電池の覇者 EVの命運を決する戦い | 佐藤 登 著 を読みました。その要点、所感など紹介したいと思います。今回は「第7章 品質競争─安全性と信頼性のビジネス」についてです。
リチウムイオン電池の品質検査で利用される環境測定機器が主力事業のエスペック(著書の佐藤登氏が顧問を務める)やエスペックが連続で選定された「グローバルニッチトップ(GNT)企業100選」について調べた内容も紹介しています。
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- ■著者の佐藤登氏が上級顧問を務めるエスペックについて
- ■エスペックの社名の由来
- ■2014年・2020年と経済産業省の「グローバルニッチトップ(GNT)企業100選」を連続受賞
- ■エスペックの営業利益率
- ■佐藤登氏の著書
- ■改めて本の紹介
第6章 定置型蓄電池の幕開け-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ (hatenablog.com)
の続きとなるブログ記事です。
■著者の佐藤登氏が上級顧問を務めるエスペックについて
人命に関わる事故にもなるため、リチウムイオン電池の安全性は大事だと、当然のことをかもしれませんが、強調しています。
中国製リチウムイオン電池やモバイル充電器を導入しようと検討を進めている各社においては自主的に、かつ過酷な試験法の適用で安全性と信頼性を確保するため、最大限の努力をしていただきたい。
安全性にやや難があるとされる中国系リチウムイオン電池を調達する日系企業、特に自動車メーカー以外の業界に対して苦言しているようです。
2016年7月から、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)等、いわゆるxEV車に適用される電池に対し、国連欧州経済委員会が定めた国連規則「UN ECE R100-02.Part II」に適合することが義務付けられる。電池の安全性と信頼性を認証するもので、その試験法は多岐に亘るだけでなく、電池パックを主体にした試験も組み込まれている。試験装置の開発、その導入、重厚な試験室の建設と周囲の安全策、試験終了後の電池の扱い方に至るまで、各業界にとって大きな負担となる。
例えば試験項目は、外部短絡、温度サイクル、圧壊、振動、衝撃、過充電、過放電、加熱、耐火の9種類に関して求められている。これを見ると、試験は大規模、かつ危険性を伴うことがご理解いただけよう。
何故、このような規則が義務付けられたのか。それはxEVの電池にまつわる火災事故等が頻発してきたからで、それを未然に防ぐための施策である。その事故は、現在、中国に偏在している。従って、中国政府もECE R100をベンチマークし、これをベースに中国独自の「GB規格」を形成しつつある。(中略)
(電池の検査、認証装置について)筆者の在籍するエスペックは環境試験機器メーカーとしてブランド力を発揮し、国内で60%、世界で30%のシェアを握っている。評価試験設備の先端開発にも力を注ぎ、顧客ニーズにタイムリーに応えることで各業界に貢献してきた実績がある。評価試験機器自体の信頼性も要求されるが、競合製品に比較しての強みは、信頼性の高さ、故障率の小ささ、きめ細かなアフターサービスなどが挙げられる。
環境試験装置は、温度や湿度、圧力などの環境因子を人工的に再現し、さまざまな工業製品の信頼性を試験できる装置です。
国内で60%、世界で30%のシェアということで、強い競争力や今後、車載用電池向けの試験機器としての需要も伸びそうで、今後有望なのかなと思って、エスペックという会社について調べてみました。
■エスペックの社名の由来
まず、気になったのがエスペックという社名です。
会社のホームページに社名の由来が記載されていました。
1980年(昭和55年)にスタートしたCI計画(コーポレート・アイデンティティ計画)の一環として、後に現在の社名となる「ESPEC」を1982年(昭和57年)に策定しました。
将来のあるべき姿として3つのイメージ目標「プログレッシブ」「インターナショナル」「インテリジェント」を掲げ、「ESPEC」は3つのイメージ目標を語感的に感じられる言葉として開発した造語です。世界十数か国の方々に調査を実施し、最もイメージに合致する言葉として選ばれました。
とのことです。
「ESPEC」は3つのイメージ目標を語感的に感じられる言葉として開発した造語。
世界十数か国の方々に調査を実施し、最もイメージに合致する言葉。
ということで、社名にあまり意味はないようです。
簡単いうと『なんとなくイメージがよさそう社名にした。』ということですね。
1947年 初代社長田葉井五郎、専務田葉井敏雄、2代目社長小山栄一らが、科学機器の製造を目的として、現本社所在地にて創業。
1954年 株式会社田葉井製作所に改組。
1983年 タバイエスペック株式会社に社名変更(旧社名:株式会社田葉井製作所)
2002年 エスペック株式会社に社名変更。あわせて現在のシンボルマークに変更
と会社の沿革にある通り、もともとは、創業者の名前から来た田葉井製作所という会社名でした。
■2014年・2020年と経済産業省の「グローバルニッチトップ(GNT)企業100選」を連続受賞
●グローバルニッチトップ(GNT)企業100選とは
2014年と2020年と経済産業省の「グローバルニッチトップ(GNT)企業100選」を連続受賞しています。
世界シェアと利益の両立、技術の独自性と自立性、サプライチェーン上の重要性など以下のような項目に着目し選定されるようです。
収益性
従業員あたり売上高
営業利益率
戦略性
技術の独自性・唯一性・展開可能性
納⼊先企業数(国内・海外)
従業員増加⼈数
競争優位性
サプライチェーン上の重要性
世界市場シェアとその将来予測
市場規模とその将来予測
国際性
海外売上高比率
販売国数、海外との取引実績
高成長が続くグローバルニッチトップ企業に注目| 日興フロッギー
グローバルニッチトップ企業に投資しよう~最先端技術を武器に世界で活躍する企業~【投資コラム】 | マネカツ~女性のための資産運用入門セミナー~
「グローバルニッチ」株を徹底マーク、高成長性と割安さ持つ厳選6銘柄 <株探トップ特集> - ニュース・コラム - Yahoo!ファイナンス
といった記事の通り、「グローバルニッチトップ(GNT)企業100選」に選ばれた企業は評価されてるようで、2回連続とは本当にすごい。と思いました。
ただよく調べると、そんなにすごくないように思えます。
●グローバルニッチトップ(GNT)企業100選の倍率
まず、「グローバルニッチトップ(GNT)企業100選」は、応募した企業の2.4社に1社程度は選ばれます。
なお、ぴったし100社選定されるのでなく、だいたい100社ぐらい選定されるという意味みたいです。
2014年(2013年度)のときは、281社が応募して、107社が選定されていました。2.6社に1社、倍率は約2.6倍です。2020年のときは、249社が応募して、113社が選定されていまいた。
2.2社に1社、倍率は約2.2倍です。
両方足すと、2.4社に1社、倍率は約2.4倍です。
もちろん、応募した企業も、「グローバルニッチトップ(GNT)企業100選」に選定される可能性が高いから応募しているわけで、
優秀な企業の中で、特に優秀とされたと思いますが、2.4社に1社が選ばれると聞くと、とそんなにすごくないような気がします。
●グローバルニッチトップ(GNT)企業100選連続選定企業の株価
2014年・2020年の「グローバルニッチトップ(GNT)企業100選」に連続受賞した企業は17社ありましたが、その中で上場企業は、4社あります。
エスペック(6859) 小森コーポレーション(6349) NITTOKU(6145)フルヤ金属(7826)
といった企業です。
直近5年の株価を見ると、市場平均といわれるTOPIX(東証株価指数)の騰落率(+27%)をアウトパフォームしているのは2社、エスペック(+58%)とフルヤ金属(+364%)だけでした。アンダーパフォームしているのは、小森コーポレーション(−54%)とNITTOKU(+24%)という数字でした。
当たり前ですが、「グローバルニッチトップ(GNT)企業100選」だから、株式投資でも有望な会社ともいえないようです。
▼GNT企業100選」連続受賞企業の5年間の株価パフォーマンス
5年前2017年2月17日時点の株価と現在2021年2月10日の株価の比較
■エスペックの営業利益率
選定企業は、単純平均で、営業利益率 12.7%、ということですが、エスペックの2021年3月期の営業利益率は6.6%(2022年4月期の会社予想は5.6%)
は、他と比べて高くありません。
エスペックは環境試験機器メーカーとしてブランド力を発揮し、国内で60%、世界で30%のシェアを握っている。評価試験設備の先端開発にも力を注ぎ、顧客ニーズにタイムリーに応えることで各業界に貢献してきた実績
ということなら、そのブランド力、技術力、高いシェアをもった環境試験機器が主力事業なのであれば、もっと営業利益が高くてもいいのにと思いました。
■佐藤登氏の著書
佐藤 登氏 の著作を、アマゾンのリンクで紹介します。
■改めて本の紹介
●佐藤 登氏 の経歴
名古屋大学未来社会創造機構客員教授、エスペック上席顧問
1953年秋田県生まれ。1978年横浜国立大学大学院工学研究科修士課程修了。同年本田技研工業入社。自動車の腐食制御技術開発に従事した後,1990年本田技術研究所基礎研究部門へ異動。1991年電気自動車用の電池研究開発部門を築く。チーフエンジニアであった2004年に韓国サムスンSDIに常務として移籍。中央研究所と経営戦略部門で技術経営を担当,2012年退社。2013年より現職。工学博士(東京大学,1988年)。論文,講演,コラム等多数。
主な著書に『危機を生き抜くリーダーシップ(国際文化会館新渡戸国際塾講義録3)』(共著,2013年,アイハウス・プレス),『人材を育てるホンダ 競わせるサムスン』(2014年,日経BP),『リチウムイオン電池の高安全・評価技術の最前線』(共監修,2014年,シーエムシー出版),『車載用リチウムイオン電池の高安全・評価技術』(共監修,2017年,シーエムシー出版)など。
●内容について
製造業の頂上決戦!
巨額投資で市場を席巻する中国、韓国企業。世界をリードしてた日本企業は勝機を見出せるか--。
パナソニック、GSユアサ、村田製作所、ATL、
サムスンSDI、LG化学、CATL、BYD……。
次世代革新電池を視野に入れた競争の最前線を徹底解説。
1887年に屋井先蔵が世界に先駆けて乾電池を発明して以来、日本の電池産業は長く世界をリードしてきた。とりわけ1960年代以降は隆盛期を迎え、次々と新たな電池を開発、生産を開始した。さらに1983年には旭化成の吉野彰氏らが経済社会を大きく変えることとなるリチウムイオン電池の原型を確立。1991年にソニーが世界初の製品化を実現した。
日本電池産業の輝かしい歴史も、21世紀に入ると様相が変わる。韓国企業が日本勢を追い上げ、2010年にはサムスンSDIがモバイル用リチウムイオン電池で世界シェアトップに立った。近年は、さらに高い性能を要求される自動車搭載用の大型リチウムイオン電池の世界で、中国勢が急速にシェアを伸ばしている。高性能電池の開発、製造の行方は、製造業の頂点に立つ自動車産業の未来をも左右する。世界の環境規制、中国の産業政策などもあいまって、日本の牙城だった電池産業が大きく変貌しようとしている。
●目 次
第1章 日本の牙城
-第1章 日本の牙城-を読んで - 令和の未来カエルのブログ 1
1日本の底力
2 電池の基本的仕組み
3 車載用へと電池の用途広がる
4 日本の強み
第2章 モバイル用電池の明暗
第2章 モバイル用電池の明暗-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ
1 電池革命を起こしたリチウムイオン電池
2 戦略の欠如
3 ソニーの電池事業撤退
4 ハイエンド偏重の日本、ローエンドも重視する韓国
第3章 EV開発の思惑と電池戦略
第3章 EV開発の思惑と電池戦略-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ (hatenablog.com)
1 環境規制が主導する自動車の電動化
2 トヨタがEVを投入せざるを得ない事情
3 選ばれるEVとは?
4 テスラの巨額投資とリスク
5 急加速のEVシフトに潜む5つの課題
6 元素戦略と資源争奪戦
7 トップブランド参入で競争激化
8 環境対応車における日本のリード
第4章 中国市場の変化と欧米、インド
第4章 中国市場の変化と欧米、インド-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ
1 環境改善か下剋上か─EVシフトの先
2 翻弄される日韓企業
3 中国NEV規制への対応
4 驀進する中国EV、電池業界の異変
5 中国のEV政策変化は外資に追い風?
6 EVが減速する中国、加速する欧州
7 2020年、車載電池業界の勢力図が明確に
8 揺れる米国のルール
9 台頭するインドの電動化と矛盾
第5章 車載用電池の攻防
第5章 車載用電池の攻防-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ
1 合弁が難しい電池事業--韓国勢はフリーを選ぶ
2 R&D投資でも激突する日中韓
3 戦略は随時見直してこそ生きる
第6章 定置型蓄電池の幕開け
第6章 定置型蓄電池の幕開け-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ (hatenablog.com)
1 定置用電池業界に第三勢力参入
2 韓国企業の火災事故
3 2019年からのFIT問題
第7章 品質競争─安全性と信頼性のビジネス
1 なぜサムスンの最新スマホは爆発したのか?
2 電池の安全性を要求する国連規則
3 中国製リチウム電池が信頼できない理由
第8章 成長への戦略
1 加速する次世代電池開発
2 次世代革新電池はいつ実現するか?
3 日本を取り巻く状況
4 日本勢の命運
5 ノーベル化学賞の栄誉
あとがきに代えて
参考文献・資料
以上
銘柄メモ
エスペック(6859) 小森コーポレーション(6349) NITTOKU(6145)フルヤ金属(7826)
6859 6349 6145 7826