LG製EV用バッテリーのリコール特需(GMボルトEVや現代コナEVのバッテリー無償交換の特需)

LG製EV用バッテリーのリコールのニュースを整理して、その特需の大きさ、特需銘柄について考えた内容をまとめたブログ記事です。

 

▼目次

LG製EV用バッテリーリコールを整理する】

主に2021年以降、LGエナジーソリューション(以下LGと略します)が製造したEV用バッテリー発火事故やリコールが報道されていますが、メーカと車種は三つです。

韓国LG化学(LG Chem)は、2020年12月1日、同社の電池事業を、子会社に「LGエナジーソリューション(LG Energy Solution)」として独立させています。子会社上場が目的のようです。

 

現代自動車のKONA EV(コナEV)

韓国、アメリカ、EUで販売されています。
2021年2月 約8万2000台(韓国国内で約2万7000台、アメリカやEUなど世界各国で5万5000台)のバッテリーの無償交換を発表しました。2017年9月から2020年3月に生産した車両が対象です。コナEVには、バッテリー容量39.2KWHと64KWHの車種があります。

 

現代自動車が8万2000台をリコール=電池無償交換から何を読み解くべきか | EVsmartブログ

リコールそのものは騒ぎ立てることじゃない
ちなみに、日本における令和元年度のリコール件数は、国産車が229件で対象台数は約990万台、輸入車が186件、約65万台、合計で415件、約1053万台に及んでいます。

の通り、自動車のリコール自体は珍しいことではありません。

リコール・改善対策の届出(令和3年分) - 国土交通省

である通り、日本でも、ほぼ毎週のペースで、どこかの会社がどこかの車種でリコール(無償交換、無償修理)を発表しています。つまり、リコールがない週があれば、その方が珍しいくらいです。

 

GMのChevrolet Bolt EV(シボレー・ボルトEV)

リコールは3回にありましたが、1回目はバッテリーの交換は発生しておらず、ソフトウェアのアップデートのみなので、GMやLGの損害は少ないでしょう。
販売先はほとんどすべてが米国、カナダです(ノルウェーにも若干輸出しているようですが、台数は不明)。

2020年11月 充電制御するソフトウェアのアプデートのみ。
2021年07月 2017~2019年型の車両約6万8000台のバッテリーの無償交換を発表した。
2021年08月 2019~2021年型の車両約7万3000台のバッテリーの無償交換を発表した。


合計するとGMは、約142,000台のリコール、電池の交換を実施するとしています。

2017年式のシボレー・ボルト EV

2017年式のシボレー・ボルト EV 

 

なお、GMのボルトのバッテリーには、8年/ 100,000マイル(160,000 km)、どちらか短い方がサポート対象ですが、
交換するとこれがリセットされるそうです。

例えば、2018年に買って、3年利用した人は後5年しか乗れなかった人は、後8年乗れるのようになります。
その分リセールバリューもあがるでしょう。

ボルトEVのオーナーにとっては、不幸中の幸いというか、棚からぼた餅、ケガの功名という感じですね。

 

フォルクスワーゲンID.3の発火炎上事故

フォルクスワーゲンID.3というEVが、オランダで1台発火炎上したという話があります。


原因はLG製EVバッテリーかもというも話がでていますが、フォルクスワーゲンID.3のEV用バッテリーがそもそも原因かもわかりませんし、そのEVバッテリーがLG製かもわかりません。

原因が不明で、フォルクスワーゲン側に過失があったのかよくわかりません。充電設備側の問題の可能性もあります。

 

まだ情報がすくな、具体的なリコールといった話はでてきていません。

いわゆるマスメディア(一般的に信頼できるであろう報道機関) もニュースにしていません。

自動車会社の過失とならない発火事故(もしかしたら意図的かも)を、フォルクスワーゲン、EV製品、韓国製品を好ましく思っていない人が針小棒大に伝えているだけの話のようにも解釈できます。

【リコールされるEVバッテリーの量】

リコールは珍しくないですが、今回のようなLG製EVバッテリーのような大規模なリコールは異例です。

異例なのは台数でなく、重要部材のバッテリーそのものが無償交換となる異例さです。

ガソリン自動車でいえば、エンジンなど駆動系の部品、機構を全交換するようなインパクトに匹敵します。

 

■コナEVとボルトEVの合計

▼コナEV分
82,000台 × 50KWH =4,100,000KWH
コナEVは、バッテリー容量39.2KWHと64KWHの車種があるが、その中間の50KWHで計算した。

▼ボルトEV分
142,000台 × 65KWH =9,230,000KWH

https://response.jp/article/2021/02/16/343176.html
上記の2021年2月の記事で、『ボルトの最新型は従来型の60KWHから、新型では65KWHと大容量化した』とあるので、全て新型に交換されると仮定して計算しました。

 

▼合計

EVの車数:82,000台 + 142,000台 = 224,000台
電池容量:410,000KWH + 923,000KWH = 13,330,000KWH =13300MWH

=13.3GWH(ギガワットアワー)

 

■ワット、ワットアワー、キロワットアワー、メガワットアワー、ギガワットアワー、ギガファクトリーの解説

EVやリチウムイオンバッテリー業界でよく利用されるワット、ワットアワー、キロワットアワー、メガギットアワー、ギガワットアワー、ギガファクトリーの意味を解説します。

  • 1WHは、1ワット(watt 一秒単位の電気資料量)が1時間(hour)に利用できる容量です。豆電球のようなLEDの小さな電球1個を1時間、照らせるぐらいの容量です。
  • K(キロ)がついた1WH(キロワットアワー)、1WH(ワットアワー)の1000倍です。
  • M(メガ)がついだ1MWH(メガワットアワー)は、1WH(ワットアワー)の100万倍、1KWH(キロワットアワー)の1000倍です。
  • G(ギガ)がついた1GWH(ギガワットアワー)は、1WH(ワットアワー)の10億倍で、1MWH(メガワットアワー)の1000倍です。


「【節約】電気代を最大90%節約。従来の10W白熱電球を1W LEDに置き換えます。」とアピールしてる指でつまめる程度の大きさの1ワットの電球↓です。

 

EV1台当たりの容量は50KWH程度ですが、50KWHだと、5万個の豆電球が1時間利用できる容量という意味です。

テスラのギガファクトリーという言葉がよくニュースになりますが、年間の1ギガワットアワー相当の容量の電池を生産できるといった意味のようです。

 

ギガファクトリーなら、50KWHの電池が1台に搭載されるとして、約2万台のEV自動車用の電池が生産できることになります。

 

 

■リコール対象22万4千台のインパク

2021年上期の世界のEV自動車販売数は、260万台です。
1月当たりの数字、260万代を6で割った数字と、約43万台です。
コナEVとボルトEVのリコール台数22万4千台は、0.52カ月で、約2週間から3週間分の販売台数と同じです。

全世界のEV用のバッテリーが、半月分、余計に必要になった計算です。

 

 

■リコール対象の13.3ギガワットアワーのインパク

LGのEV用バッテリーの1月から7月の出荷量は、33.2GWHと報じれています。
今年の1月から7月までの累計で、EV用バッテリーの世界市場シェアは24.2%で、中国CATL(30.0%)に次いで2位を占めています。3位のパナソニック(21.0%→14.3%)とはシェアの格差をさらに広げています。なお、リチウムイオンバッテリーは、約70%がEV用バッテリーが今はしめているので、ほぼ、リチウムイオンバッテリーのシェアもだいたい同じだと思います。

世界シェア2位のLGの全工場でコナEVとボルトEVのリコール用の電池だけ生産したと仮定します。33.2GWHを7で割って、1月あたり4.74ギガワットアワー出荷できるとして、2.82か月分、約3カ月(年の4分の1)もかかります。
サムスンSDIやSKイノベーションは、世界シェアは約5%で、LGは5分の1ぐらいの規模です。

サムスンSDI(SKイノベーションでもいい)の1社分を上回る需要が、短期間で必要になったのです。

 

今年上半期(2021年1月から6月)の世界におけるEV用バッテリーの出荷量は114.1ギガワットアワー(GWH)と報じられているので、1月当たり19ギガワットアワー分供給されるとして、だいたい0.7カ月(21日分、3週間)分の出荷量です。


全世界でコナEVとボルトEVのリコール用の電池だけ生産しても、3週間もかかります。

 

人命にかかわる問題で、メーカーの法的義務なので、着実に迅速に無償交換は実施される必要があるでしょうから、13.3ギガワットアワーの需要は、短期的(ここ1年ぐらい)には需給を引き締めて、相当、リチウムイオンバッテリー業界には追い風になると思われます。

 

もちろん、ボルトEVの販売中止やEVに対するネガティブなイメージによる販売の縮小、特需後の反動など、リチウムイオンバッテリー業界にマイナスも長期的には考えられますが、この特需は、短期的には相当なプラスのインパクトがあると考えています。

【特需でプラスの影響を受けそうな銘柄】

パナソニックも特需のプラスの影響はあると思いますが、企業規模も大きく、事業も多岐にわたるのでので、株価へのインパクトは少ないでしょう。

リチウムイオンバッテリーの重要4部材と言われる

  • 正極材:電気を貯蔵するための材料、正極材にリチウムが利用される。日本では、 住友金属鉱山田中化学研究所、戸田工業などが上場。
  • 負極材:電気を放出するための材料、負極材に炭素が利用される。日本では、昭和電工マテリアルズ(旧会社名は日立化成、昭和電工の子会社)、三菱ケミカルなどが上場。
  • セパレーター:正極材と負極材を分離する膜で、電解液に含まれたリチウムイオンだけ通過させます。ポリオレフィンと呼ばれるプラスチックの一種が利用される。日本では、旭化成東レ住友化学、ダブル・スコープなどが上場。
  • 電解液:正極材と負極材の間を移動する材料石油を分離してできた溶剤とリチウムイオンを含んだ塩からできる。日本では、三菱ケミカル三井化学が上場。

といった部材メーカーの方が、売上比率的にもパナソニックより恩恵を受けそうです。

 

より恩恵を受けるのは、田中化学研究所、戸田工業、ダブル・スコープといった規模も小さく、リチウムイオンバッテリーの部材の売上比率が大きい会社でしょう。

「危険性評価試験」や「電池試験」などの受託評価事業をもつカーリットホールディングス、電池の測定機械を扱う堀場製作所やHIOKIも特需の恩恵を預かりそうです。

といっていも、この辺の特需のすでに株価に反映されているかもしれませんが。

EVやリチウムイオン電池関連では誰も注目していませんが、リコールの特需とは直接関係ないですが、発火事故などが増えれば、日本フェンオールという温度検知機器、火災防止や消火設備を扱う会社など注目かもしれません。

 

【LGのバッテリーの不具合の原因】

LGのバッテリーの不具合が、部材にあり、LGから損害賠償や無償出荷など要求されるリスクも、上記企業に可能性としてはありえます。

 

GM現代自動車、LGも含めて各社からそのようなプレスリリースはされていないこと(交渉中、守秘義務の関係で開示できない可能性もあるが)

 

現代自動車のリコールは上期決算、通期見通しの影響が出るはずだが、そのような開示、説明もないこと。守秘義務があって企業名が出せなくても、『韓国EV車のリコール問題の影響で、業績が』といった話がもしあれば、説明もされそうだが、そんな話もない。

 

といった理由から、日本の部材製造企業、その製品に損害賠償などが求められる直接的な原因はなさそうです。

 

また、LGのサイトには今回のリコールについて開示内容は発見できましたが、現代自動車GMは、EVのユーザー向け、オーナー向けに比較的詳しい情報が開示されています。

 

現代自動車のサイト

https://owners.hyundaiusa.com/us/en/resources/general-information/recall-200-information-and-implementation-plan.html

現代自動車EVバッテリーのオーナー様のための重要な情報

A folded Anode tab in the battery cell could allow the Lithium plating on the Anode tab to contact the Cathode, resulting in an electrical short.
電気ショートになるのは、バッテリー内の折りたたまれた負極材の部品が、正極材の部品の接触するからです。

電気ショート:電池の短絡ともいわれ、短絡とは英語で「Short Circuit」であり、想定以上の電流が流れ、高温になり、破裂、発火する可能性が高い状態です。

 

GMのサイト

https://www.chevrolet.com/electric/bolt-recall

ボルトEVのリコール情報 Bolt EV and Bolt EUV RECALL INFORMATION

What is the defect in recalled batteries?
The problem consists of two LG manufacturing defects (a torn anode tab and folded separator) that, in rare circumstances, can simultaneously present in a single battery cell in the LG battery module.

リコールされたバッテリーの欠陥は何ですか?
この問題は、2つのLG製造上の欠陥(負極材の破れと折りたたまれたセパレーター)で構成されており、まれに、LGバッテリーモジュールの単一のバッテリーセルに同時に存在する可能性があります。

こういった現代自動車GMの開示情報から、それぞれの部材の品質、機能に問題があったのでなく、積層、塗布といった製造工程上の不良や電極の厚み、面積、組成といった設計上の問題であった可能性が高そうだと私は考えています。

仮に、部材そのものに問題があったなら、「セパレーターの耐熱性に問題があったなど」など部材そのものの品質にフォーカスがあたった説明になっていると思いますし、その部材を利用しているのはLGだけでないと思うので、LG以外のEVバッテリーでもリコールの話が出てきそうですが、そんな話は現時点ではありません。


ちなみに、GMの場合、LGバッテリーモジュールとはっきりとLGが原因と報告していますが、これはLGにも説明し、合意を得て、LGも認めているのでしょう

上記のGMのサイトに

When do you expect to have all the recalled vehicles repaired?
We are working aggressively with LG to adjust production to have replacement modules available as soon as possible. 
リコールされたすべての車両がいつ修理されると思いますか?
LGと積極的に協力して、交換用モジュールをできるだけ早く入手できるように生産を調整しています。 

とのことで、LGもケガの功名でないですが、ここでGMに対して誠意ある責任のある協力をして、GMと深い信頼関係を築けるチャンスかもしれません。

今回のリチウムイオンバッテリー業界への影響などもう少し別のブログで私が考えた内容を発表したいと思います。


以上

 

 

タグ #ダブルスコープ #W-SCOPE #EV #LG #リコール

銘柄 
銘柄 田中化学研究所4080,戸田工業4100,ダブル・スコープ6619,カーリットホールディングス4275,堀場製作所6856,HIOKI6866,日本フェンオール6870

 

以 上