に続けて、
リアル半沢直樹 西川善文<にしかわ・よしふみ>氏の活躍、活躍というより苦闘という表現があっているかも、その苦闘を紹介します。
どんな活躍をしたのか、彼の回顧録
に従って、紹介しています。
今回は、『第5章 トップダウンとスピード感』の中の、西川氏率いる三井住友銀行ががUFJ銀行争奪戦で、東京三菱銀行に喧嘩を売られるが、倍返しできずに敗れるという話です。
UFJ銀行の経営危機、その後のUFJ銀行の経営権を獲得するための東京三菱銀行、三井住友銀行の戦いも、三つの銀行や金融庁との利害が絡んで、意外な展開が待っていて、ドラマや小説のような話です。まさに『事実は小説より奇なり。』という感じです。
半沢直樹では、スパイラル社に対して敵対的な買収を仕掛けた電脳雑技団社とそのバッグにいる東京産業銀行が悪役、適役となって、半沢直樹率いる東京セントラル証券がスパイラル社のアドバイザーとなって戦うというストーリーですが、UFJ銀行争奪戦をドラマにすると三井住友銀行側で描くか、東京三菱銀行側で描くか、UFJ銀行側で描くかで、悪役、適役かは変わってきますが、三井住友銀行側を主人公にドラマを描けば、
東京三菱銀行が悪役となるような話です。
住友信託銀行がUFJ銀行との約束を反故にされる
UFJ銀行は、グループ会社のUFJ信託銀行を三井住友銀行と同じ住友グルーウの住友信託銀行へ売却することを決定し、2004年5月21日に契約、発表していました。
しかし、その2ヵ月もたたない7月14日、UFJ銀行はUFJ信託銀行の住友信託銀行への売却を撤回と、三菱東京フィナンシャル・グループ (MTFG)とUFJホールディングス(UFJHD)の経営統合で大筋合意し、翌7月16日に三菱東京フィナンシャル・グループと経営統合に向けての協議を開始すると発表しました。
西川氏もこのニュースは大変驚いたようで、回顧録で、
『これにはさすがに驚いた。UFJ信託売却の件は基本合意が済んでいる。それを一方的に破棄し、さらに三菱と統合するというのだから、UFJのやりかたはあまりに身勝手すぎでないか』
と当時を振り返っています。
その後、住友信託側が東京地方裁判所に交渉差し止めを求める仮処分申請を行ない、東京地裁は2004年7月27日、当該仮処分申請を認める決定を下した。UFJ側がこれに対し異議を申し立てるも、8月4日に却下されたました。その後、2006年11月21日に東京高裁の提案による住友信託に対して25億円の和解金を支払う事で和解が成立しています。25億円の巨額の和解金を支払ったように、非は明らかにUFJ銀行側にあったようです。
西川氏、売られた喧嘩を買う
こんなUFJ銀行、東京三菱銀行の背信的な行為に合い、三井住友銀行の行内は、『売られた喧嘩を買う。』ということで、UFJ銀行と東京三菱銀行の合併路線と全力と戦うことになります。そして、
2004年7月30日、電撃的に三井住友銀行の持ち株会社 三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)がUFJ銀行のUFJホールディングス(UFJHD)に対して経営統合の申入れを表明、8月24日に発表した「1:1」の合併比率はUFJにとっては破格の条件でした。8月30日には、UFJに対する増資引受条件に関する提案を送付します。
しかし、2004年8月12日、MTFGとUFJが2005年10月までの経営統合で基本合意。さらに、9月10日、それまで9月29日までに行うとしていたMTFGからUFJに対する増資を9月17日への前倒しする事を発表した。増資は、公開企業のUFJHDに対してではなく、その傘下の非公開企業であるUFJ銀行に優先株7000億円で行い、さらに、TOB(公開買い付け)によりUFJホールディングス株が20%超買い占められた場合は、その優先株に議決権が発生するポイズンピルを盛り込ませていました。
東京三菱銀行は、UFJホールディングの主要事業でUFJ銀行に優先株として増資して、さらに、UFJホールディングが株式が買い占められていた場合は、その経営権を奪い、UFJホールディングをもぬけの殻にすることができるような作戦を実行しました。
これについて、西川氏は、回顧録で、
『完全に株主を無視した行為で、コーポレートガバナンスが機能していたとはとても言えない』
と批判しています。
また、UFJは東京三菱との合併を最終的に選んだことに対し、西川氏は、
『マスコミが、"西川、一敗地にまみれる"などといった記事を書くのもわかる。しかし、これは売られたケンカだった。住友信託への売却を反故にされて黙っているわけには絶対にいかなかった。』
と負けた悔しさを表しています。半沢直樹のように売られたケンカに倍返しはできなかったのですが、これがフィクションと現実の違いですね。
ちなみに、半沢直樹 1 オレたちバブル入行組 (講談社文庫) もKindleunlimited で無料で見れますので(2020年9月30日現在)、本を買うよりお得かもしれません。
本の紹介
上記の話は、
著者について
西川 善文<にしかわ・よしふみ>
元三井住友銀行頭取、前日本郵政社長。1938年奈良県生まれ。1961年大阪大学法学部卒業後、住友銀行に入行。大正区支店、本店調査部、融資第三部長、取締役企画部長、常務企画部長、専務等を経て、1997年に58歳の若さで頭取に就任し8年間務める。2006年1月に民営化された日本郵政の社長に就任するも、政権交代で郵政民営化が後退したため2009年に退任。現在は三井住友銀行最高顧問。
内容(「BOOK」データベースより)
私は悪役とされることが多かった―。顔が見える最後の頭取=ザ・ラストバンカーと呼ばれた著者が綴った、あまりに率直な肉声!安宅産業処理、平和相銀・イトマン事件、磯田一郎追放、銀行大合併、UFJ争奪戦、小泉・竹中郵政改革。現場にいたのは、いつもこの男だった。密室の出来事すべてを明かす!
逃げたらあかん!
「不良債権と寝た男」、死に物狂いの仕事人生
安宅産業処理、平和相銀・イトマン事件、磯田一郎追放劇、銀行大合併、UFJ争奪戦、小泉・竹中郵政改革……。現場にいたのは、いつもこの男・西川善文だった。「最後の頭取」=ザ・ラストバンカーと呼ばれた著者が綴った、あまりに率直な肉声!
マスコミ報道の騒乱の中で失われた金融史のミッシングリングを埋める。
<目次>
◎第一章 バンカー西川の誕生 ◎第二章 宿命の安宅産業 ◎第三章 磯田一郎の時代
◎第四章 不良債権と寝た男 ◎第五章 トップダウンとスピード感 ◎第六章 日本郵政社長の苦闘 ◎第七章 裏切りの郵政民営化
以上です。