電池の覇者 EVの命運を決する戦い | 佐藤 登 著 を読みました。その要点、所感など紹介したいと思います。今回は「第5章 車載用電池の攻防」についてです。ソニー、アップルのEV製造が予想されるマグナ社(トヨタ、デンソー)のライバルになるかもしれない会社)と韓国企業との関係についても、紹介しています。
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第4章 中国市場の変化と欧米、インド-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ
の続きとなるブログ記事です。
■要点(要旨、抜粋)
革新技術を連続的に生み出せなければ企業の存続にもかかわる。すなわち、優位性のある技術が他社から追いつかれる前に、次なる製品戦略を打ち出し、さらなる新たな技術を確立し製品ビジネスに貢献するという、連続した持続可能な技術開発と製品戦略が必要だ。
と述べています。
CATL、BYDなど中国企業は、政府の補助金から生産設備投資を加速させ、蓄積してきた資本と技術力をベースにして米国と欧州、日本などの先進市場に相次いで進出しています。また、R&Dでも、中国の恒大新能源汽車はEVを含む新エネルギー車分野で8000人のグローバル採用に乗り出すなど、投資を加速させています。
韓国企業も四大財閥(サムスン、LG、SK、現代自動車)の中核をなす企業(サムスンSDI、LG化学(現LGエナジー)、SKイノベーション)が、社運をかけて投資し、国も
2018年4月に、LGの研究開発拠点の開所式にて、文在寅大統領大統領は「任期内に、基礎研究予算を現在の2倍の2兆5000億ウォン(約2500億円)に拡大する」と発言するなど、積極的に支援しています。
科学技術の研究開発費、米中との差がさらに広がる 博士号人材の登用進まず - ITmedia NEWS
こういった記事をみると、米中との格差が広がったとはいえ、日本の研究開発費は世界第3位です。
博士号を持つ研究者の割合を産業別に日本と米国で比較したところ、米国ではほとんどの産業で5%を超えていたが、日本は多くの産業で5%未満となっており、米国と比べて博士号を持つ人材の活用度は低い傾向だった。
といった記載の通り、日本の研究開発力が産業界で活用できていないことに問題があるのかもしれません。
日本が国際競争力を失った納得の理由。先進的な研究開発も“宝の持ち腐れ”にする「企業文化」の残念さ | Business Insider Japan
のように企業文化、それを日本人の文化、意識ともいえるでしょうが、そこに問題を指摘する声もあります。
ただ、日本は1990年代までは、科学技術力、企業競争力も世界トップでジャパンアズNO1と呼ばれる時代もありました。
高度経済成長の時代など、日本が成長していた時代は良くも悪くも、欧米、主にアメリカの先進技術を導入していた時代です。先進的な研究開発も、海外の成果も含めて、活用できないことが問題のように個人的には思えます。
車載用電池事業は巨額の投資が重要なことも著者は力説しています。液晶事業と有機EL事業、および勝ち組のみが利益を享受できている半導体事業と相通じるシナリオで、この分野での韓国勢の成功体験から、リチウムイオン電池事業に関しても同様の戦略シナリオを実現しそうな予感がします。半導体のTSMC、サムスンのような存在を中国、韓国企業も目指しているように思えます。
私が注目するW-SCOPEも、この投資競争に負けないために、4期連続の赤字でも巨額の投資をしていると思います。この点に関して取り上げたブログ記事(↓)も参考にしてください。
■所感(感想)
(自動車部品大手のティア1と電池企業との合弁が難しいことを述べた後)ならば、逆手にとってリチウムイオン電池セルメーカーがシステムメーカーのティア1を手中に入れるという逆張り路線がよいかもしれない。ボッシュとの合弁で苦い経験を味わったサムスンSDIは、2015年、カナダのティア1サプライヤー、マグナ・インターナショナルの傘下にあるマグナ・シュタイヤーの車載用リチウムイオン電池パック事業を買収した。ティア1を買収したことで、サムスンSDI自体がティア1になったことになる。
という記事に注目しました。サムスンSDIが、マグナ・インターナショナルの傘下にあるマグナ・シュタイヤー(マグナ・インターナショナルとマグナ・シュタイヤー合わせてこのブログではマグナ、マグナ社とも呼んでいます)の車載用リチウムイオン電池パック事業を買収していたことは知りましたが、もし、この買収前後で、マグナ社とサムスンSDIとの関係が良好であれば、お互いメリットの多い互恵的な関係であれば、サムスンSDIの社債電池事業に有利に働くでしょう。
日本での知名度はあまり高くありませんが、マグナ社は、カナダ最大の企業の1つで、北米最大の自動車部品 メーカーで、世界でもデンソーと並ぶぐらいのベスト5にはいる自動車部品メーカーです。また、部品だけでなく、完成車も組立製造も事業化しているのが特徴で、
クライスラー・ボイジャーやBMW・X3などの乗用車を製造しており、独立系製造会社が複数企業向けに年間20万台以上も製造しているのはのみでマグナ・インターナショナルのみです。
ソニーも頼る車体生産のマグナ、EV分業のモデルに: 日本経済新聞
焦点:ソニーEVは巨大aibo、車の再定義に挑戦 競合も固唾 | ロイター
の記事の通り、ソニーが販売するEVの試作車もマグナインターナショナルのグループ会社が製造しています。
「マグナは車業界のフォックスコン(台湾・鴻海=ホンハイ=精密工業傘下)になりつつある」と述べた。
「ガソリンエンジンの車よりEVは開発が簡単なため新しい企業が参入しやすい。アイデアを持ってきてくれれば、マグナが開発の段階から生産までワンストップで手助けする。現在の業界のトレンドをみると、すべてがEVにシフトしている。多くの新規参入企業からアプローチを受けており、我々の開発の40~50%もEVの分野だ」
とマグナ・シュタイヤー(オーストリア) フランク・クライン社長は記事の中で述べています。
アップルカー生産受託か、LGとマグナ合弁会社が注目される理由 | 日経クロステック(xTECH)
といった記事の通り、アップルカーもマグナの生産が有力視されています。
LGエレクトロニクスとマグナ社の合弁企業の記事です。
LGやサムスンなど韓国企業は、マグナ社を重要視して、他の日本、中国企業より、マグナとの関係が深いものであれば、今後の車載電池事業に有利に働くでしょう。
個人的に注目するダブル・スコープにも、マグナ社と韓国企業との関係は有利に働くのではと妄想しました。
ちなみに、トヨタも、スープラの生産をマグナに委託していますが、トヨタのライバルになるのは、テスラ、GM、フォルクスワーゲンなど欧米企業でもなく、中国、韓国企業でもなく、このマグナになる可能性が高いと私は想像しています。
「トヨタGRスープラ」の生産を手がける マグナ・シュタイヤーってどんな会社? - webCG
■佐藤登氏の著書
佐藤 登氏 の著作を、アマゾンのリンクで紹介します。
■改めて本の紹介
●佐藤 登氏 の経歴
名古屋大学未来社会創造機構客員教授、エスペック上席顧問
1953年秋田県生まれ。1978年横浜国立大学大学院工学研究科修士課程修了。同年本田技研工業入社。自動車の腐食制御技術開発に従事した後,1990年本田技術研究所基礎研究部門へ異動。1991年電気自動車用の電池研究開発部門を築く。チーフエンジニアであった2004年に韓国サムスンSDIに常務として移籍。中央研究所と経営戦略部門で技術経営を担当,2012年退社。2013年より現職。工学博士(東京大学,1988年)。論文,講演,コラム等多数。
主な著書に『危機を生き抜くリーダーシップ(国際文化会館新渡戸国際塾講義録3)』(共著,2013年,アイハウス・プレス),『人材を育てるホンダ 競わせるサムスン』(2014年,日経BP),『リチウムイオン電池の高安全・評価技術の最前線』(共監修,2014年,シーエムシー出版),『車載用リチウムイオン電池の高安全・評価技術』(共監修,2017年,シーエムシー出版)など。
●内容について
製造業の頂上決戦!
巨額投資で市場を席巻する中国、韓国企業。世界をリードしてた日本企業は勝機を見出せるか--。
パナソニック、GSユアサ、村田製作所、ATL、
サムスンSDI、LG化学、CATL、BYD……。
次世代革新電池を視野に入れた競争の最前線を徹底解説。
1887年に屋井先蔵が世界に先駆けて乾電池を発明して以来、日本の電池産業は長く世界をリードしてきた。とりわけ1960年代以降は隆盛期を迎え、次々と新たな電池を開発、生産を開始した。さらに1983年には旭化成の吉野彰氏らが経済社会を大きく変えることとなるリチウムイオン電池の原型を確立。1991年にソニーが世界初の製品化を実現した。
日本電池産業の輝かしい歴史も、21世紀に入ると様相が変わる。韓国企業が日本勢を追い上げ、2010年にはサムスンSDIがモバイル用リチウムイオン電池で世界シェアトップに立った。近年は、さらに高い性能を要求される自動車搭載用の大型リチウムイオン電池の世界で、中国勢が急速にシェアを伸ばしている。高性能電池の開発、製造の行方は、製造業の頂点に立つ自動車産業の未来をも左右する。世界の環境規制、中国の産業政策などもあいまって、日本の牙城だった電池産業が大きく変貌しようとしている。
●目 次
第1章 日本の牙城
-第1章 日本の牙城-を読んで - 令和の未来カエルのブログ 1
1日本の底力
2 電池の基本的仕組み
3 車載用へと電池の用途広がる
4 日本の強み
第2章 モバイル用電池の明暗
第2章 モバイル用電池の明暗-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ
1 電池革命を起こしたリチウムイオン電池
2 戦略の欠如
3 ソニーの電池事業撤退
4 ハイエンド偏重の日本、ローエンドも重視する韓国
第3章 EV開発の思惑と電池戦略
第3章 EV開発の思惑と電池戦略-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ (hatenablog.com)
1 環境規制が主導する自動車の電動化
2 トヨタがEVを投入せざるを得ない事情
3 選ばれるEVとは?
4 テスラの巨額投資とリスク
5 急加速のEVシフトに潜む5つの課題
6 元素戦略と資源争奪戦
7 トップブランド参入で競争激化
8 環境対応車における日本のリード
第4章 中国市場の変化と欧米、インド
第4章 中国市場の変化と欧米、インド-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ
1 環境改善か下剋上か─EVシフトの先
2 翻弄される日韓企業
3 中国NEV規制への対応
4 驀進する中国EV、電池業界の異変
5 中国のEV政策変化は外資に追い風?
6 EVが減速する中国、加速する欧州
7 2020年、車載電池業界の勢力図が明確に
8 揺れる米国のルール
9 台頭するインドの電動化と矛盾
第5章 車載用電池の攻防
1 合弁が難しい電池事業--韓国勢はフリーを選ぶ
2 R&D投資でも激突する日中韓
3 戦略は随時見直してこそ生きる
第6章 定置型蓄電池の幕開け
1 定置用電池業界に第三勢力参入
2 韓国企業の火災事故
3 2019年からのFIT問題
第7章 品質競争─安全性と信頼性のビジネス
1 なぜサムスンの最新スマホは爆発したのか?
2 電池の安全性を要求する国連規則
3 中国製リチウム電池が信頼できない理由
第8章 成長への戦略
1 加速する次世代電池開発
2 次世代革新電池はいつ実現するか?
3 日本を取り巻く状況
4 日本勢の命運
5 ノーベル化学賞の栄誉
あとがきに代えて
参考文献・資料
以上