『自治体倒産時代』を読んで

夕張市の惨状、他の自治体の奮闘、「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(自治体財政健全化法)の健全化判断比率について、述べられています。

 

夕張市の惨状】

著書の祖父は、夕張で働き、父は夕張で育ち、そんなゆかりがある著者の本で、「夕張のことは他人事とは思えない。」という通りで、夕張市の状況を現地で深い関心をもって、取材した様子が記載されています。

倒産した自治体と言われる夕張市の惨状は、
「全国最低の行政サービスと全国最高の市民負担」というフレーズがわかりやすい。

 

gendai.ismedia.jp

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/52287?media=gs

上記URLでも紹介されているが、いくつか具体例をあげると
 〇 指定ゴミ袋の値段40リットル1枚80円
 〇 市の税率の法令上の上限に

 (均等割 3000円から3500円 所得割6%から6.5% 固定資産税1.4%から1.45%に)
 〇 下水道使用料は66%アップされ 10平方メートル 1470円から2440円に。
  手取りで考えたら生活保護以下の職員自身がいうほどの職員人件費の削減
という状況です。

 

財政再建団体とは】

財政再建団体は、市が総務省に再建計画を申請し総務省が認可します。
認可されると、一時借入金について政府資金の融資斡旋、借入金の支払利子および退職手当債についての特別交付税措置、地方債の発行制限の解除などがある。
総務省が勝手に判断するのでなく、市(自治体)が申請するのがポイントです。

再建計画で公共料金の値上げや独自の福祉施策の廃止・切り下げ、職員人件費の削減、建設事業の中止・抑制が必要となる。再建計画は国が許可し、その履行を国が厳しくチェックします。

なお、2009年に地方財政再建促進特別措置法に代わる自治体財政健全化法が制定されて財政再建計画、財政再建団体でなく、財政再生計画、財政再生団体という用語が利用されている。

 

【同じく財政再建団体となった赤池町】

同じく財政再建団体となった赤池町の話を読むと、財政再建団体となるメリットは国の支援でなく、行政、議会、住民と危機意識の共有だと思えます。

赤池町(あかいけまち)は、福岡県の北東部に位置し、田川郡に属していた町で、隣接する金田町・方城町と2006年3月6日に合併し、福智町となり、自治体としての赤池町は消滅しています。
1992年から2001年まで当時日本唯一の財政再建団体に指定され、地方自治体や自治労働組合、財政学者、マスコミなどの注目を浴びていました。

水永康夫旧赤池町の町長が、財政再建団体のメリットを述べています。
議員も選挙が怖いから、地元の事業促進で町当局に圧力をかけたりする。かつは赤池町でも行われていた。けれど、財政再建団体になると、町役場、議会、町民に妙な共有意識が生まれる。全員が痛みも分かち合い、赤字脱却という大目標に向かう。無駄なものに町の予算はつかえないこともわかる。再建団体になったプラス面はこの連帯感でしょうか。

夕張市と同じく財政再建団体を申請した福岡県赤池町のホームページに再建のあゆみにも
財政再建期間がもたらしたのは、常にコストを考える『行政意識の変化』と行政でなく自分たちで何ができるか考える『住民意識の芽生え』であった。」
と記載されていたようです。

常にコストを考える『行政意識』も自分たちで何ができるか考える『住民意識』も財政再建団体になる前に必要なものだと思いますが。

 

財政再建団体でなく自主再建を選んだ泉崎町】

財政再建団体となり国の支援を受けている夕張市を紹介するほか
財政再建団体の選択肢もありながら、国の支援を受けずに自主再建を目指す自治体として、福島県泉崎町をとりあげている。

住宅団地、工業団地の造成が財政破綻の原因だったようです。

福島県からは国の管理による財政再建団体になることをすすめられましたが、
自力再建をしました。
2000年2月に初当選したばかりで財政破綻に直面した小林日出夫村長は、八方ふさがりの状態の中で議会とともに自主再建を選択、工業用地や住宅地の販売に動きだしました。財政再建団体になれば工場用地も住宅地も売れなくなり、村民負担が確実に増えることが予想されたからです。
 泉崎村財政破綻以降、工業用地に企業五社を誘致、十四億円を販売、住宅地は百五区画十一億四千万円を売り上げました。
 村が分譲するニュータウンに移住してもらう遠距離通勤者には、「ゆったり通勤奨励金」として三百万円を限度に交付する制度など功を奏したか不明ですが村も相当努力しているようです。
 財政赤字減らしは目標の六割を達成し、財政破綻という状況からは脱却したようです。

 

【なぜ夕張市財政再建団体の道を選んだか】

本を読んでいるうちに、なぜ夕張市はなぜ財政再建団体の道を選んだのか。という疑問にわいた。

www.j-cast.com

https://www.j-cast.com/2006/12/22004538.html

 

上記のURLの通り、夕張市は、再建計画が始まる人件費、退職手当の削減前に、部長、次長は全員、課長、主幹は5名を残して退職し、53名いた管理職は10分の1に。現職員数(06年4月現在で309人)の3分の1を超す110人以上が退職することになったらしい。

夕張市の職員は、他の自治体の職員と同様に、市の職員としての責任感より、退職金、自分の生活が大事な人が多かったでしょうか。


財政再建団体を申請すると、退職手当債(退職手当支払の借金)について政府資金融資を受けることができ、利子を特別交付金で援助されます。
市の職員の退職手当が満額支払われるように、財政再建団体を申請した可能性もあるのかなと推察しました。

 

また、国の融資など新たな資金がないと職員の給与や住民サービスの利用する支出もできないくらいキャッシュがなくなり、財政再建団体による再建しか選択肢がなくなったのかなと想像しました。

 

市の職員も、ほとんどの人と同様に、仕事や勤務先より、自分の生活やそのためのお金が大事だから、非難することはできません。どちらかというと非難するべきは、結果的に無駄なリゾート開発に公費を投入し、無駄遣いを抑制できなかった市長、市議会でしょう。

その他、自主再建を目指す矢祭町、栄村、原子力発電施設の誘致で補助金や税収増を図る佐賀県玄海町青森県むつ市福島県双葉町の様子も描かれています。
「核マネーは、一度はまると抜け出せない麻薬のようなものである」と著者は指摘しています。

 

自治体財政健全化法の紹介】

この本でも紹介されている自治体財政健全化法の紹介です。

 

以下、総務省のホームページより。
地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(自治体財政健全化法)とは?

 国民の暮らしを担う地方公共団体は今、健全な財政を維持する経営の能力が問われています。しかし、一部の自治体の著しい財政悪化が明らかになったように、従前の制度では事態が深刻化するまで状況が明らかにならないという課題がありました。地方公共団体の財政状況を統一的な指標で明らかにし、財政の健全化や再生が必要な場合に迅速な対応を取るための「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(「健全化法」)が平成21年4月に全面施行されました。


健全化判断比率の内容
 健全化法においては、地方公共団体都道府県、市町村及び特別区)の財政状況を客観的に表し、財政の早期健全化や再生の必要性を判断するためのものとして、以下の4つの財政指標を健全化判断比率として規定している。地方公共団体は、毎年度、前年度の決算に基づく健全化判断比率をその算定資料とともに監査委員の審査に付した上で議会に報告し、公表しなければならない。

(1) 実質赤字比率(当該地方公共団体の一般会計等を対象とした実質赤字額の標準財政規模に対する比率)

(2) 連結実質赤字比率(当該地方公共団体の全会計を対象とした実質赤字額又は資金の不足額の標準財政規模に対する比率)

(3) 実質公債費比率(当該地方公共団体の一般会計等が負担する元利償還金及び準元利償還金の標準財政規模を基本とした額(※)に対する比率)

(4) 将来負担比率(地方公社や損失補償を行っている出資法人等に係るものも含め、当該地方公共団体の一般会計等が将来負担すべき実質的な負債の標準財政規模を基本とした額(※)に対する比率)

※標準財政規模から元利償還金等に係る基準財政需要額算入額を控除した額

こういった指標で住民がチェックして健全な自治体財政を。と著者も呼び掛けています。本来であれば、住民の代表である議員、議会の仕事ですが、議員、議会は、有権者の投票を期待して、支出を増やす方向にあるので、あまり健全な財政運営には期待できないようです。

 

自治体も自助努力を】

本書を読む限り、多くの自治体の財政困窮は無謀な開発計画など自業自得的な要素もあります。国からの過剰な補助を期待するのでなく、自助努力をまず考えるべきでしょう。
個人も同じで、自助努力を否定し、国からの過剰な補助を期待するなら、困るのは国でなく、その人になるのと同じでしょうか。

 

【改めて本の紹介です】

www.amazon.co.jp

自治体倒産時代 (講談社+α新書) (日本語) 新書 2007/9/21
樺嶋 秀吉 (著)

 

商品の説明

あなたの町の「財政」も破綻寸前だ!   北海道夕張市の経済破綻は、対岸の火事ではない。大甘経営をしてきた地方自治体の倒産は、どこでも現実となって襲いかかってくる。さあ、あなたの町は大丈夫か?

内容(「BOOK」データベースより)
夕張市の破綻を「対岸の火事」とは笑えない。自立か、自主再建か、「核マネー」に頼るか。試される「住民力」。

 

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
樺嶋/秀吉
1957年、北海道札幌市に生まれる。早稲田大学法学部卒。毎日新聞社で記者9年(地方部:山形支局、政治部:首相官邸自民党、野党、法務省、文部省などを担当)、冬樹社で単行本編集者を経て、フリーランスのジャーナリストとなり、埼玉県鶴ヶ島市行政改革監視委員会(審議会)の委員。2003年、住民の政治参加を進める特定非営利活動法人(NPO法人)「コラボ」を設立し、代表理事に就任(現在、理事)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

以 上 です。