経済で読み解く日本史 (上念 司著)で振り返る 平成時代 - 大蔵省 総量規制の失敗から政治家にも心理的安全性が必要かも-

 

に続けて、 

経済で読み解く日本史 平成時代1989年-2019年(上念 司著)

を読みながら、平成の長いデフレの原因となった財政金融政策を
振り返りたいと思っています。

また、就職、仕事、事業、住宅購入、資産運用などの時に経済情勢、今後の景気を少し先読みして、損をしない選択ができるような知識を少しは提供できれば、頂ければ嬉しいです。


■大蔵省の総量規制の罪

 

経済で読み解く日本史 平成時代1989年-2019年(上念 司著)

の第一章 バブル崩壊 第1節日銀不況と7つの事件 で、
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当時大蔵官僚だった高橋洋一氏(現嘉悦大学教授)は、大蔵省は不動産価格の対策として、「総量規制」を準備しており、日銀が余計な金融引き締めなどやる必要がなかったと証言します。
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という記載がある程度で、上念氏は、大蔵省の総量規制についてはあまり問題視せず、
インフレを極度に警戒した平成の鬼平こと三重野日銀総裁の過剰な金融引き締めが、
日銀不況の原因であったと主張をしています。

過剰な金融引き締めとは、物価下落、信用不安を招きデフレ不況の原因、公定歩合の引き上げのことですが、この問題については次のブログで紹介したいと思います。

しかし、総量規制も大問題だったようです

 
ソビエト連邦崩壊を予測した経済学者小室直樹氏は

「・・マーケットのメカニズムによって決まる土地の価格を、一官僚ごときが統制できると考えた・・私有財産への干渉は、紛れもない民主主義の否定である。日本国憲法への挑戦である。・・縛り首にされても文句は言えない・・」と 

日本国憲法の問題点(小室 直樹 著)

などの著作などでで、猛烈に、土田局長を批判しています。

 

これでも国家と呼べるのか―万死に値する大蔵・外務官僚の罪(小室 直樹 著)


では、

『太平洋戦争での宣戦布告の通告が遅れた外務省の失態、(日本が宣戦布告なし卑怯な奇襲をした国という印象を米国、世界に与え、早い段階での講和の機会を失わせ、日本の名誉を失墜させた外務省の失態)と同じレベルの失態と総量規制を実施した大蔵省の官僚を万死に値する。』
と小室氏は、非難しています。

 

■総量規制とは


1980年代にには東京都の山手線内側の土地価格でアメリカ全土が買えるぐらい日本の土地が高騰しましたが、その後、
1989年から1991年には東京都の山手線内側の土地価格の土地価格でアメリカ全土2つが買えるという算出ができるほど、日本の土地価格は高騰しました。


東京都のマンション価格が、サラリーマンの平均年収の14倍から18倍といった価格になり、住宅価格高騰、住宅取得が困難ととされ、国民やマスコミからは政府に対する非難が高まりました。

 

なお、2018年の東京都のマンション価格の年収倍率は、
東京都の11倍から13倍程度です。この時期は、消費税増税前の好景気の時ですが、
バブル時の土地価格、住宅価格の高騰は、それほど極端なものでなかったことがわかります。

東京都のマンションが年収倍率が6倍から8倍位になった時が底値で買い時のようです。
興味のある方は「年収 マンション 倍率 東京」といったキーワードで検索してください。

 

そして、土地価格を下げるため、大蔵省の総量規制を導入しました。

1990年(平成2年)3月27日に「不動産融資総量規制」という一通の通達が、
大蔵省銀行局長・土田正顕の名で全国の金融機関に発せられた。

総量規制は、過剰な土地取引を抑制するため、
不動産向け融資の伸び率を総貸出の伸び率以下に抑えるようにするという通達です。

 

ちなみに、

バブルへGO!! タイムマシンはドラム式

という映画
では、 阿部寛 演じる財務省官僚が、広末涼子演じるフリーターを
この総量規制をやめさせるため、タイムマシンでバブル当時の過去の日本に送るという設定になっています。

 

事業というのは、モノやサービスを仕入れて、販売するのが基本です。
販売され、入金される前に、仕入や給与の出金が必要ですから、運転資金として金融機関から借り入れるをすることが一般的です。

不動産事業も同じで、土地や建物を仕入れて、販売し、土地の金額は高額ですから、多額の運転資金が必要になります。
土地の価格は上昇していますがら、その分、多くの運転資金が必要となります。

政府の総量規制は、新規の運転資金の貸し出しも不動産事業では困難になるほど、
貸しはがし貸し渋りが横行したのです。

また、不動産の購入は、高額で現金(キャッシュ)で買うことなど稀ですから、銀行の融資はほぼ必須です。

銀行から融資をうけられず、不動産を買いたくても購入することができず、
売却したくても売れない不動産が市場にあふれるようになってしまったのです。
この売却できない不動産は不良債権化してしまい、結果、住専問題などで大蔵省、銀行自体が苦しむことになります。

 
汐留駅跡地の再開発問題に象徴される愚策

 

総量規制後は、地価は横ばいとなったことが確認され、不動産業界の強い要望により、
総量規制は、1991年(平成3年)12月に解除されました。

わずか約1年9ヶ月だけでしたが、地価の上昇を見込んだ事業は破綻することになり、
そういった事業に多額に融資をしていた銀行も、不良債権に苦しむことなります。

総量規制の効果については、土地の取引、流通を阻害して、
塩漬けの土地を増やしただけかもしれません。

 

土地が高騰するということは、土地を売りたい人より買いたい人の方が多い。
つまり、土地の供給が少なく、需要が多いのが原因です。

土地は新しく作れないから、供給を増やすことができないから、大蔵省は、総量規制で需要を減らすような政策をとったのかもしれません。

しかし、土地は新しく作れないから、供給を増やせないというのは、半分嘘で、
農業用地や工場用地を住宅や商業地として開発したり、
大規模高層ビル、マンションを建てたり、
新しい鉄道路線を新設したり、
埋立地を開発したりすれば、供給を増やすことは可能です。

  

不動産は値下がりする!―「見極める目」が求められる時代 江副 浩正著 (中公新書ラクレ)

リクルートの創業者の江副 浩正氏の著作ですが、土地が供給され不動産が値下がりする仕組みを説明しています。 

 

しかし、バブル景気と言われた当時は、信じられないことですが、そのような土地の供給を増やす行為、や 土地の供給を促す政策は、
さらなる土地の高騰を招くとマスコミなどから批判を浴びて、難しかったのです。

 

例えば、国土利用計画法が改正され、
バブル期(1987年)に地価抑制を目的として法改正が行われ、
「監視区域制度(届出制)」が創設されました。
この「監視区域内」で一定面積以上の土地取引を行おうとする場合は、
都道府県知事に事前届け出をしなければならず、その取引価額に対して、
都道府県知事が取引中止の「勧告」を行えるというものです。

 

また、象徴的な出来事として、汐留駅跡地の再開発問題があります。
国鉄清算事業団という国鉄の負債を引き継いだ団体を所有する
31ヘクタールの「汐留駅跡地」の再開発問題です。

 

今は、日本テレビタワーなどある汐留シオサイト(siosite)と発展していますが、
しかしバブル景気で地価が高騰していた時代においては、
土地の売却が地価高騰を一層あおりかねないとの政府内外に懸念があり、
汐留駅跡地」の売却、再開発ができなかったのです。

結局、その結果、地価が暴落した後に売却に掛かり、
その他の土地も国鉄清算事業団の解散を控えて全て処分する必要があることから、
バブル崩壊後の地価下落で、安値で処分せざるをえなかっったそうです。

その間、国鉄清算事業団は、負債を返却できず金利を払う必要から、さらに負債が増え
解散する1998年に、最終的な債務(24兆98億円)は、国が引継、国の負担となりました。

 

土地の大規模開発の批判や不動産融資に対する不祥事などがニュースの話題になったときが景気の天井で、不動産投資、株式投資、など控えるのがにするのがよさそうです。 

スルガ銀行かぼちゃの馬車事件(シェアハウスなどへ過剰融資)など
2018年に発覚しましたが、その後、景気は下落局目になり、銀行の不動産融資も消極的になった聞いています。不動産の購入、投資される方は、景気の現状、将来も少し考慮に入れた方が大きな損はしないかもしれません。

 

 

■政治家にも心理的安全性が必要かも。

 

当時のマスコミは、『総量規制の導入を遅すぎた。』と批判し、『総量規制の解除を早すぎる。』と批判し、総量規制を必要と考えていました。

日本経済新聞のような日本の経済界を代表するような新聞でさえ、

「景気に配慮、尻抜けする危険がある」と総量規制の強化を主張し、解除時は、「地価は落ち着いても楽観できない」と解除の決定に消極的な評価をしていました。

総量規制という失敗は、地価に関する政策的な失敗は、マスコミや国民の感情的な批判に政府が冷静に対応できなかったという問題です。

 

冷静に対応できるためには比較的、高い支持率に支えられた強い政権であることが必要ですが、当時の自民党内閣(竹下内閣、宇野内閣の短命政権が続いた後の第一次海部内閣、大蔵大臣は橋本龍太郎)は、リクルート事件(1988年(昭和63年)発覚)、消費税導入(1989年(平成元年)4月1日から)などによる支持率の低下に苦しみ、
マスコミや国民の感情的な批判に振り回されるようなことが多かったようです。

 

政府が冷静に対応できるような余裕、自信を与える意味でも、国民は政府、内閣、与党を批判するだけでなく、温かい目で見て、応援、信頼、支持する姿勢も大事なように感じました。

 

政府が自信をもって冷静な対応ができず、国民やマスコミなヒステリックな批判に、
右往左往するような対応をすれば、長く苦しむことになるのは国民なのですから。


Google社の『生産性が高い組織は、心理的安全性が高い』
という調査結果が話題になりましたが、
政治家にも心理的安全性が高いということでしょうね。

お互い支持し信頼することが大事なのは、会社の従業員、経営者
にもいえることで国民と政治家の間にも言えることもか知れません。

 

心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味するそうです。

 

心理的安全性に興味を持った方は、

世界最高のチーム グーグル流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法

などの本も参考にしてください。

 

以 上 で す。