第6章 定置型蓄電池の幕開け-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで

 

電池の覇者 EVの命運を決する戦い | 佐藤 登 著 を読みました。その要点、所感など紹介したいと思います。今回は「第6章 定置型蓄電池の幕開け」についてです。

拡大する定置型蓄電池(電力貯蔵システム ESS:Energy Storage System)の市場、その参入企業、ダブルスコープの新製品の情報など紹介しているブログ記事です。

 

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第5章 車載用電池の攻防-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ

の続きとなるブログ記事です。

 

■拡大する定置型蓄電池(ESS)の市場

これまで、モバイル機器向けや車載用電池を中心に説明してきたが、近年では定置型蓄電池のビジネスが、日本市場で活発になってきている。日本においては家庭用蓄電池として、さらには産業用蓄電池や電力貯蔵用蓄電池としても需要が拡大しつつある。

 

車載用途で開発されてきたリチウムイオン電池は、性能、安全性、価格低減も進み、導入しやすい状況が形成されている。電動車の増加に連動して必要とされるリチウムイオン電池は、今後も性能や価格低減が進むことでエネルギー社会の一翼を担う。

 

生産量拡大に向けた投資力、価格コントロール力が競争の原動力となっている。

といった記載があります。

 

定置型蓄電池(電力貯蔵システム ESS:Energy Storage System)が注目されています。

 

太陽光、風力発電は、発電が不安定で、需要がない時に発電して、需要があるときに発電できない状況が発生します。この問題は発電した電気を貯める蓄電池があれば解消できますが、問題はコストです。蓄電池に電気を貯蔵より、新たに発電した方がコストが安い状況であれば、普及しません。

 

例えば、テスラは、蓄電池としてPowerwll(パワーウォール)を販売しいてます。

テスラ パワーウォールの価格の目安は
 ・商品のみの価格:99万円(税抜)
 ・設置費用総額:160万円前後(税抜)

と言われています。4人家族の電気代は年間12万円ぐらいだとすると、10年分の電気代は120万円です。仮に10年間の電気が無料になったとしても、設置するコストは回収できません。なお、Powerwll(パワーウォール)の保証期間は10年とされているので、寿命もその程度でしょう。

仮に需要がない時に発電された電気(家庭での太陽光発電なども含む)が格安で利用でき、これをテスラのPowerwllに貯蔵し利用して、電気代が実質半額になったとしても、10年で60万円しか節約できません。

テスラのPowerwll(パワーウォール)を160万円で投資して、10年利用しても、100万円損する計算になります。

 

仮に、需要がない時に発電された電気(家庭での太陽光発電なども含む)の利用が無料になって(太陽光発電も設備の新設、維持のコストがあり、ありえない話ですが)、それを蓄電池に貯蔵して、必要な時に使ったとしても、10年間では、120万円しか節約できず、この場合でも40万円損することになります。つまり、元をとる、投資を回収するのは無理です。

もちろん、災害などでの停電のバックアップなどの用途も考えれば、単純に節約できる電気代で効果測定はできませんが。

 

今後、電気代が現状の倍程度に上昇したり、蓄電池の価格が低下(蓄電池の寿命の長期化も含む)すれば、費用対効果から、普及が進むかもしれませんが、現状は、費用対効果、経済合理性から普及が進むことは難しそうです。

 

テスラの蓄電池は13.5kwhと容量が大きい商品(一般的な5人家族の1日の電気利用量と同等か)です。

国内で普及している家庭用蓄電池は1 kwh につき20万円が相場ですが、テスラの蓄電池は1 kwh あたりおよそ7万円と価格破壊というレベルの非常に価格が安いことが特徴です。

それでも、投資回収が困難な価格ですから、まだまだ普及は難しそうです。

 

とはいえ、家庭用の蓄電池も含めたESSの市場は拡大は予想されています。

ESS市場 7.5B$ 見通し(YoY +31%) ソース: IHS、BNEF、Woodmackenzie、SDI Marketing

主要国別の再生可能エネルギー政策の強化電力用市場の成長を継続- 自然災害、電力需給不安定対応のためUPS・家庭用需要拡大⇒当社、UPS・家庭用販売比重拡大で収益性を向上

サムスンSDIの決算説明資料によると、

と前年比31%増と大幅な成長が、2022年は予想されています。

ESSとは、電力貯蔵システム(Energy Storage System)または二次電池電力貯蔵システム(Battery Energy Storage System)の略称です。
蓄電池(二次電池)とPCS(Power Conditioning System電力制御システム)を組み合わせて電力系統に連系し、状況に応じて電力の貯蔵や放出を行うシステムのことです。

家庭用、産業用の蓄電池というより、電力会社が利用する蓄電池といえます。

 

定置用蓄電池(ESS)世界市場に関する調査を実施(2021年) | ニュース・トピックス | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所

といった記事を見ると出荷容量ベースで、2020年の市場規模から、2030年には3倍になると予想されています。

 

●脱炭素の流れから、化石燃料の生産が減り、化石燃料が上昇し、現在の発電の出力である火力発電のコストが高まり、電気代が高くなる。

●再生エネルギーの普及で、電池の貯蔵ニーズが高まる。

●車載用電池の普及で、電池がコストが下がる。

●再生エネルギーの普及で、電力供給が不安定になり、停電時のバックアップ用電源の重要性も増す。

といった理由で、今後の市場の拡大は確かなようです。

 

■定置型蓄電池(ESS)の参入企業

第1グループは、モバイル用途事業、車載用途事業、そこに定置型用途と3本立てでシナジーを出すグループだ。パナソニック、マクセルグループ、サムスンSDI、LG化学がこのグループに入る。第2グループは、車載用事業の延長上に定置型蓄電ビジネスを構えるグループで、東芝、GSユアサ、エンビジョンAESCジャパン、CATL、テスラが該当する。

第3グループは、モバイル用事業の延長上に定置型蓄電ビジネスを構える企業で、村田製作所だ。最後の第4グループが定置型事業に特化する企業で、エリーパワー、日本ガイシ、それに加えて住友電工がここに属する。

といった内容で、定置型蓄電池(ESS)の参入企業が紹介されています。

筆者も同様のことを述べていますが、車載用電池の単セルは、そのまま定置型蓄電池として使えますから、量産効果、製造コストの削減、安全技術の確立という意味で、第一グループ、第二グループが優位なようです。

NAS電池でビジネスを減らした日本ガイシは、ニッケル亜鉛電池で巻き返しを狙っているが、信頼性の確立が鍵になる。レドックスフロー式の住友電工は価格面での課題は非常に大きく、今後の期待感はリチウムイオン電池の市場拡大とは逆に薄らいでいる。

NAS電池やレドックスフロー電池の将来に少し否定的な見解が述べられています。

 

定置型蓄電池(ESS)もリチウムイオン電池リチウムイオンバッテリー)が中心となりそうです。コストは大事で、その点、NAS電池やレドックスフロー電池は高価なレアメタルが少なく、リチウムイオン電池より価格的に有利と言われている(いた)そうです。

 

ただ、

NAS電池:温度は300度を維持しないといけない(火災事故を誘発しやすい)、ナトリウムや硫黄など危険物が使用されているということで安全面で課題があります。

レドックスフロー電池:小型化できない(LiBの1/5くらいエネルギー密度が低い)。大規模な電力用設備と用途が限られる。

といったデメリットがあり、結局はEV用の電池としてはリチウムイオン電池しか選択肢がなくなったように、ESSでもリチウムイオン電池しか現実的な選択肢はなくなるかもしれません。

■W-SCOPEのサイトから新技術・新製品の情報が消えた?

↑のブログで紹介しましたが、ダブルスコープは、レドックスフロー電池のセパレータの開発も検討しているようでした。

そういえば、以前見たときには、ホームページにも写真で開発予定の新技術・新製品を紹介していたと思いますが、今日(2022年2月6日)見たら、その情報に飛ぶリンクが消えいました。

 

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W-SCOPEの会社サイトの製品技術情報より

 

リンクを消した(無効にした)理由はわかりませんが、『ここ数年は、リチウムイオン電池のセパレータ市場で勝負する。』という会社の姿勢の表れでしょうか。

 

 

■佐藤登氏の著書

佐藤 登氏 の著作を、アマゾンのリンクで紹介します。

 

 

 

 

 

■改めて本の紹介

 

 

●佐藤 登氏 の経歴

名古屋大学未来社会創造機構客員教授エスペック上席顧問
1953年秋田県生まれ。1978年横浜国立大学大学院工学研究科修士課程修了。同年本田技研工業入社。自動車の腐食制御技術開発に従事した後,1990年本田技術研究所基礎研究部門へ異動。1991年電気自動車用の電池研究開発部門を築く。チーフエンジニアであった2004年に韓国サムスンSDIに常務として移籍。中央研究所と経営戦略部門で技術経営を担当,2012年退社。2013年より現職。工学博士(東京大学,1988年)。論文,講演,コラム等多数。
主な著書に『危機を生き抜くリーダーシップ(国際文化会館新渡戸国際塾講義録3)』(共著,2013年,アイハウス・プレス),『人材を育てるホンダ 競わせるサムスン』(2014年,日経BP),『リチウムイオン電池の高安全・評価技術の最前線』(共監修,2014年,シーエムシー出版),『車載用リチウムイオン電池の高安全・評価技術』(共監修,2017年,シーエムシー出版)など。

●内容について

製造業の頂上決戦!
巨額投資で市場を席巻する中国、韓国企業。世界をリードしてた日本企業は勝機を見出せるか--。
パナソニックGSユアサ村田製作所、ATL、
サムスンSDI、LG化学、CATL、BYD……。
次世代革新電池を視野に入れた競争の最前線を徹底解説。

1887年に屋井先蔵が世界に先駆けて乾電池を発明して以来、日本の電池産業は長く世界をリードしてきた。とりわけ1960年代以降は隆盛期を迎え、次々と新たな電池を開発、生産を開始した。さらに1983年には旭化成の吉野彰氏らが経済社会を大きく変えることとなるリチウムイオン電池の原型を確立。1991年にソニーが世界初の製品化を実現した。
日本電池産業の輝かしい歴史も、21世紀に入ると様相が変わる。韓国企業が日本勢を追い上げ、2010年にはサムスンSDIがモバイル用リチウムイオン電池で世界シェアトップに立った。近年は、さらに高い性能を要求される自動車搭載用の大型リチウムイオン電池の世界で、中国勢が急速にシェアを伸ばしている。高性能電池の開発、製造の行方は、製造業の頂点に立つ自動車産業の未来をも左右する。世界の環境規制、中国の産業政策などもあいまって、日本の牙城だった電池産業が大きく変貌しようとしている。

 

●目 次

まえがき-まえがき-を読んで - 令和の未来カエルのブログ

 

第1章 日本の牙城

-第1章 日本の牙城-を読んで - 令和の未来カエルのブログ 1

1日本の底力

2 電池の基本的仕組み
3 車載用へと電池の用途広がる
4 日本の強み

 

第2章 モバイル用電池の明暗

第2章 モバイル用電池の明暗-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ

1 電池革命を起こしたリチウムイオン電池
2 戦略の欠如
3 ソニーの電池事業撤退
4 ハイエンド偏重の日本、ローエンドも重視する韓国

 

第3章 EV開発の思惑と電池戦略

第3章 EV開発の思惑と電池戦略-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ (hatenablog.com)


1 環境規制が主導する自動車の電動化
2 トヨタがEVを投入せざるを得ない事情
3 選ばれるEVとは?
4 テスラの巨額投資とリスク
5 急加速のEVシフトに潜む5つの課題
6 元素戦略と資源争奪戦
7 トップブランド参入で競争激化
8 環境対応車における日本のリード

 

第4章 中国市場の変化と欧米、インド

第4章 中国市場の変化と欧米、インド-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ

1 環境改善か下剋上か─EVシフトの先
2 翻弄される日韓企業
3 中国NEV規制への対応
4 驀進する中国EV、電池業界の異変
5 中国のEV政策変化は外資に追い風?
6 EVが減速する中国、加速する欧州
7 2020年、車載電池業界の勢力図が明確に
8 揺れる米国のルール
9 台頭するインドの電動化と矛盾

 

第5章 車載用電池の攻防

第5章 車載用電池の攻防-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ

1 合弁が難しい電池事業--韓国勢はフリーを選ぶ
2 R&D投資でも激突する日中韓
3 戦略は随時見直してこそ生きる

 

第6章 定置型蓄電池の幕開け

1 定置用電池業界に第三勢力参入
2 韓国企業の火災事故
3 2019年からのFIT問題

第7章 品質競争─安全性と信頼性のビジネス
1 なぜサムスンの最新スマホは爆発したのか?
2 電池の安全性を要求する国連規則
3 中国製リチウム電池が信頼できない理由

第8章 成長への戦略
1 加速する次世代電池開発
2 次世代革新電池はいつ実現するか?
3 日本を取り巻く状況
4 日本勢の命運
5 ノーベル化学賞の栄誉

あとがきに代えて
参考文献・資料

 

以上

銘柄メモ

ダブルスコープ,パナソニック,マクセルグループ,東芝,GSユアサ,村田製作所,日本ガイシ,住友電工
6619,6752,6810,6502,6674,6981,5333,5802