ダブル・スコープが日本で創業した理由-その技術は本物か-

このブログは、  ダブル・スコープが日本で創業した理由や、ベンチャーキャピタルの出資の決め手となった技術の価値について考察しています。また、ソニーとダブル・スコープの意外な関係が知れます。

 

にて解説したように特許侵害を旭化成から訴えれているダブル・スコープですが、日本で創業した理由を調べると、その技術は独自性、革新性が強く、他のセパレータ(セパレーター・分離膜・絶縁材)のメーカーと比べても、十分、優位性があるものが感じられます。

 

 ▼目次

 

 

 上場直後(2011年12月にマザーズ市場に上場)の2012年3月1日付の週刊ダイヤモンド記事を紹介されている崔社長の発言を引用しながら、解説していきます。 

韓国で破れた夢、日本で咲かせるリチウムイオン電池の部材で急成長ダブル・スコープ社長 崔 元根 | 起業人 | ダイヤモンド・オンライン

当初は韓国で創業

2000年、サムスン電子を退社すると旧知の化学メーカーの技術者らと共同で、高機能フィルムの開発に乗り出す。そして03年、リチウムイオン電池に使うセパレーターの生産に成功したのだ。

 ポイントは、生産効率とコスト力に的を絞った、独自の材料と生産工程にあった。「行ける」。05年に起業を決断した。

ところが、韓国の電池メーカー、ベンチャーキャピタルを訪ねても、誰からも見向きもされなかったのだ。

「これ、(業界トップメーカーの)旭化成のフィルムじゃないの」。サンプル品を手渡し、ていねいに技術の説明をしても、自分たちで作ったことすら信じてもらえない始末だった。「あの人は詐欺師だ」。心ない陰口をたたかれて、泣いた。

 当時、サムスンやLGを筆頭にした韓国の電池メーカーは、重要な部材については、日本の材料メーカーに頼っているのが実情だった。

「できるわけがない」。門前払いの連続に、夢は頓挫しかかっていた。

最初から日本で創業したのでなく、最初は韓国で創業していました。

創業した2005年当時は、リチウムイオン電池リチウムイオンバッテリー)自体が日本企業が圧倒的に強い状況でした

 

リチウムイオン電池の世界シェアの推移(2000年⇒2005年⇒2012年)出典:2014年9月19日 経済産業省商務情報政策局

リチウムイオン電池の世界シェアの推移(2000年⇒2005年⇒2012年)出典:2014年9月19日 経済産業省商務情報政策局

上記にリチウムイオン電池の世界シェアの推移(2000年⇒2005年⇒2012年)を記載していますが、2005年当時は、世界ランキングの1位から5位まで日本企業で、日本のシェアは72%です。

2005年は三洋電機が世界シェア1位です。

2011年に、経営破綻した三洋電機パナソニックが買収した理由は、三洋電機が持つリチウムイオン電池事業が獲得しかかったからだとと言われています。

リチウムイオン電池自体の製造技術自体が、韓国は日本より劣っているような時代で、そのリチウムイオン電池の主要部材で最も技術的難易度が高いと言われるセパレータを、

リチウムイオン電池が開発し、売上が2兆円近い旭化成が製造し、世界シェア1位となっている部材を、財閥や大手メーカーの何も技術支援を受けない中小企業が開発に成功したといわれてもにわかに信じられなかった状況は想像できます。

化学業界韓国最大手で財閥の中核企業のLG化学すら、セパレータの開発・製造は軌道に乗らず、2015年にその設備を東レに売却しています。

 

日本で創業した理由 

そこで目をつけたのが、リチウムイオン電池の材料の8割を生産していた日本だった。ベンチャー支援に注力する知人を頼みに、技術を売り込んだのだ。

 反応は早かった。元ソニー幹部などが運営するベンチャーキャピタル、TNPパートナーズが、早々に出資を約束し、すぐに10社計10億円の資金が集まった。「石、金、ダイヤモンドを見分ける“目”があった」。唯一の条件は、日本企業として起業することだった。

日本のベンチャーキャピタルの出資について、日本企業として起業することが条件だったようで、その条件で日本で創業したそうです。

裁判管轄の問題やベンチャーキャピタル(投資組合)と出資者(投資組合の構成員)との契約などで、韓国企業に投資することが難しいベンチャーキャピタルが多かったのでしょう。

 

ベンチャー支援に注力する知人」とは、どのような人物か興味があります。

ダブル・スコープの崔社長は、サムスン電子時代に、液晶事業に従事して、日本企業との取引で訪問する機会もあったそうです。サムスン電子ソニーは、液晶事業で韓国で合弁で液晶パネル製造会社を設立しており(現在はソニーは撤退)、ソニーに知人が多かったと考えられます。この「ベンチャー支援に注力する知人」もソニーOBなどソニーの関係者だった可能性が高いと思います(妄想レベルの勝手な想像です)。

 

ダブル・スコープに出資したベンチャーキャピタル

 ダブル・スコープに出資を最初に決めたTNPパートナーズとは、どんなベンチャーキャピタルなのでしょうか。

 ビーマップ(2002年上場)、アップガレージ(2004年上場、2011年MBOにより上場橋)、エフオーアイ(2009年上場、2010年上場廃止、その後は破産)、シンバイオ製薬(2011年 上場)などに投資していたい独立系のベンチャーキャピタルです。

 2013年には、独立行政法人中小企業基盤整備機構が、TNPパートナーズのベンチャーキャピタルに24 億円を出資しているので、社会的信用のあるベンチャーキャピタルのようです。

 当時のTNPパートナーズのソニー出身の元幹部が誰かはわかりません。

 ただ、TNPパートナーズの子会社、ベンチャーキャピタルのファンド(投資組合)毎に会社が分かれているようので、実質同一会社に近い、TNPスレッズオブライトの取締役に、現在、ソニー 元執行役副社長の吉岡 浩氏が就任していることは注目したいです。

 吉岡氏は、現ソニー社長の平井氏とともにソニー社長候補といわれ、ソニーのテレビなどのエレキ部門(ハード部門)の統括役員だった方です。ダブル・スコープ出資時にはソニーの役員で、TNPパートナーズには在籍していなかったと思いますが、ソニーとTNPパートナーズの関係の深さがわかります。

 

ソニー次期社長レースの号砲、平井SCE社長が最右翼、吉岡浩副社長の声も | 企業戦略 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

 

 ソニーは、リチウムイオン電池の商業化(実用化)を1991年に世界で初めて成功しています。旭化成リチウムイオン電池の開発で2019年ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏が在籍)が商業化(実用化)したのは1993年で、ノーベル賞旭化成より2年早く商業化(実用化)したわけですから、リチウムイオン電池の技術は相当蓄積したものがあったようです。

 そういった蓄積した技術を背景に深い知見のあるソニーの出身者が、ダブル・スコープの技術が出資に値する評価したのでしょう。

 

 なお、ソニーは、出資をした2005年当時のリチウムイオン電池の世界シェアは7%で、2位でした。2017年にリチウムイオン電池事業を村田製作所に売却して撤退しています。

 

 ダブル・スコープの主要販売先の東北村田製作所の前身はソニーエナジー・デバイスです。日本国内ではリチウムイオン電池のシェアは3位(1位パナソニック、2位TDK)です。東北村田製作所は、電動工具のマキタも主要販売先ですが、近年マキタ製の人気のコードレス充電池型掃除機は人気ですが、その電池も東北村田製作所で製造しているのかもしれません。

 東北村田製作所が製造している日本製の高品質・高価格と言われる電池にも、ダブル・スコープの製品が利用されているので、ダブル・スコープのセパレータも高品質なのでしょう。 

 

設立前、売上0円でも出資に値した技術

 ベンチャーキャピタルは、設立直後、成長初期に投資するのが通例ですから、設立前、つまり売上0円の状態で、出資を決めるのは極めて異例です。それだけ、ダブル・スコープの技術に、独自性、革新性があり、市場で相当なシェアがとれ確実な成長が見込めると、自信をもって評価、判断したことがわかります。

 実際に、2005年10月に創業後、旭化成東レなど日本の大企業のシェアを奪い、設立15年で2020年12月決算では売上184億円と、世界シェアを5%ほどのセパレータの主要企業となっているので、TNPパートナーズの評価は間違いがなかったのでしょう。

 

TNPパートナーズ以外の出資者は

「早々に出資を約束し、すぐに10社計10億円の資金」を提供したベンチャーキャピタル(VC)が、TNPパートナーズ以外にどこだったかはわかりません。

ただ、上場時の株主を見ると

TNPパートナーズ系のVCに加えて、

伊藤忠商事やSVIC NEW TECHNOLOGY BUSINESS INVESTMENT(韓国サムスングループ系のVC)の名前があります。

他にも以下のような日本の有力ベンチャーキャピタルの名前があります。

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ニッセイ・キャピタル(日本生命系)
ジャフコ野村証券系)
三井ベンチャーズ三井物産系)
KSP投資事業組合(神奈川県や川崎市も出資する神奈川サイエンスパークを運営するKSP系)
SMBCキャピタル(SMBC系)
大和企業投資(大和証券系)
NIFベンチャーSMBC系)
エーシーベンチャーズ三菱UFJグループのアコム系)
安田企業投資(明治安田生命

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セパレータのような大企業が既にシェアの過半を占める市場にゼロから新規進出する会社で、これだけ多くのVCから出資を受けるのは異例です。

 ソニー関係者が、出資するベンチャーキャピタルにダブル・スコープの技術が将来性や収益性が抜群であるという、『保証』に近い評価をした

 または、ソニー(現東北村田製作所)のセパレータに採用予定(の内示)であった

なんていう話があったのかもしれません。

 

関連書籍

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以 上 です。


銘柄メモ ダブル・スコープ,ソニー,パナソニック,マキタ,旭化成,東レ,村田製作所
6619,6758,6752,6586,3407,3402,6981

タグメモ ダブル・スコープ,ダブルスコープ,W-SCOPE,Wスコープ