コマツの株価が急落している今、コマツ子会社のギガフォトンに関する識者の評価について

 

コマツの株価が急落している今、コマツ子会社ギガフォトンに関する評価:二人の識者、湯之上 隆氏(微細加工研究所所長)・田路則子(法政大学経営学部教授)の記事、論文を参考にその評価などを紹介します。

ギガフォトンは、ASMLにシェアを奪われたニコンキヤノンと違い、レーザーテックのような日本企業の底力、独自技術の強みを感じました。ギガフォトンはASML(その子会社のCymer)を下剋上ジャイアントキリングできるかもしれません。

▽目次

 

 

■ギガフォトンの決算を待つ

 

上記のブログで、

 現状、コマツの株価約3000円、時価総額約3兆円ですが
2兆円の時価総額のレーザーテックと同じ位ギガフォトンが評価されれば
、株価5000円、時価総額5兆円と評価されるかもしれない。
といった話(妄想)は、ギガフォトンの2021年3月末年度の算決算公告で確認できる時期に 、改めてブログで詳しく書きたいと思います。

といった内容を記載しましたが、

ギガフォトンの決算は、去年2020年は、6月26日に公告されているので、
おそらく、今年も今月中には公告されるであろう決算を待って、企業価値の評価をしてみたいと思います。

100%子会社の決算は、会社自体の収益力より、その親会社の財務政策、税務政策によって、売上、利益ともに大きく左右されますが、ギガフォトンの場合は、

  • もともと合弁企業だったことともあり独立性が高い
  • 親会社のコマツの主力製品と全く別分野の製品であること
  • 親会社との取引関係も少ないこと

から、ある程度、その決算自体で、企業価値を評価することも可能だと考えています。

 

コマツの株価が急落

ギガフォトンの親会社コマツ小松製作所)の株価が急落しています。
2021年6月16日(水)終値3,050円から、
2021年6月18日(金)終値2,850円と2日間で6%近く下落し、年初来安値となりました。

主力市場の東南アジアで競争力の低下懸念が大きいとして、
UBS証券が16日付のリポートで評価を「買い」から一番下の「売り」に引き下げ、
目標株価も3800円から2500円に引き下げたことがきっかけといわれてます。
UBS証券は、中国重機大手の三一重工に対するコマツの競争力低下などが評価を下げた原因のようですが、UBS証券のレポートは直接見ていませんが、おそらくギガフォトンの将来性や企業価値は、コマツの株価に織り込まれていないように思われます。

おそらく、2021年3月末決算で2兆1895億円をに達する売上のコマツほどの企業規模だと、売上約351億の一子会社で主力事業とほぼ無関係の事業は無視できるほど小さなものかもしれません。

以前のブログで述べた通り、
しかし、2020年6月末決算で425億円の売上のレーザーテックが、2021年6月18日終値の株価21,600円で、2兆365億円程の時価総額まで評価されていることを考えると、その成長性次第では、無視することはできず、コマツの主力の建機事業と同程度の重要性を持つかもしれません。

ギガフォトンの成長性について、いつかの識者の評価を紹介したいと思います。


■ギガフォトンはASMLを下剋上ジャイアントキリングできるか

微細加工研究所の所長として、
半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの活動をしている
湯之上 隆氏の評価(記事)を紹介します。

 

▽2020年04月15日の記事(EE Times Japan のサイトより)

コロナ騒動を、またとない下克上のチャンスと捉える企業があるかもしれない。
プロセッサでは、シェアの低下が止まらないIntelに代わってAMDが台頭するかもしれない。また、製造装置では、ドライエッチング装置でLam Researchに代わって東京エレクトロンがシェアを伸ばすかもしれない。EUV露光装置では、Cymerに替わって、日本のギガフォトンの光源が採用されるかもしれない。 

 

パソコンのCPUは一時的がIntelの独占市場のようなシェアでしたが、最近、AMDがシェアを20%ほどとり、年々シェアを上げています。そんなAMDのように、ギガフォトン下剋上のチャンスをとらえる候補として紹介しています。

 

Electronic Journal 2013年5月号の記事(微細加工研究所 湯之上ネットのサイトで紹介されています)

●EUV光源開発は日本人に有利
LPP方式のEUV光源開発における第1課題は、Snの液滴をいかに制御するかということである。
(中略)
例えば、ギガフォトンの発表では、まずSnの液滴をYAGレーザ(プリパルス)で細かく砕き、そ
こにCO2レーザを照射する2段階方式を検討している。
一方、Cymerは、昨年のSPIEの発表までは力づくでCO2レーザを照射していた。今年のSPIEで、はじめてプリパルス方式の結果を発表したが、波長の異なる2つのレーザを使う細かな芸当ではない。
Snの液滴をいかに上手く制御して、いかに上手く高密度プラズマを発生させ、いかにして350~500WのEUV光を得るか? 日本人は、液体材料を用いたデリケートなプロセス開発に、圧倒的な強みを発揮してきた。これが、EUV光源開発は日本人に有利と考える根拠である。


8年前とかなり古い記事ですが、EUV露光装置のような革新的な難易度の高い実用化されて歴史が浅く、まだまだ新しい技術的革新も期待されます。
もちろん、キャノンやニコンがASMLに敗れたように、ギガフォトンが負け組になる可能性もゼロではありません。

ただ、今後、10年、20年スパンと見た場合、ギガフォトンが、ASML(その子会社のCymer)に対して、下剋上ジャイアントキリングといった展開も期待できます。

半導体製造の前工程の検査装置の巨人KLA社に対して、レーザーテックが、EUV露光装置用検査装置で、技術的優位に立ち、圧倒的な収益力、成長力を獲得したように、ギガフォトンが、ASML(その子会社のCymer)に対し技術的優位に立って、圧倒的な収益力、成長力を獲得する可能性もあります。

 

■組み合わせ、擦り合わせの両方で高度な技術をもつギガフォトン

田路則子 氏(法政大学経営学部教授)・佐藤政之(法政大学経営学助教授)・榎波龍雄(ギガフォトン勤務)の共著で、『半導体露光レーザメーカの製品アーキテクチャ』という論文が、2017年3月に公表されています。

露光機の基幹部品として使われるエキシマレーザのプレーヤーは、現在ではアメリ
のサイマーと日本のギガフォトンとなる。両社の概要については次節で述べるが、設立当時、市場シェア 20%に満たなかったギガフォトンが、順調にシェアを伸ばし、2009 年には 50%を達成している。露光機メーカと比べると、日本勢が逆の立場で奮闘していることがわかる。
(中略)
コマツの時代から培ったレーザの技術開発の経験と実績を継承し、KrF、ArF(Dry)、ArF(Immersion)を中心としたエキシマレーザを販売する。特に ArF はインジェクションロックという方式による、装置に 2台のチャンバ(ツインチャンバという)を配置した技術により、安定した性能と低いランニングコストで高出力なパワーを実現する「GT シリーズ」製品を開発している。
(中略)
(ギガフォトンは)川上に位置することを利用して、外部に対してクローズな、新しいアーキテクチャを別組織で開発できたことが、競争優位性をもたらした
といえよう。


ギガフォトンの製品は、インテグラルの要素とモジュラーの要素があり、
それぞれ仕様が公開されていないクローズドのものであるため、参入障壁が高く競争優位性をを維持しているといった内容の記載もありました。

インテグラル(摺り合せ)型の要素:製品を作る際に特別に最適設計された部品を相互調整しないとトータルなシステムとしての性能が発揮されない製品がインテグラル(摺り合せ)型です。自動車やオートバイ、精密機械がその代表例。

※モジュラー(組み合せ)型の要素:既に設計された既存の部品を組み合わせて、最終製品とするのがモジュラー型です。モジュラー型の代表例は、自転車、PC。


■湯之上 隆氏の著書

今回記事を紹介した半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリスト湯之上 隆氏の著書を二つほど紹介したいと思います。

 


本書は2009年の出版ですが、主に1995年ぐらいから2008年までの半導体業界について分析されてます。本書でとりあげた「半導体敗戦」となった原因は今でも解決されておらず、半導体業界の復活のために10年後の今でも一読の値打ちあるようです。

なお、Kindle Unlimited 読み放題 の対象商品なので、Kindle Unlimited 読み放題 に加入している方は無料で読めます。

 

 日本の半導体業界はなぜ壊滅的状態になったのか? シャープなどの電機メーカーはなぜ大崩壊したのか? 京大大学院から日立に入社し、半導体の凋落とともに学界に転じた著者が、零戦サムスンインテル等を例にとりながら日本の「技術力」の問題点を抉るとともに、復活再生のための具体的な処方箋を提示します。

 

■田路 則子氏の著書

今回、論文を紹介した法政大学経営学部教授 田路 則子氏の著書を二つほど紹介します。

 

 
本書は企業の研究開発活動、その具体的事例、イノベーションの発生、成功を丁寧に取材し、経営学的考察を切り口に深堀りしている良書のようです。

 

 本書は、首都圏とシリコンバレーのWebビジネスを定量的に比較しつつ、成長を果たした日米の事例についてケーススタディを行っています。
この分野の書籍は起業家の体験談が多いが、本書のような学術的な研究をまとめたものは普遍性が高く、そこで語られるノウハウはWebビジネスに限らず、他のビジネスにおいても活用しやすいようです。起業を目指す方々の参考になるだけでなく、起業環境の整備にかかわる政策担当者、ベンチャーキャピタル関係者の業務にも貢献するような本のようです。

 

ギガフォトン本社

ギガフォトン本社

以上です。