湯之上隆氏、国会で日本の半導体、希望の光を語る(2021年6月1日衆議院・科学技術特別委員会)

▼目次

 

■はじめに

 

の続きですが、国会(衆議院)の科学技術・イノベーション推進特別委員会(令和3年:2021年 6月1日(火曜日))で湯之上隆氏が参考人としての意見を開陳し、その後、質疑を行われています。

湯之上隆氏の著書や意見はこのブログでも何度か取り上げていますが、
国会での参考人としての発言も半導体産業(半導体の材料や製造装置も含む産業)だけでなく、自動車産業など幅広い産業の将来に示唆を富む内容と思われるので、利用されたスライドの画像とともに、その内容を紹介します。

湯之上隆氏の著書

日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ (文春新書 942)

日本「半導体」敗戦

「電機・半導体」大崩壊の教訓



■日本半導体、デバイスについては挽回不能

日本の半導体は瀕死の重病

日本の半導体は瀕死の重病

 

 

 最後のまとめに入りますが、日本半導体産業は病気です。もはや重病で、死者も出たくらいです。これまで、各社のトップ、産業界、経産省、政府などが病気の診断を行って、まあ人間は、何か熱があるな、せきがあるなといったら病院に行くわけですよ。コロナですか、インフルエンザですか、風邪ですかという診断を受けて、それに伴った処方箋を出してもらうわけですよ。実際、処方したわけですけれども、その処方箋、国プロ、コンソーシアム、合弁は全部失敗です。一つも成功していない。

 つまり、これは何でこうなるかというと、診断が間違っていたんですよ。病気の診断が間違っていたんです。だから、診断が間違っていたから、その処方箋も的を射ていなかったんです。これが歴史的な結果です。病気は治らず、より悪化して、エルピーダのような死者も出た。

 じゃ、日本の半導体に何か望みはないのか、将来に光はないのかというと、日本半導体、デバイスについては挽回不能です。無理。だけれども、希望の光もあるんです。今から述べます。

 まず、半導体を作るには様々な製造装置が必要です。十数種類あります。この中で、全部とは言いません、五種類から七種類ぐらいは市場を独占している装置があります。ここは非常に強力です。

 それから、日本の装置でなくても、アメリカ製であってもヨーロッパ製であっても、それぞれの装置が三千点から五千点の部品で構成されています、その部品の六割から八割が日本製なんです。知られていない中小零細企業がここに何千社といるんです。これがひょっとしたら日本の競争力かもしれない。

 さらには、もう一つある。ウェハーとかレジストとかスラリーとか薬液とか、半導体材料というもの、これはもっと強力なんです。これを具体的に示したいと思います。

 

 

■日本企業が強い半導体材料

半導体材料の企業のシェア 

半導体材料の企業のシェア 

 

 これを作るのに一週間以上かかってしまった。これは一つ一つ説明できないんですけれども、いろいろな材料が必要なんですよ。実はこの三倍ぐらい半導体材料はあるんです。一週間では三分の一しか調べられなかった。しかも、各社のシェアというのは、ちょっと、ねえねえ、教えてよと電話をかけまくって、悪用しないからさ、国会で報告するからちょっと教えてよというのを一週間やって、この図を作ったんです。

 そうすると、見てください、右側に、日本のシェアと書いたんですけれども、九〇%とか七〇%とか、過半を超えるものが多数あるわけですよ。これが一つ欠けても半導体は作れないんですよ。一つ欠けても駄目なんですよ。ここにまず、日本の第一の競争力があります。

 

 

日本企業が強い半導体製造装置

結論を簡単に言うと、次のようになります。

半導体製造装置の企業シェア 

半導体製造装置の企業シェア 

それから、製造装置に行きます。

 製造装置も、これは前工程だけなので、後工程というのはちょっとまとめる時間がなかったんですけれども、前工程だけで十種類ぐらいあります。それで、例えばこの東京エレクトロンというのは、コーター・デベロッパー、詳しく説明しませんよ、でも、九割ぐらいのシェアを持っているわけですよ。熱処理装置も、東京エレクトロンと国際電気を合わせて九割ぐらいのシェアを持っているんですよ。このように、ここにまた数字、日本のシェアを書きましたけれども、五種類から七種類ぐらいにかけては、日本が独占している装置があるんです。これは日本の競争力なんです。

 更に言うと、例えばヨーロッパ、ASML、オランダの装置メーカーで、露光装置をほぼ独占しているんですけれども、この部品の六割は日本製なんです。緑色がアメリカ製の製造装置なんですけれども、この六割から八割が日本製の部品なんです。ここに日本の競争力があります。

 

 

■アジアでの日本での役割

 

アジアでの日本での役割 

アジアでの日本での役割 

アジアを俯瞰すると、こういうふうになっています。

 まず、韓国は、サムスンとかSKハイニックスを擁して、半導体モリー大国となりました。今、ファウンドリーも強化しようとしています。なかなかうまくいっていませんが。

 台湾。TSMCがファウンドリーでチャンピオンです。どこも追いつくことができません。これはもう世界の半導体のインフラと言ってもいいでしょう。もうここを使わないとできないんですよ。日本に来るかという話がありますが、必要ならば質疑のところで説明しますが、少なくとも工場は一切来ません。断言しましょう。来ない。

 中国。これは世界の半導体の三五%以上を吸収して、鴻海、鴻海というもの自体は国籍は台湾なんですけれども、中国に大工場群を持っていて、世界の電子機器の九割とか八割を組み立てているわけですね。世界の工場なんですよ。それが、アメリカからの制裁を受けて、自国でも半導体を作ろうと強化に動いてはいますが。

 それで、日本なんですよ。日本は、装置と材料を世界へ供給している。台湾、韓国、まあ中国は、ちょっと、いろいろな問題があってちゅうちょしています。何か、ここ、いろいろ、アメリカのエンティティーリストに載っちゃったような会社がありますので、ここに出してもいいのかというのはちゅうちょしているところがありますが。欧米にも出している。

 こういう役割分担がアジアで完全に確立されています。

 問題はいろいろあります。ここですね。装置と材料は強いんです。でも、材料の競争力を維持するには問題があるんです。

 例えば東京エレクトロンのような大企業だったら、大規模なRアンドD費も充てることはできるんですけれども、その部品メーカー、三千社とか一万社ある部品メーカーには中小零細企業があって、そういうところは最先端の開発というのはなかなか大変なんです。こういう中小零細の部品メーカーが本当の競争力、世界の製造装置のデファクトを持っていたりするんですよ。こういうところの強化が必要なのかなと思っています。

TSMCにも強い日本企業

TSMCに全てが集中する

TSMCにも強い日本企業


 TSMCが注目されます。TSMCには千社以上のファブレスが殺到している。最先端プロセスだけで五百社ぐらいが来ている。もうキャパはぱんぱんだと。そこに、最先端の製造装置とか最先端の材料が使われているわけですよ。製造装置のうちの半分近くは日本製です。部品まで入れると六割から八割までが日本です。製造材料でいうと、ざっくり言って七割から八割が日本なんです。ここが強いところなんです。

 

■希望の光、強いものを強くしろ

これをまとめると、次のようになります。

日本の半導体の希望の光、強いものを強く 

日本の半導体の希望の光、強いものを強く 

 

 

まとめます。

 一九八〇年代中旬に、日本はメインフレーム用に超高品質DRAMを製造して、世界シェア八〇%を独占しました。一方、一九九〇年代にパソコンの時代が訪れても、相変わらず超高品質DRAMを作り続けて、韓国の安く大量生産する破壊的技術に敗北しました。日本半導体全体も、一九八〇年代中旬でピークアウトしました。シェアの低下を止めようとして、国プロ、コンソーシアム、合弁をやり続けました。しかし、病気の診断と処方が間違っていた。したがって、全部失敗した。日本半導体は挽回不能です、残念ながら。もう無理。ここに税金をつぎ込むのは無駄だと思っています。歴史的に、歴史的にですよ、経産省、革新機構、政策銀が出てきた時点でアウトなんです。これは歴史的な事実です。

 じゃ、希望の光はないのか。あります。今でも競争力が高い五種類から七種類の製造装置、あるいは、日本製でなくても、欧米製であっても、その部品の多数が日本製です。さらに、製造材料については日本が圧倒的な競争力を持っています。したがいまして、強いものをより強くする、これを政策の第一に掲げるべきだと私は思います。

 以上で発表を終わります。(拍手)

 

 

 

ここからの内容は次のブログ(↓)を参考にしてください。

 

chanmabo.hatenablog.com

 

湯之上氏のプレゼン資料に記載のあった企業とその銘柄コードを参考にまで記載します。

半導体素材
ウエハ:信越化学4063 SUMCO3436

レジスト:
ArF用 JSR4185 信越化学 TOK(東京応化)4186
EUV用 信越化学4063 JSR4185 TOK4186

CMPスラリ 
酸化膜 フジミインコーポレーテッド5384
STI用 昭和電工4004 AGC5201
Cu用 富士フィルム4901
Cuバリア用 富士フィルム4901 昭和電工4004

高純度薬液 :
CMP後洗浄液 富士フィルム4901 三菱ケミカル4188 関東化学 非上場
過酸化水素 三菱ガス化学4182 関東化学 非上場
アンモニア水素 三菱ガス化学 
塩酸 三菱ケミカル4188 関東化学 非上場
硫酸 関東化学 非上場 三菱ケミカル4188
フッ化水素酸 ステラケミファ4109 ダイキン6367 森田化学 非上場
ポリマー除去液 TOK(東京応化)4186
イソプロピルアルコール トクヤマ4043 関東化学 非上場

半導体製造装置
コータ・デベロッパ 東京エレクトロン8035 SCREENホールディングス7735
ドライエッチング装置 東京エレクトロン8035 日立ハイテクノロジーズ(日立6501の子会社)
CVD装置 東京エレクトロン8035
スパッタ装置 アルバック6728 
熱処理装置 東京エレクトロン8035
CMP装置 荏原6361
枚葉式洗浄装置 SCREENホールディングス7735 東京エレクトロン8035
バッチ式洗浄装置 SCREENホールディングス7735 東京エレクトロン8035
異物検査装置 日立ハイテクノロジーズ(日立6501の子会社)
欠陥検査装置 日立ハイテクノロジーズ(日立6501の子会社)
マスク検査装置 レーザーテック6920
測長SEM 日立ハイテクノロジーズ(日立6501の子会社)

以上