第2章 モバイル用電池の明暗-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで

 

電池の覇者 EVの命運を決する戦い | 佐藤 登 著 を読みました。その要約、所感、関連する話題など紹介したいと思います。今回は「第2章 モバイル用電池の明暗」についてです。

 

 

 

に続けてのブログ記事です。

 

■要約

サムスンSDIの取引のある日本の部材メーカーの技術者の発言
「日本の電池メーカーにサンプルを出しても、忙しいのか担当が抱えている案件が多すぎるのかは分からないが遅々として進まない。仮に評価結果が良くてもなかなか採用の判断をしてくれない。
しかも、
評価結果は○か×のみ。×の場合に『どこが悪いのですか?』と尋ねても『ノウハウだから詳細は開示できない』と言われてしまう。今後の開発方針が示されないため実用化につなげられない。どうしたらよいのでしょうか?」と打ち明けられたのだ

日本の強みの一つであった電池メーカーと部材メーカーとの強い協業体制が崩れ、むしろサムスンSDIやLG化学が良好な関係を構築していることを日本側が見落としてはならない。


サムスンSDIのプレゼン後、日本の大手電動工具メーカーの役員の発言
「このような詳細なプレゼンを受けたのは今日が初めて」


既存顧客は定期的な交流を重ねることで提携を強める。その一方で、顧客になっていない企業には積極的にドアを叩き面会を取り付けるまで食い下がり、競合他社よりも熱の入ったプレゼンと協議・交渉を実施する

と「-第2章 モバイル用電池の明暗(電池の覇者)」で、
日本の電池メーカのシェア低下、サムスンSDIのシェア向上について、その原因を、サムスンSDIなど韓国企業が部材メーカーと関係・顧客への営業力を強化した、地道な努力としています。

■所感

サムスンSDIの役員として社員を指導した著者自身の努力も紹介されていますが、サムスンSDIやLG化学(LGエナジー)などの韓国企業の飛躍の原因で、私が一番大きいと思うのは、選択と集中により、リチウムイオン電池リチウムイオンバッテリー)事業に、人、モノ、カネの経営資源を戦略的に、初期投資、市況悪化時の巨額の赤字を気にせず、投資ができたのでしょう。
投資ができからこそ、部材メーカー、顧客との関係も強化されてきたのでしょう。

日本の会社の担当者は、部材メーカー、顧客との関係強化にさけるヒト(の時間)、モノ、カネがなく、
サムスンSDIの担当者は、部材メーカー、顧客との関係強化にさけるヒト(の時間)、モノ、カネがあったとうのが原因であるとように思います。
良くも悪くも、多角化されて事業のスクラップが難しく、戦略事業に経営資源が割けないパナソニックソニーNECなどの日本企業の特徴が、リチウムイオン電池事業でも、日本企業のシェア低下が招いたようです。

 

 

■関連する話題

第1章とも共通する話になりますが、リチウムイオンバッテリーの日本企業のシェア低下という話をきくと、リチウムイオンバッテリーと同様に日本企業がシェアが落とし、韓国、台湾企業に完敗したDRAMを中心とした半導体産業についての歴史を思いだします。

 

韓国、台湾企業に完敗したDRAM事業を中心とした日本の半導体産業の歴史については、以下のブログも参考にしてください。

 

 

 

 

 

 

 

■佐藤登氏の著書

佐藤 登氏 の他の著作を紹介します。

 

 

 

 

■改めて本の紹介

 

 

●佐藤 登氏 の経歴

名古屋大学未来社会創造機構客員教授エスペック上席顧問
1953年秋田県生まれ。1978年横浜国立大学大学院工学研究科修士課程修了。同年本田技研工業入社。自動車の腐食制御技術開発に従事した後,1990年本田技術研究所基礎研究部門へ異動。1991年電気自動車用の電池研究開発部門を築く。チーフエンジニアであった2004年に韓国サムスンSDIに常務として移籍。中央研究所と経営戦略部門で技術経営を担当,2012年退社。2013年より現職。工学博士(東京大学,1988年)。論文,講演,コラム等多数。
主な著書に『危機を生き抜くリーダーシップ(国際文化会館新渡戸国際塾講義録3)』(共著,2013年,アイハウス・プレス),『人材を育てるホンダ 競わせるサムスン』(2014年,日経BP),『リチウムイオン電池の高安全・評価技術の最前線』(共監修,2014年,シーエムシー出版),『車載用リチウムイオン電池の高安全・評価技術』(共監修,2017年,シーエムシー出版)など。

 

●内容について

製造業の頂上決戦!
巨額投資で市場を席巻する中国、韓国企業。世界をリードしてた日本企業は勝機を見出せるか--。
パナソニックGSユアサ村田製作所、ATL、
サムスンSDI、LG化学、CATL、BYD……。
次世代革新電池を視野に入れた競争の最前線を徹底解説。

1887年に屋井先蔵が世界に先駆けて乾電池を発明して以来、日本の電池産業は長く世界をリードしてきた。とりわけ1960年代以降は隆盛期を迎え、次々と新たな電池を開発、生産を開始した。さらに1983年には旭化成の吉野彰氏らが経済社会を大きく変えることとなるリチウムイオン電池の原型を確立。1991年にソニーが世界初の製品化を実現した。
日本電池産業の輝かしい歴史も、21世紀に入ると様相が変わる。韓国企業が日本勢を追い上げ、2010年にはサムスンSDIがモバイル用リチウムイオン電池で世界シェアトップに立った。近年は、さらに高い性能を要求される自動車搭載用の大型リチウムイオン電池の世界で、中国勢が急速にシェアを伸ばしている。高性能電池の開発、製造の行方は、製造業の頂点に立つ自動車産業の未来をも左右する。世界の環境規制、中国の産業政策などもあいまって、日本の牙城だった電池産業が大きく変貌しようとしている。

 

●目 次

まえがき-まえがき-を読んで - 令和の未来カエルのブログ

第1章 日本の牙城

-第1章 日本の牙城-を読んで - 令和の未来カエルのブログ 1

1日本の底力

2 電池の基本的仕組み
3 車載用へと電池の用途広がる
4 日本の強み

 

第2章 モバイル用電池の明暗1 電池革命を起こしたリチウムイオン電池
2 戦略の欠如
3 ソニーの電池事業撤退
4 ハイエンド偏重の日本、ローエンドも重視する韓国

第3章 EV開発の思惑と電池戦略
1 環境規制が主導する自動車の電動化
2 トヨタがEVを投入せざるを得ない事情
3 選ばれるEVとは?
4 テスラの巨額投資とリスク
5 急加速のEVシフトに潜む5つの課題
6 元素戦略と資源争奪戦
7 トップブランド参入で競争激化
8 環境対応車における日本のリード

第4章 中国市場の変化と欧米、インド
1 環境改善か下剋上か─EVシフトの先
2 翻弄される日韓企業
3 中国NEV規制への対応
4 驀進する中国EV、電池業界の異変
5 中国のEV政策変化は外資に追い風?
6 EVが減速する中国、加速する欧州
7 2020年、車載電池業界の勢力図が明確に
8 揺れる米国のルール
9 台頭するインドの電動化と矛盾

第5章 車載用電池の攻防
1 合弁が難しい電池事業--韓国勢はフリーを選ぶ
2 R&D投資でも激突する日中韓
3 戦略は随時見直してこそ生きる

第6章 定置型蓄電池の幕開け
1 定置用電池業界に第三勢力参入
2 韓国企業の火災事故
3 2019年からのFIT問題

第7章 品質競争─安全性と信頼性のビジネス
1 なぜサムスンの最新スマホは爆発したのか?
2 電池の安全性を要求する国連規則
3 中国製リチウム電池が信頼できない理由

第8章 成長への戦略
1 加速する次世代電池開発
2 次世代革新電池はいつ実現するか?
3 日本を取り巻く状況
4 日本勢の命運
5 ノーベル化学賞の栄誉

あとがきに代えて
参考文献・資料

 

以上