『暴走する地方自治』田村 秀 (著) を読んで。

『暴走する地方自治』田村 秀 (著) を読んで、所感や要点など記載します。

 

 

【著者の経歴が主張にも影響か】
 役所や公務員を抵抗勢力として改革の対象とする改革派の知事や市長を批判しています。

 自治省(現総務省)、香川県企画調整課長、三重県財政課長という著者の経歴もある方で、公務員として地道に仕事に取り組んだ経験もある方なので、そういった経歴、経験も影響はしていると思います。

 批判の対象となっているの幅広い改革派知事、市長で、橋本徹大阪府知事大阪市長河村たかし名古屋市長、大村 秀章愛知県知事、泉田裕彦新潟知事、篠田昭新潟市長、宮城県知事浅野史郎岐阜県知事梶原拓三重県知事北川正恭岩手県知事増田寛也 高知県知事橋本大二郎鳥取県知事片山善博、宮崎県知事東国原英夫新潟県加茂市長 小池 清彦、横浜市長中田宏 など多くの事例を挙げて、いわゆる改革派知事、市長が、地方の問題の解決できず、財政、所得、教育水準の向上などが実現できずに終わったと主張しています。

 

名古屋市の住民税減税について】

 名古屋市の住民税減税は、全国の自治体でもでも画期的な政策ですが、金持ち優遇、効果が低いと批判しています。
 「名古屋市の100万人以上の納税義務者のうち、40万人はこの減税の対象外となる。所得の低い層にはこの減税の恩恵はないのだ。
 名古屋市の試算では年収300万円のモデルケースでは年間1800円、年収1000万円では17500円の減税となる。(中略) この程度、減税になったからといってどれだけ消費に向かうだろうか」
という批判しています。この批判はこの本の出版時期から2011年から2012年当時のものですが、2019年11月に名古屋市のレポートでも、『減税をしないで公共事業を行えば国の補助金などが増え、結果的に減税するより経済効果をもたらす。』とその経済効果を否定した報告をしています。

https://www.sankei.com/west/news/171218/wst1712180001-n1.html

www.sankei.com

http://www.city.nagoya.jp/zaisei/cmsfiles/contents/0000099/99733/gaiyou2.pdf

名古屋市ホームページ 市 民 税 5 % 減 税 検 証 報 告 書 (概要版)

 

 名古屋市の住民税減税について、『10代、20代の住民税を0円にする。』など、一律5%でなく、住民税減税を恩恵がわかりやすいような政策を実施すれば、経済効果も大きいと思っています。

 

【「改革派」首長の共通項】
「改革派」首長の共通項として、

① 抵抗勢力を明確にする。
② 危機を煽る。
③ マスコミにたびたび登場する。
④ 外部からの人材登用に積極的である。
をあげていますが、首長でなく、改革派政治家の共通項としてもいいかもしれません。

いずれにも批判の対象にするのは難しいと思います。


① 「抵抗勢力の明確にする。」という点は、改革を反対にするのは悪だという主張は政策論争ができなくなる、阿久根市の例を挙げて、極端な対立は行政運営を危うくする問題を指摘しています。ただし、改革の内容を分かりやすく伝える、改革の対象を明確にする意味で、改革の反対している人たちだ、どのような人かわかりやすく明確にすることは大切だと思います。
② 「危機を煽る。」という点も、煽るのはよくないですが、危機感を持ってもらうことは必要なケースがあり、煽るのと危機感を伝えるのはその差は難しいと思う。
③ 「マスコミにたびたび登場する。」という点も、マスコミにたびたび登場できるほど、視聴率など数字がとれる、人気があるという点もあるのでしょうか。
目立って、人気取りをしていると非難していますが、民主主義の政治家であれば、目立って、人気採ることも、政策の実現に必要でしょう。

④ 「外部からの人材登用に積極的である。」という点は、組織の中で軋轢を招くという批判していますが、軋轢が必要だから、外部の人材を登用しているので、これについて非難するのは、不適切かなと思いました。もし、外部から登用された人材より優秀な人がいれば、具体的な主張をすればいいと思います。  

 

【不易流行】
地方自治は、不易流行、つまり不易(変わらないもの:継続)と流行(変えるもの:改革)のバランスが大事という主張はその通りだとおもます。
どんな仕事も事業も同じですが、流行(変えるもの:改革)にばかり目を向けるのでなく、不易の部分を重要視、注目する必要があると私も感じています。

 

【改めて本の紹介です】
『暴走する地方自治』田村 秀 (著)  – 2012/5/1

商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
「地方から国を変えよう!」のかけ声のもと怪気炎を上げる知事や市長、地域政党。彼らは行政の無駄を廃した地元の発展、自立した地域同士の連携によって国と対峙することを目指している…ように見える。だがその主張は矛盾だらけ。幻想の地域主権と言わざるをえない。この熱狂の行き着く先には何が待っているか。“改革派”首長が掲げた政策と彼らの政治行動、さらに結果を分析しながら、あらためて地方自治の根幹を問いなおす。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
田村/秀
1962年生まれ。北海道出身。東京大学工学部卒、博士(学術)。自治省香川県企画調整課長、三重県財政課長を経て、新潟大学法学部副学部長・教授。専門は行政学地方自治、公共政策(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

 

 

以上です。