第3章 EV開発の思惑と電池戦略-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで

 

電池の覇者 EVの命運を決する戦い | 佐藤 登 著 を読みました。その要約、所感、関連する銘柄など紹介したいと思います。今回は「第3章 EV開発の思惑と電池戦略」についてです。リチウムイオン電池のリサイクル(リユース)技術、静脈産業で注目される銘柄を調べてみました。

 

 

 

 

 

に続けてのブログ記事です。

 

■要約(要旨、抜粋)

ガソリン車やHEVの中でも中古車市場価格が高めに維持される商品は、新車市場でも人気車に位置付けられる。実際に購入して使用した消費者の意見は最も大きな影響を及ぼす要素の一つであろうが、電池の劣化と共に進む航続距離の低下に対する消費者の不満は、これまで最多だったのではないだろうか。それだけに、電池劣化を制御する素材や電池マネジメントは今後も大きな課題である。

 

回収からリサイクルまでに至る事業は「静脈産業」であるが、材料・化学メーカーの技術力が欠かせない。結局は、競争力のあるリサイクル技術を他社に先行して事業化できれば、その恩恵は大きな形となって還元される。

 

リチウムイオン電池の開発・製造・供給という「動脈産業」のみならず、リサイクルまで自己完結するビジネス競争をリードするのは、化学系産業で競争力のある日本か欧州か、あるいはすでに事業を展開中の中国か韓国か、その覇権争いになるのではないだろうか

 

自動車業界のパラダイムシフトは今後、究極のエコカーはFCVなのか、EVなのか、あるいは共存なのか(著者は共存と考えるが)、そういった議論は、今後いっそう活発になっていくであろう

と「第3章 EV開発の思惑と電池戦略(電池の覇者)」で、

リチウムイオン電池リチウムイオンバッテリー)のリサイクル技術が、今後の普及、産業の競争力と鍵となる旨の記述があります。


■所感(感想)

書著の中では、自動車業界のパラダイムシフトは今後、究極のエコカーはFCVなのか、EVなのか、あるいは共存なのか(著者は共存と考えるが)、そういった議論は、今後いっそう活発になっていくであろうという記載があるが、
昨今の潮流でいうと、世界でのEVの販売台数の飛躍的な伸びからEVが主流となるのは決定的な印象です。

水素は電気を使って精製され、-253℃まで冷却しないと水素は液化されず、保管コスト輸送コストが高く、かつ、その水素を使って、電気を生成する装置を自動車に搭載するのですから、自動車の製造コストが高くつく、まさに実現することが難しいという意味での夢の技術のように思えます。

FCV(燃料電池自動車)を推進する人の意見に、現状の内燃機関と同様の製造技術が生かせるために、雇用維持を上げる人もいます。それだけ、EVに比べて、コストがかかることの裏返しだと思います。
FCV(燃料電池自動車)は、そもそも値段が高く、水素、その水素供給インフラのコストが高く、経済合理性という意味では、にEVとは競争できないようです。

現状、EVのリチウムイオン電池リチウムイオンバッテリー)は、
三元系とリン酸鉄系の2種類が利用されています。前者には正極材にニッケル・コバルト・マンガン酸リチウムが、後者にはリン酸鉄リチウムが使われます。

両者にはそれぞれ一長一短があり、三元系はエネルギー密度が高く、低温時にも比較的安定した出力が得られる半面、希少金属のコバルトを使うためにコストが高いという特徴です。一方、リン酸鉄系はエネルギー密度が三元系よりも低く、低温時には出力が低下しやすい。しかし希少金属を使わないためコスト面では有利です。

ただ、リサイクル技術、静脈産業が発達すれば、素材コストが高い三元系は、その貴重な素材を回収するリサイクルに有利といえます。

また、リサイクル技術、静脈産業が発達すれば、中古車の販売価格も上がるでしょうから、「安い」リン酸鉄系も注目されますが、主流になるのは、「高い」けど中古車の販売価格も「高い」三元系に回帰していくのではないでしょうか。

 

※ZEV(Zero Emission Vehicle)とは、排出ガスを一切出さない電気自動車や燃料電池車を指す。カリフォルニア州のZEV規制(1990年に導入)は、州内で一定台数以上自動車を販売するメーカーは、その販売台数の一定比率をZEVにしなければならないと定めている。ただし、電気自動車や燃料電池車のみで規制をクリアすることは難しいため、プラグインハイブリッドカーハイブリッドカー天然ガス車、排ガスが極めてクリーンな車両などを組み入れることも許容されている。

規制対象
・2012年現在、カリフォルニア州で年6万台以上販売するメーカー6社(クライスラー、フォード、GM、ホンダ、日産、トヨタ)が対象。
・2018年型以降、販売台数が中規模のメーカー6社(BMWダイムラー、現代、起亜、マツダフォルクスワーゲン)も対象となる見通し。

 

リチウムイオン電池のリサイクル(リユース)技術、静脈産業で注目される銘柄


リチウムイオン電池のリサイクル(リユース)技術、静脈産業で注目される銘柄を調べてみました。

オークネット <3964> :
使用済み車載電池の街路灯などへのリユースに成功したMIRAILABO(東京都八王子市)と共同で、中古EVバッテリーの再生及び流通事業参入に向けた共同プロジェクトに着手すると発表しています。

アサカ理研 <5724> [JQ]:
車載電池からのレアメタル回収事業への参入を発表しています。

エンビプロ・ホールディングス <5698>:
リチウムイオン電池などからニッケルやコバルトなど希少金属を回収・再資源化する子会社を持ちます。

松田産業 <7456>:
主力事業は、貴金属リサイクル事業。今年4月1日、トヨタ自動車 <7203> とパナソニック <6752> の合弁会社プライム プラネット エナジー&ソリューションズなど28社は、「電池サプライチェーン協議会(BASC)」を発足させた。
この協議会の目的の一つは、リチウムイオン電池からレアメタルを取り出すリサイクルやリユース技術の向上であり、その協議会に松田産業は参加しています。

ENEOSホールディングス <5020> :車載電池からのレアメタルリサイクルに取り組むJX金属を傘下に持つ。 

 

 

■佐藤登氏の著書

佐藤 登氏 の他の著作を紹介します。

 

 

 

 

■改めて本の紹介

●佐藤 登氏 の経歴

名古屋大学未来社会創造機構客員教授エスペック上席顧問
1953年秋田県生まれ。1978年横浜国立大学大学院工学研究科修士課程修了。同年本田技研工業入社。自動車の腐食制御技術開発に従事した後,1990年本田技術研究所基礎研究部門へ異動。1991年電気自動車用の電池研究開発部門を築く。チーフエンジニアであった2004年に韓国サムスンSDIに常務として移籍。中央研究所と経営戦略部門で技術経営を担当,2012年退社。2013年より現職。工学博士(東京大学,1988年)。論文,講演,コラム等多数。
主な著書に『危機を生き抜くリーダーシップ(国際文化会館新渡戸国際塾講義録3)』(共著,2013年,アイハウス・プレス),『人材を育てるホンダ 競わせるサムスン』(2014年,日経BP),『リチウムイオン電池の高安全・評価技術の最前線』(共監修,2014年,シーエムシー出版),『車載用リチウムイオン電池の高安全・評価技術』(共監修,2017年,シーエムシー出版)など。

●内容について

製造業の頂上決戦!
巨額投資で市場を席巻する中国、韓国企業。世界をリードしてた日本企業は勝機を見出せるか--。
パナソニックGSユアサ村田製作所、ATL、
サムスンSDI、LG化学、CATL、BYD……。
次世代革新電池を視野に入れた競争の最前線を徹底解説。

1887年に屋井先蔵が世界に先駆けて乾電池を発明して以来、日本の電池産業は長く世界をリードしてきた。とりわけ1960年代以降は隆盛期を迎え、次々と新たな電池を開発、生産を開始した。さらに1983年には旭化成の吉野彰氏らが経済社会を大きく変えることとなるリチウムイオン電池の原型を確立。1991年にソニーが世界初の製品化を実現した。
日本電池産業の輝かしい歴史も、21世紀に入ると様相が変わる。韓国企業が日本勢を追い上げ、2010年にはサムスンSDIがモバイル用リチウムイオン電池で世界シェアトップに立った。近年は、さらに高い性能を要求される自動車搭載用の大型リチウムイオン電池の世界で、中国勢が急速にシェアを伸ばしている。高性能電池の開発、製造の行方は、製造業の頂点に立つ自動車産業の未来をも左右する。世界の環境規制、中国の産業政策などもあいまって、日本の牙城だった電池産業が大きく変貌しようとしている。

 

●目 次

まえがき-まえがき-を読んで - 令和の未来カエルのブログ

第1章 日本の牙城

-第1章 日本の牙城-を読んで - 令和の未来カエルのブログ 1

1日本の底力

2 電池の基本的仕組み
3 車載用へと電池の用途広がる
4 日本の強み

 

第2章 モバイル用電池の明暗

第2章 モバイル用電池の明暗-『電池の覇者 EVの命運を決する戦い』を読んで - 令和の未来カエルのブログ

1 電池革命を起こしたリチウムイオン電池
2 戦略の欠如
3 ソニーの電池事業撤退
4 ハイエンド偏重の日本、ローエンドも重視する韓国

 

第3章 EV開発の思惑と電池戦略
1 環境規制が主導する自動車の電動化
2 トヨタがEVを投入せざるを得ない事情
3 選ばれるEVとは?
4 テスラの巨額投資とリスク
5 急加速のEVシフトに潜む5つの課題
6 元素戦略と資源争奪戦
7 トップブランド参入で競争激化
8 環境対応車における日本のリード

第4章 中国市場の変化と欧米、インド
1 環境改善か下剋上か─EVシフトの先
2 翻弄される日韓企業
3 中国NEV規制への対応
4 驀進する中国EV、電池業界の異変
5 中国のEV政策変化は外資に追い風?
6 EVが減速する中国、加速する欧州
7 2020年、車載電池業界の勢力図が明確に
8 揺れる米国のルール
9 台頭するインドの電動化と矛盾

第5章 車載用電池の攻防
1 合弁が難しい電池事業--韓国勢はフリーを選ぶ
2 R&D投資でも激突する日中韓
3 戦略は随時見直してこそ生きる

第6章 定置型蓄電池の幕開け
1 定置用電池業界に第三勢力参入
2 韓国企業の火災事故
3 2019年からのFIT問題

第7章 品質競争─安全性と信頼性のビジネス
1 なぜサムスンの最新スマホは爆発したのか?
2 電池の安全性を要求する国連規則
3 中国製リチウム電池が信頼できない理由

第8章 成長への戦略
1 加速する次世代電池開発
2 次世代革新電池はいつ実現するか?
3 日本を取り巻く状況
4 日本勢の命運
5 ノーベル化学賞の栄誉

あとがきに代えて
参考文献・資料

 

以上