W-SCOPE-2022年10月25日付開示『新規ビジネス(フランスAlteo社、フランス政府との提携)』について

■はじめに

ダブルスコープが2022年10月25日付で開示した『新規ビジネス:フランスAlteo社、フランス政府との提携』について、私が理解した内容などを紹介するブログ記事です。

 

▼目次

 

■ダブルスコープの開示

まず、ダブルスコープの開示の内容を紹介します。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/6619/tdnet/2192013/00.pdf

より引用した内容です。

 

▼(開示事項の経過) 新規ビジネスに関するお知らせ 

 

                 2022 年10 月25 日

(開示事項の経過) 新規ビジネスに関するお知らせ 

 
2022 年 9 月 14 日付「新規ビジネスに関するお知らせ」で、フランスAlteo 社との EV 用バッテリーのサプライチェーン構築に関してお知らせしましたが、10 月 19 日(GMT)に Alteo 社と当社はフランス国内で最大規模の EV バッテリー用セパレーター生産拠点の共同建設を進めていくことで合意しました。 
また、これはフランス政府が 2030 年までにフランスで年間 200 万台の電気自動車を生産するという目標を掲げた“FRANCE2030PLAN”を支えるサプライチェーン構築の一環であるため、フランス政府の産業省、エネルギー省、Business France などの政府関連機関とも同時に協議を行いました。 
両社は今後この合意をもとに簡易株式会社(SAS)を設立し、株式保有に関する契約の締結を進めます。 
この案件に関する業績への影響は未定です。今後開示すべき事項が発生した場合には速やかに公表いたします。

※次ページから本案件に対するフランスでのプレスリリース(フランス語)を添付しましたので、ご参照ください。 

(この後フランス語メディア記事が紹介)

 

■ダブルスコープが出資

  • 10 月 19 日(GMT)に Alteo 社と当社はフランス国内で最大規模の EV バッテリー用セパレーター生産拠点の共同建設を進めていくことで合意しました。
  • 両社は今後この合意をもとに簡易株式会社(SAS)を設立し、株式保有に関する契約の締結を進めます。

と開示内容にあります。上記でいう「当社」は日本のダブルスコープであり(WCPでない)、両者とは、Alteo社とダブルスコープです。

当たり前の話かもしれませんが、2022 年9 月14 日付けの開示では、

『当社の連結子会社である W-SCOPE CHUNGJU PLANT CO., LTD.(以下、WCP)は、フランス産業財産庁(INPI)から、INPI 及び フランス Alteo 社(化学品メーカー)及び WCP との 3 者による欧州での EV 用バッテリーのサプライチェーン構築の正式要請を受けました。』

とあります。

2022 年9 月14 日付の開示では、主語は『当社の連結子会社である W-SCOPE CHUNGJU PLANT CO., LTD.(以下、WCP)』でした。

 

また、WCPは、車載用セパレーター、WSKは車載以外以外の民生用(会社資料でこう表現)セパレーターでいった分担です。EV 用バッテリーでは、WCPの担当です。

EV 用バッテリー(素材も含む)のフランスでの生産を目指すものですから、WCPの役割になると思っていました。

 

ところが、10月25日の主語はダブル・スコープになっていました。

 

WCPはダブルスコープの連結子会社ですが、出資比率は35・57%ですので、仮にWCPがフランスの生産拠点になるフランス法人に100%出資した場合、フランス法人の収益は非支配株主分(64.43%)が除かれます。

フランス法人の純利益の約36%しか、連結には反映されなくなります。

 

Alteo社との合弁で出資比率が50%ずつであれば、約18%しか利益に反映されません。

フランス法人のAlteo社との合弁となった場合、連結子会社は出資比率(株式保有比率)が50%以上か、50%未満の場合、実質支配している場合※です。

 

※実質支配している場合※について

子会社・関連会社・グループ会社の違いは?法律上の定義をもとに解説! | TOKIUM(トキウム) | 経費精算・請求書受領クラウド (keihi.com)

※会計上は、他の会社に対する株式の保有割合が50%未満でも、実質支配している場合は子会社とみなされます。

例えば、以下のような場合はB社はA社の子会社と言えます。

B社はA社から派遣された役員が経営を行っており経営方針の決定権が実質はA社にある場合
B社の議決権を行使しない株主が常に一定割合いるため、A社の実質の議決権保有割合が50%以上と考えられる場合
B社の事業方針を決定するような契約がA社との間に存在する場合
つまり、50%未満の議決権保有率であっても子会社にあたるかどうかは実質支配されているかどうか、が判断基準になります。

と言った記載があります。

WCPの場合は、ダブルスコープ以外に

-ノーアンドパートナーズ・新韓キャピタル・産業銀行:33%(上場前は43%であったが、33%という数字は一部売却、持分希薄化を考慮した私の推計。)
-ハンラグループ:9%(上場前は11%、9%という数字は持分希薄化を考慮した私の推計) と言った他の大株主があります。

ノーアンドパートナーズ・新韓キャピタル・産業銀行やハンラグループは、ダブルスコープ、WCPと契約があり、「議決を行使しない」もしくは「ダブルスコープとは別の内容の独自の議決権行使しない」といった制約があり、35%程度の出資比率でも、実質支配の要件に該当し、連結子会社の対象となると思われます。

 

 

フランス法人への出資比率は間接で18%となるので、実質支配しているという要件にあたらず、持分法適用会社となります。

 

なお、連結の場合、売上から税前利益までは単純に合算し、当期純利益の計算で、少数株主利益として、非支配株主持分を控除します。

持分法適用の場合は、経常利益の段階から、出資会社の経常利益の持分相当額を加算します。連結でも持分法でも、最終的な当期純利益は変わりません。

 

BS上の扱いは、↓を参照してください。

持分法と連結法の違いとは? | GLOBIS 知見録

少数株主持分(非支配株主持分)って何? | GLOBIS 知見録

 

私は、TwitterやYahoo Finance掲示板で、

『WCPが、ダブスコの連結子会社のままなのか心配』という内容を見かけたことがありますが、私はあまり心配していません。

最終的な当期純利益は同じで、あくまで、財務諸表の見かけだけの話です。

見かけだけで投資する人が多いとは思えないので、あまり重要なポイントでないと思います。

 

ただ、ダブルスコープとしては、フランス法人を連結子会社となるぐらい出資比率を高めたかったかも知れません。

2022 年9 月14 日付の開示では、Alteo社と共同出資という話でなく、WCP単独出資前提が、Alteo社との共同出資になり、WCP経由でないが方が、ダブルスコープの出資比率を高めるために、ダブルスコープの出資となった可能性はあります。

あくまで、いくつかある理由の一つの推測でしかありません。

 

事実として、WCPの開示がないことから、

WCPでなくダブルスコープがAlteo社と共同でフランの生産拠点(フランス法人)を設立することことです。

私は、WCPの株主でなく、ダブルスコープの株主で、かつ、フランス事業の成功も期待しているので、ダブルスコープの出資になったこと、WCPでなく、ダブルスコープの利益への貢献が大きくなることは喜んでいます。

 

 

 

■Alteo社の開示

https://www.alteo-alumina.com/en/alteo-w-scope-sign-an-agreement-to-build-the-largest-separator-production-site-in-europe/

↑のリンクはAlteo社の開示(2022年10月21日付)です。

『Alteo / W-Scope sign an agreement to build the largest separator production site in Europe』

『AlteoとW-Scopeがヨーロッパ最大のセパレーター生産拠点の設立する契約締結』

というタイトルです。

 

ローランド・レスキュール産業省大臣、アルテオ社長のアラン・モスカテッロ氏、W-Scope社長チェ・ウォンクン氏の写真(Alteo社のサイトより引用)


内容は、W-SCOPEの開示内容とほぼ同じです。

気になったのは、最後の一文です。

『We would like to thank the Alteo teams in France and Korea who have made this first step possible.』

『この第一歩を踏み出したフランスと韓国のAlteo担当チームに感謝します』という最後の一文です。

韓国のチームに感謝とあり、Alteo社は韓国に生産拠点もあるので、既に韓国で生産するダブル・スコープのセパレーターのコーティング剤に、Alteo社の製品が利用されてて、相互に取引関係、信頼関係があったから、成立した契約なのかも知れません。あくまで、推測です。

 

 

昭和電工という会社は、アルミが祖業と呼べるほど主力事業の会社でしたが、

今年2022年にアルミ缶、アルミ圧延品のアルミ事業の大半を売却しています。

ただ、電動車用アルミニウム製冷却器など、アルミ機能部材と言われるセグメントは残しています。

また、昭和電工酸化アルミニウム(アルミナ)※を利用したセパレータ用コーティング材を製造しています。

 

リチウムイオン電池のセパレーター用セラミック耐熱層用バインダー PNVA® 「GE191シリーズ」の展開を本格化 | ニュースリリース | 昭和電工株式会社

上記の記事でバインダーとは塗料の下地と言った意味で、コーティング剤と利用されるます。

 

昭和電工もアルミが主力事業でしたが、アルミ系企業(Alteoも酸化アルミニウム(アルミナ)が主力)がセパレータのコーティング剤は強いのかもしれません。

 

アルミニウム(アルミ)とアルミナ(酸化アルミニウム)の違いは? | ウルトラフリーダム

アルミニウムとは化学式ALで表記できる金属です。一方で、酸化アルミニウムはアルミナとも呼ばれており、化学式AL2O3で、文字通り酸化したアルミで、原料はどちらもボーキサイトから製造されますが、製造方法が違うようです。

 

■フランス政府のプレスリリース

https://presse.economie.gouv.fr/20102022/

Accord franco- coréen pour la construction d’une usine de composants de batterie.

というタイトルで、2022年10月20日付で

『電池素材工場設立の関するフランスと韓国の協定』

という意味なので、ダブルスコープはフランス政府は日本企業でなく、韓国企業と考えているようです。

 

Wscope, un des leaders mondiaux dans le domaine des séparateurs de batteries de véhicules électriques, et Alteo, leader mondial des alumines de spécialité, ont signé en présence du ministre Roland Lescure un accord pour la construction en commun du plus grand site de production de séparateurs de batteries pour véhicules électriques en Europe.

 

電気自動車用バッテリーセパレーターの世界的リーダーの1つであるW-Scopeと特殊アルミナの世界的リーダーであるAlteoは、ローランド・レスキュール大臣の立会いの下、欧州最大の電気自動車用バッテリーセパレーターの生産拠点を共同建設する契約に署名しました。

 

「大臣の立会いの下署名」は、英訳でsigned an agreement in the presence of Minister です。英文系契約書でin the presence of A社は、A社の契約の当事者のサイン欄で利用されます。

立合いというより、フランス政府(の産業省大臣)、Alteo、ダブスコと三社間の契約かもしれません。

 

フランス政府のプレスリリースの内容も、ダブルスコープの開示とほぼ同じです。

ただ、フランス政府の目標や政策など報告しています。

 

En particulier, le Ministère de l’Industrie accompagnera à travers France 2030 le déploiement d’une filière complète de production de batteries électriques  sur le territoire national, de la production de séparateurs à l’assemblage de batteries, en passant par le recyclage du lithium et des métaux critiques.

En particulier, le Ministère de l’Industrie accompagnera à travers France 2030 le déploiement d’une filière complète de production de batteries électriques  sur le territoire national, de la production de séparateurs à l’assemblage de batteries, en passant par le recyclage du lithium et des métaux critiques.

 

政府は、2030年までにフランスで年間200万台の電気自動車を生産するという目標を設定しており、フランス2030計画の一環として50億ユーロの公的支援を動員して、この生産に必要なすべての技術をフランス国内に展開するのを支援します。

特に、産業省はフランス2030を通じて、セパレーターの生産からリチウムや重要な金属のリサイクルを含むバッテリーアセンブリまで、国土での完全なバッテリー生産セクターの展開を支援します。

 

50億ユーロ(日本円で約7000億円)の公的支援の具体的内容やダブルスコープとAltera社の受ける支援、その金額はわかりません。

 

ただ、フランス政府がセパレーターの国産化のためにW-SCOPEを選択し、支援することは事実です。

提携・支援先として数ある外国企業の中から、セパレーターの世界的リーダーの一つとしてW-SCOPEを認め、選択したのは事実です。

フランス系企業の技術力だけでは、競争力のあるセパレーター(実用、販売に耐えるレベルのセパレーター、コスト、品質が他企業と劣らないセパレーター)の国産が難しかったこと、また、ダブルスコープの技術導入がフランス政府が公的支援をしてまで欲しいほど価値があることを示していると思います。

 

 

フランス産業省ローランド・レスキュール大臣のTweet(フランス政府、Alteo社の開示の前日)を紹介します。

明日の自動車産業を一緒に構築します。スピードアップしなければなりません。私たちの目標は、2030 年までにフランスで年間 200 万台の電気自動車を生産することです。

ということで、フランスは電気自動車(EV)の生産を国策として取り組むようです。

 

 

リカードの比較優位論

デヴィッド・リカード(スミス、マルクスケインズと並ぶ経済学の黎明期の重要人物とされるが、その中でもリカードは特に「近代経済学創始者」とよばれる)の比較優位という考え方があります。

比較優位 - Wikipediaより引用

ポール・サミュエルソンは、比較優位を「弁護士と秘書」の例で以下のように説明している

有能な弁護士Aは、弁護士の仕事だけでなく、タイプを打つ仕事も得意だったとする。秘書は、弁護士・タイプの仕事において、弁護士Aより不得意である。更に、秘書はタイプはそこそこできるが弁護士の仕事はほとんどできない。しかし相対的な比較として各自の弁護士の仕事の能力を基準にすれば、秘書のタイピング能力は弁護士Aより優位であると見ることができる。このような場合、弁護士Aは弁護士の仕事に特化し、秘書にタイプの仕事を任せる。それが、弁護士・タイプの仕事が最も効率よくできるからである。

弁護士がタイプを打つと、弁護士報酬という機会費用を捨てることになる。弁護士がタイプを打つのは、恐ろしい機会費用がかかっていることになる。秘書がタイプを打っても、機会費用は低い。無駄な事をしない=何がトクかを常に考える(時間でも費用でも)ことが、「比較優位」を実践していることになる。

 

デヴィッド・リカード - Wikipedia

 

こういった考え方からすると、フランス政府が現時点では他国の産業と比べて比較劣位(劣っている)のバッテリー、セパレーターの製造に、外国企業を公費を支援してまで、取り組む政策は不合理のように思えます。

ただ、ヨーロッパの他国と比べて、原子力発電(カーボンフリー、電気代が安い)の比率が圧倒的に高く、ルノー・日産グループやステランティス(旧プジョー、旧シトロエン、旧フィアット、旧クライスラーなどを統合した会社)など、ドイツと並ぶ自動車生産大国であった産業基盤、技術基盤があります。

今後、EV、EV用バッテリーにおいて、欧州地域においては、フランスは比較優位を発揮できる産業だと考えているのかも知れません。 

 

また、フランス政府は、核兵器原子力潜水艦保有するなど、安全保障、国防を非常に重視する国と聞いたことがあるので、経済、産業上の安全保障と言った意味もあるのかもしれません。

 

比較優位の考え方は、↓のブログでも紹介しています。

 

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移動中、外出先の読書では電子書籍リーダーががおすすめ。

どんな本を読んでいるか、一目を気にする必要もないし、軽くて、かさばらいので。

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坂本慎太郎(Bコミ)氏のセパレーターコモディティ

競争力のあるセパレーター(実用、販売に耐えるレベルのセパレーター、コスト、品質が他企業と劣らないセパレーター)はフランス系企業の技術力で国産化は難しかった。

と私は解釈しました。

ただ、『セパレーターはコモディティ化する(した)』と解説している「プロ投資家」と呼ばれる坂本 慎太郎(Bコミ)氏という方もいたので、その方の意見も↓で紹介しています。

参考になれば幸いです。

 

 

コモディティとは、技術的にも参入障壁が低く新規参入が容易で、差別化が難しく、利益率が低くなりがちな製品をいうと思います。

もし、セパレーターがコモディティと呼ばれる製品、コモディティ化する製品なら、フランス政府が貴重な国費を使って、外国企業の進出を支援する意味が、私はわかりません。

 

 

私は、Bコミ氏の主張とフランス政府の政策のどちらか間違っているか(Tweetではバカと表現していますが、間違っている位の意味です)は、わかりません。一国の政策も間違えることもあるよくあることなので。

どちらかが間違っているか確認する意味でも、もう少し、今回のフランス政府の政策を深堀したいと思います。 

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読んで頂き、ありがとうございました。

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