤田秀雄さんに関する本

 

 

 

 

 

誤字脱字すいません。この記事は、正確性を保証するものでもなく、投資を推奨、勧誘するものでもなく、筆者の個人的な見解を述べているものです。

 

 

#エイチ・アイエス  #9603

 以上