『社長失格』 板倉 雄一郎 ハイパーネット元社長(著)を読んで

■失敗は成功の母でもり、成功は失敗の母。

人間万事塞翁が馬(にんげんばんじさいおうがうま)」
「禍福は糾える縄の如し(かふくはあざなえるなわのごとし」
という諺があります。
前者は、人生をより合わさった縄にたとえて、幸福と不幸は変転するものだという意味の故事成語です。
後者は、老人の馬が逃げたが別の馬を連れて帰ってきた。しかし老人の子供がその馬から落馬して足を折った。ところがそのおかげで兵役を逃れて命が助かった。という話が由来です。

「失敗は成功の母」が、トーマス・エジソンの名言として紹介されることがありますが、「成功は失敗の母」、つまり、成功から失敗が生まれるということも、この本を読むとよくわかります。

 

■「成功は失敗の母」の成功とは。

 ハイパーシステム社は、1995年に、住友銀行が2億5000万円の融資が決まり、「あの住友が動いたのがだから」と1996年には他の銀行やリース会社からも無担保の融資が申し入れがあり、銀行から20億円、リース会社から10億円を調達できました。

「賢明な読者は、ここでもう気づかれるかもしれない。僕の失敗の原因は実はここにあった」


■「成功は失敗の母」の失敗とは。
 BIS規制といった銀行に対する政策、規制の影響で、97年に住友銀行の融資が縮小され、他の銀行、リース会社も融資を縮小、回収に走り、1997年12月に自己破産を申請しています。

ハイパーシステム社は、多額の融資から事業拡大に走った結果ですが、時代がもう少し後であれば、ベンチャーへの直接投資は積極的であり、破綻が免れていたかもしれません。少なくとも自己破産前に、事業の売却先が決定され、破産といった事態は免れていたと想像します。

 

■事実は小説より奇、企業の創業は小説より面白い。

 一時的にでも、成功した会社の創業時の話は興味深いエピソードに満ちています。
本書も、そんなエピソードがたくさんあり、単純に読み物として面白い。
かつ、当事者の目線と適度な客観性があり、勉強になります。

本書には、ネット業界に関わる大物が登場人物として登場します。ハイパーネット副社長として海外進出に奮闘するのが現ドワンゴ取締役の夏野剛さん。メインバンクの住友銀行の担当となるのが現楽天副社長の國重惇史さん。ソフトバンク孫正義社長やマイクロソフトビル・ゲイツさんまで、ハイパーシステムの買収に関して登場。後にハイパーシステムを買い取るGMOインターネット熊谷正寿社長も板倉氏の友人として顔を見せる。


■本の紹介

改めて、本の紹介です。

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「社長失格」 1998/11/21刊  板倉 雄一郎 ハイパーネット元社長(著)

メディア掲載レビューほか
1年前のクリスマスイブに、1つのベンチャー企業が破産宣告を受けて倒産した。インターネットを使った新サービスで脚光を浴びた、ハイパーネットという企業だ。1996年3月期には売上高約7億円、経常利益約2億円を記録。大手証券会社や銀行などから融資の申し出が殺到し、米マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長までが面会を求めてきたという"栄光"から、わずか2年足らずの間での転落劇だった。
なぜ、ハイパーネットは挫折したのか。当事者中の当事者だった「元社長」が倒産の理由を1冊にまとめたが、決して恨みつらみを述べただけの告白本ではない。著者の体験は、日本ではなかなかベンチャー企業が育たない原因がどこにあるのかを浮き彫りにしている。

米国のビジネススクールでは、事業に失敗した経営者が講師となり、体験を語る授業が珍しくないという。倒産までの過程を書き記すことで、その役目を果たそうという著者の熱意が、悔恨の念とともに伝わってくる。


(日経ビジネス1998/12/14号 Copyright©日経BP社.All rights reserved.)
-- 日経ビジネス

内容(「BOOK」データベースより)
おれが書かなきゃ、だれが書く。注目のベンチャー企業は、なぜ倒産したのか。迫真の告白ノンフィクション。
内容(「MARC」データベースより)
1997年12月24日、ハイパーネットは裁判所より破産宣告を受けた。負債総額37億円。注目のベンチャー企業はなぜ倒産したのか。元社長の著者が起業家としての人生を振り返りながら綴る迫真の告白ノンフィクション。

 

以上です。