ダブル・スコープがセパレータ事業で創業した理由-エルピーダメモリのような敗者になるのか-

 

に続けて、株式投資として参考になればと思い、ダブル・スコープがセパレータ事業で創業した理由について、紹介します。

 

 ダブル・スコープがセパレータ事業で創業した理由は、「サムスンDRAM半導体の成功モデル(勝ちパターン)を真似られる」と思ったからと私は推測しています。2012年に経営破綻したエルピーダメモリのように投資競争に負け敗者になるのか、サムスンのように勝者になるのか、考えてみたいです。

 

 

 

 上場直後(2011年12月にマザーズ市場に上場)の2012年3月に実施された個人投資家向の説明会でのセパレータ事業で創業した理由やセパレータ事業の強み、特徴を、 崔 元根社長は、大きく4つ挙げています。 

ダブル・スコープがセパレータ事業で創業した理由 

① 市場が成長している

リチウムイオン電池の大型バッテリー用途としては、乗用車や産業用の蓄電池需要などがある。2010年から2015年の年平均成長率は全体では22.8%だが、車載用は120%の伸び、スマートグリッド・蓄電などの産業用が360%という高い伸びが見込まれており、大型のリチウムイオン電池が市場を牽引していく。

と 崔 元根社長は語っています。

 

でも 説明していますが、ダブル・スコープのセパレータが高成長の市場であり、実際に高い増収率(売上高成長率)を示しています。

 

②参入障壁が高いこと

LiB主要4部材の中でセパレータの製造には、高分子設計、フィルム化、多孔質化など複数の技術が必要になり、最も参入障壁が高い。

リチウムイオン二次電池(LiB)を構成する主要4部材(正極材料、セパレータ、負極材料、電解液)のひとつであるセパレータの開発・生産・販売を行っている専業メーカーです。日本では旭化成東レ宇部興産がライバルになるが、専業メーカーはダブル・スコープだけ。

と 崔 元根社長は語っています。

 確かにリチウムイオン電池用のセパレータは、数多くの材料の擦り合わせが必要であり、組み合わせの比率、量、外部環境(湿度や温度など)の違いによって生産される製品が異なるので、大量生産ができる厳格な製造工程管理も難しいようです。かつ高度な安全性やも要求されるので、参入障壁が高いようです。 旭化成東レなどの日本を代表する名門の化学企業が世界シェアの過半をもっていることからもその参入障壁の高さも想像できます。

 

③高い利益率、特に限界利益率が確保できること

参入障壁が高いということに通じますが、日本企業もセパレータ事業で10%程度の営業利益を確保しているように、セパレータ事業は高い利益率が見込めます。

なかでも、

セパレータ事業は限界利益率が7割以上と高いが、こんなビジネスはあまりない。

という発言に注目です。

限界利益率が高いということでは、現時点でも赤字でも売上を増やせば最終的に黒字化させることが簡単です。

 

限界利益=売上-変動費です。

売上-変動費-固定費=利益ですから、限界利益には固定費と利益の合計とも一致します。

 

例えば、原価5万円の自動車でその原価は固定費3万円、変動費2万円で構成されます

固定費は1000台販売したときの1台あたり価格ですが、固定費の総額は何台販売しても変わりませんが、販売数量が増えるほど、1台当たりの固定費は下がります。

原価5万円の自転車を4万円で販売したら、1万円の粗利益(売上から原価を引いた利益)は赤字販売ですが、限界利益は1万円の黒字となります。

粗利益は赤字でも、限界利益が黒字なら、赤字販売は許容されます。なぜなら、赤字でも販売数量が増えれば、最終的に限界利益1万円近い数字まで利益が増える可能性があるからです。

 

原価5万円(当初は1000台分を生産、販売したとき)の自転車を4万円で販売した

10万台生産、販売できたとします。原価は固定費は3万円から300円に下がります。

すると、原価は5万円から2万300円になり、1台あたり3万9700円の黒字となります。

限界利益が高いということは、量産効果による利益の拡大が見込めるということです。

今までの赤字覚悟で、生産設備に投資していダブル・スコープの今後の業績が楽しみになります。

売上高-変動費の算出で求められる限界利益は、英語のlimit「限界」ではない。利益の限界、もうこれ以上利益がでない限界、という意味でなくい。もともと限界利益の英語は「marginal profit」で、境目といった意味のmerinalを和訳して「限界利益」という言葉になりました。マージナル利益といった方が日本人のマージンのイメージにも合い、限界利益のその意味も伝えるように前から思う。 

 

装置産業では原材料などの変動費より工場設備などの固定費の割合が高くなり、売上が増えれば増えるほど利益率が高くなるということである。

 

リチウムイオン電池以外の用途へ応用できること

セパレータのフィルムは電池だけでなく、その微細な気孔によって水や空気などをきれいにできるフィルターの機能も持っており、フィルター機能は、純水ろ過用フィルター、人工透析用フィルターなどへの進出も可能であると、崔 元根社長語っていますし、ダブル・スコープのホームページ(コーポレートサイト)にも、そんな内容が記載されています。

 

2021年現在も、リチウムイオン電池用セパレータに全経営資源を投入しているダブル・スコープを見ると、純水ろ過用、人工透析用フィルターなど別用途、別市場への進出は、『将来にはそんな可能性があるよ』というレベルの話で、投資家に多少、夢をもってもらうためのリップサービスだと思っています。

 

サムスン電子の成功モデルを真似る

サムスンの成功モデル

崔 元根社長は

『これからはコスト競争力が重要になるが、サムスンが成功したのもコスト競争力のある世界最大級のラインを持っているため。ダブルスコープも他社よりコスト競争力のある世界最大級のラインを作っていく。』

 

『ダブルスコープのビジネスコンセプトは、セパレータについては装置産業であり、需に応えられるよう生産キャパを適切に用意することが重要で、投資タイミングが大事になる。高い生産性を持つ設備に投資して、競争力のある製品を生産し投資の回収を図る。サムスンも市況の悪い時にも適切な投資を続けたので成功した。』

 

リチウムイオン電池は材料費が60~70%を占めているので、材料費が下がらないとコストがかがらない。1kW/hあたりの価格は現状600$だが、2015年には300$、2020年には200$、2030年には100$となると予測されている。価格を下げて普及させるためには材料費のコストダウンが重要になり、コスト競争力があるかが重要になる。』

と発言している。

 発言の通り、サムスン電子の成功モデルを意識しています。

 

補足:バッテリー価格は2019年から2020年におけるキロワット(kWh)あたり約120ドルであり、2030年までにキロワット(kWh)あたり60ドルに低下すると予想されます。

崔氏の示した数字は、100ドル単位の大まかな数字であり、個人投資家に価格の推移のイメージの伝えるという目的から考えるとそれほど誤った内容でない。

 

サムスン電子での経験がいきるか

崔 元根社長は、サムスン電子勤務で経験、見聞したサムスン電子半導体DRAM事業の躍進、その理由を考えて、サムスン電子半導体DRAM事業に進出した1990年台の当時の半導体事業に近い状態にあると考えて、サムスン電子の実現した勝ちパターンが、ダブル・スコープでも実現可能と考えたのでしょう。

 

1990年頃のDRAMは、、日本企業の稼ぎ頭で、新用途、新技術の開発、需要に伴う高い成長、高額な設備投資が必要な装置産業であることなど、共通点が多いです。

また、高度の製造技術や技術革新が激しく常に最新の巨額の設備投資が必要な点も似ています。DRAM事業は、もともと高度な製造技術や品質管理が必要で、日本の半導体企業の強みであったが、高度な製造技術や品質管理は、半導体製造装置や素材に取り込まれてしまい、日本の半導体企業の競争力はなくなりました。

セパレータについては、旭化成東レなどまだ、高い競争力を持っているようで、おそらく、日本の半導体企業の衰退を学習しているのか、高度の製造技術を自社でできるだけ囲い込み、最新鋭の設備で、最新の技術で生産し、その競争力を維持しようと努力しているように思えます

サムスン電子にダブル・スコープを重ねてしまう

 サムスン電子は、1983年2月に、DRAM事業に進出し、1993年にはDRAM市場で13.5%のシェアを確保し、12.8%に留まった日本の東芝を抜いてついにシェア世界1位となり、以来トップを維持しています。

 2010年頃のセパレータも世界シェア1位 34%の旭化成グループ、2位22%の東レグループと日本企業の独壇場・稼ぎ頭で、それに挑むダブル・スコープは、1990年頃の日本の半導体DRAM企業(1位は東芝、2位はNEC)に挑むサムスン電子と共通する部分が多いように思えます。

 

  半導体リチウムイオン電池、リチウムイオンの部材であるセパレータの価格は市場拡大とともに下がりますが、最新鋭の設備による量産効果でそれ以上にコストを下げて、利益率を向上させることも必要で、半導体に関してはサムスン電子が成功しています。

 

 崔元根社長は、サムスン電子の経験から、不況時でも、最新鋭の巨額の設備投資を果敢に実行、技術革新で市場が急拡大して需要が急回復、急上昇するタイミングまで耐えること、つまり倒産、経営破綻しないような資金を持つことの大切さを、肌感覚で知っているでしょう。

 

 セパレータも最新鋭の設備で、常に技術革新が求められる装置産業という意味で半導体DRAM事業(サムスン電子が最初に進出した半導体)と似ています。

 セパレータの設備投資は稼働まで 2 年ほどかかるといわれますが、ダブル・スコープは 1 年でできるのを強みで、生産設備もすべての工程を設計・開発できるメーカーはダブル・スコープのみで、それが強みと、崔社長は語っています。

 早く準備できるということはそれだけ、市場動向を読みやすく、需要が急上昇、急回復して強い時に、市場に商品を投入できる可能性が高いです。

 過大、過剰投資とも思えるような設備投資も近い将来を見据えたもののようです。 

 ダブル・スコープは日本のDRMA企業のように敗者になるのか

日本のDRAM企業は、サムスンやSKハイニックスとの投資競争に完敗しました。

ダブル・スコープが日本のDRAM企業のように敗者になる可能性もあります。

 数兆円の巨額の利益を毎年計上するサムスンやSKハイニックスのような勝者になるのか、結果がでるのは5年後ぐらいだと思っています。

 

日本のDRAM半導体の凋落について 参考になる記事です。

https://xtech.nikkei.com/dm/article/COLUMN/20080807/156215/

 

DRAMメーカの売上順位の推移1989年から2005年まで

DRAMメーカの売上順位の推移1989年から2005年まで 

上記のサイトから抜粋、加工した資料『DRAMメーカの売上順位の推移1989年から2005年』までを見て頂ければと思いますが、1989年売上1位東芝DRAM事業を撤退(Micronに設備を売却)、2位NEC、5位日立製作所DRAM事業は、エルピーダメモリに集約され、2005年世界で売上の5位だったエルピーダメモリも、2012年2月には会社更生法の適用を申請しました。負債は約4500億円で、製造業の倒産では過去最大といわれてます。その後、会社更生計画の中で、米国メーカーのMicronに買収されました。

 

流動比率自己資本比率の低すぎる点は、今後の投資、生産競争に競合と勝てるのか、心配ですが、エルピーダメモリのように敗者になる可能性もあります。

流動比率自己資本比率の低すぎる点やそれでもダブル・スコープは勝てるのかという点については、また、別の機会にブログにまとめたいと思います。

 

エルピーダメモリについて:

エルピーダメモリは、1999年12月に日本電気 (NEC) と日立製作所DRAM事業部門が統合して設立された、設立時の社名はNEC日立メモリです。
2002年11月年に坂本幸雄氏が代表取締役社長が務め、2003年3月には三菱電機からDRAM事業の営業譲渡を受けています。

坂本幸雄氏は、当時は半導体業界では日本体育大学卒業の異色のカリスマ経営者という印象の人で、
その経営手腕は大きく期待されました。

1970年日本体育大学卒業。野球の指導者を目指すも教員試験に失敗。外資半導体メーカーである日本テキサス・インツルメンツに入社。倉庫番として入社したものの、業務の改善とコストの削減で高い実績を出して頭角を現し、1991年、41歳にして同社取締役、1993年取締役副社長に就任した。1997年、神戸製鋼所に入社し、半導体本部長等を務めた後、2000年、日本ファウンドリー(旧:NMBセミコンダクター→日鉄セミコンダクター、後にUMCJapan)社長に就任。という経歴の方でした。

 

関連サイト

上場直後の2012年2月26日(日)に日興アイアール主催で行われたダブル・スコープ個人投資家向け会社説明会の内容を参考にしているが、その内容は下記のサイトから参照しています。

http://www.irweb.jp/movie/pdf/6619_s1203-slide.pdf

http://www.belletk.com/kigyounoirgatousikaniultutaerumono201203.pdf

http://sokai.seesaa.net/article/255223298.html

関連書籍 


本書は2009年の出版ですが、主に1995年ぐらいから2008年までの半導体業界について分析されてます。本書でとりあげた「半導体敗戦」となった原因は今でも解決されておらず、半導体業界の復活のために10年後の今でも一読の値打ちあるようです。

なお、Kindle Unlimited 読み放題 の対象商品なので、Kindle Unlimited 読み放題 に加入している方は無料で読めます。

 

 日本の半導体業界はなぜ壊滅的状態になったのか? シャープなどの電機メーカーはなぜ大崩壊したのか? 京大大学院から日立に入社し、半導体の凋落とともに学界に転じた著者が、零戦サムスンインテル等を例にとりながら日本の「技術力」の問題点を抉るとともに、復活再生のための具体的な処方箋を提示します。

 

以 上