旭化成がW-SCOPEを訴えた特許の内容

■はじめに

旭化成がダブルスコープを訴えた特許の内容を調べてみたブログ記事です。
韓国特許の調査方法、パラメーター特許、トマトジュース特許裁判の説明などもしています。

 

 

■関連ブログ

 

旭化成が訴えた特許の概要

▼2020年2月4日 旭化成 プレスリリース

ダブル・スコープ株式会社等に対する特許侵害訴訟提起について
旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社長:小堀 秀毅)は、本年1月29日、リチウムイオン二次電池用セパレータの製造・販売会社であるダブル・スコープ株式会社及びその連結子会社であるW-SCOPE KOREA CO., LTD.(以下、ダブル・スコープ株式会社等)を共同被告として、特許権侵害訴訟をソウル中央地方法院に提起しました。

本件訴訟は、当社が所有するリチウムイオン二次電池用セパレータに関する韓国特許(特許第10-0977345号)に基づき、ダブル・スコープ株式会社等が製造・販売する電池用セパレータ製品の韓国における製造・販売差止と損害賠償を求めるものです。

とあります。

韓国における特許検索方法―韓国特許技術情報センター(KIPRIS) « 新興国等知財情報データバンク 公式サイト

韓国の特許の内容は、「独立行政法人工業所有権総合情報館」が運営されている上記のサイトで調査方法が記載されています。

http://engpat.kipris.or.kr/engpat/biblioa.do?method=biblioFrame

韓国特許庁傘下の特許技術情報センター(KIPRIS)で提供されている上記のサイト
で調べることが可能です。

 

特許化された発明の概要は、
本発明は、厚みが1μm以上50μm以下、気孔率が30%以上70%以下、膜厚1μmに換算した穿孔強度が
0.15N/μm以上、長手方向の引張強度(MD引張強度)と幅方向の引張強度(TD引張強度)がそれぞれ30MPa以下
相であり、65℃での幅方向の熱収縮率(TD熱収縮率)が1%以下、65℃での長手方向の熱収縮率と幅方
香の熱収縮率の比(MD熱収縮率/TD熱収縮率)が2より大きいポリオレフィン製微多孔膜、及びその製造方法、これを
利用した非水電解液二次電池に関する。
といった内容です。

厚さ、気効率、膜厚の細かい数字が並びいわゆるパラメータ特許であることがわかります。
パラメータ特許とは、『具体的な構造や製造方法に対してではなく、発明物の性質や機能を示す数値・数式に与えられる特許』
です。

日本の特許法では特許で保護される「発明」は、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(第2条第1項)と定義されています。
特許保護は国際的な条約が中国、韓国も含めて世界のほとんどの国で締結されており、その条約に基づいた国内法なので、各国で大きさは差はないでしょう。
『高度ののもの』という表現は、日本の場合、特許制度を簡易化した実用新案制度があり、高度のものは特許、それ以外は実用新案と、両社を区分するために作られています。

パラメータ特許の場合、発明物の性質や機能を示す数値が果たして、自然法則を利用した技術的思想の創作といえるのか、私は少し疑問に感じます。
この疑問は多くの人も持つようで、
『創作』とは
①産業上利用できる発明であること(産業上の利用可能性)、②新しいものであること(新規性)、③容易に考え出すことができないこと(進歩性)
といった要件が求められます。
②新規性や③進歩性の要件に満たすか、特許出願者に厳しめに判断されると一般的にいわれるようです。

 

■裁判対象になっている特許の範囲


特許で保護される範囲は、請求項に具体的に記載して出願され、保護されます。
請求項とは、特許請求の範囲において、特許出願人が特許を受けようとする発明を特定する項をいい、より具体的には、「特許を受けたい発明」ごとに区分けされて発明が記載される欄をいいます。 ... なお、特許請求の範囲(又は請求項)を「クレーム(claim)」ということがあります。

旭化成がW-SCOPEを訴えた特許の請求項はわかりませんでしたが、
W-SCOPEが旭化成を特許は無効な旨訴えていまいしたが、その無効と主張した請求項はわかりました(2020年の判決でW-SCOPEが敗訴)。
おそらく、これが、旭化成がW-SCOPEが侵害した訴えた特許の請求項だと思います。


請求項1
厚さが1μm以上50μm以下、気孔率が30%以上70%以下、膜厚1μmに換算した穿孔強度が0.15N/μm
以上、長手方向の引張強度(MD引張強度)と幅方向の引張強度(TD引張強度)がそれぞれ30MPa以上であり、65
℃での幅方向の熱収縮率(TD熱収縮率)が1%以下であり、65℃での長手方向の熱収縮率と幅方向の
熱収縮率の比(MD/TD熱収縮率比)が2より大きく、長手方向の引張伸び(MD引張伸び)と幅方向の引張伸び
度(TD引張伸度)がそれぞれ10%以上200%以下、MD引張伸度とTD引張伸度の合計が20%以上250%以下
リンポリオレフィン製微多孔膜。

請求項2
65℃でのMD / TD熱収縮率比が2.5より大きい請求項1に記載のポリオレフィン製微多孔膜。

請求項4
穿孔強度が3N以上である請求項1または2に記載のポリオレフィン製微多孔膜。

請求項7
請求項1または2に記載のポリオレフィン製微多孔膜を用いた電池用セパレータ。


まさにパラメータ特許といえます。
パラメーター特許について少し詳しく調べてみました。

 

■トマトジュース裁判

パラメータ特許の有名な日本の裁判で、トマトジュース裁判があります。

伊藤園の特許(特許第5189667号)は、糖度、粘度、酸味の3つのパラメータを所定範囲とすることで、低粘度でありながら、濃厚な味わいで、フルーツトマトのような甘みがあり、かつトマトの酸味が抑制されたトマトジュースの発明です。カゴメがこの特許を無効と争った裁判で、カゴメは勝訴して、特許は無効という判決でした。

詳細は以下のサイトもご覧ください。

【判例研究】トマトジュース事件(平成28年(行ケ)10147号) | 特許業務法人オンダ国際特許事務所

特許保護は国際的な条約が中国、韓国も含めて世界のほとんどの国で締結されており、その条約に基づいた国内法なので、各国で大きさは差はないでしょう。
と記載しましたが、特許で保護される対象は実際には、違いがあるようです。
各国の産業政策、つまり、自国民、自国企業に有利になる傾向のある発明は保護しようという傾向の現れでしょう。

中国、韓国ではパラメーター特許にやや有利な決定、判決が出る傾向があるのかもしれません。

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忠清北道梧倉にあるリチウムイオン電池の分離膜専門企業ダブルスコープ(記事の写真)


 

旭化成、韓国素材•部品•装備企業と特許訴訟 - KED Global

旭化成は、むしろ「ホームグラウンド」の日本では、特許侵害訴訟を起こさなかった。ある弁理士は「日本の特許審判は、非常に詳しい部分まで掘り下げるため、権利範囲が限定的で侵害を認めにくい」とし「一方、韓国や中国はもう少し幅広く特許を認めており、相対的に特許侵害を認めやすい」と説明した。

といった記事があり、日本では特許侵害と訴訟するのが難しかったかもしれません。

旭化成は、特許侵害を韓国と中国で訴訟し、日本、米国、EUなど主要国では訴訟を起こしいません。
仮に侵害が事実だとしても、一部の地域でしかW-SCOPEは特許侵害していないことを旭化成も認めていることになります。

仮に侵害が事実と裁判で認定された場合も、一部の地域しか出荷されていない一部の製品でしか特許が侵害されていない可能性が高い、かつをそれは
特許を回避して製造できるとW-SCOPEの主張を私が信じてもいいとと私が考える理由です。

 

■中国の裁判の結果


中国の裁判は、ダブル・スコープの代理店が敗訴する形で判決がでています。
合計人民元100万元(約2000万円)の損害賠償といことで、その金額から、W-SCOPE売り上げ規模から考えると、ごく一部の製品に関する裁判だということがわかります。
こういった裁判の結果から、それほど心配する必要はないと考えています。

旭化成プレスリリース

リチウムイオン二次電池用セパレータ中国特許に関する中華人民共和国北京知識産権法院の特許維持判決について


2021年12月1日 旭化成株式会社

 

旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社長:小堀 秀毅、以下「当社」)が所有する中国特許(特許第ZL200680046997.8号、以下「本件特許」)に対する無効審判請求事件において、中国人民共和国北京知識産権法院より2021年9月28日に本件特許を維持する判決を下されましたので、お知らせします※1。

当社は、中国深圳市のリチウムイオン二次電池用セパレータの販売会社である深圳市旭冉電子有限公司及び深圳市旭然電子有限公司(以下、「旭冉電子等※2」)を共同被告として、2018年8月に、当社が保有する本件特許に基づき、旭冉電子等が販売する『単層W-scope』電池用セパレータ製品の中国における販売差止と損害賠償(合計人民元100万元)を求め、深圳市中級人民法院に提訴しました。これに対し、本件特許の権利侵害に対する当社主張が全面的に認められ、中華人民共和国最高人民法院にて上記製品の販売差止及び損害賠償金の支払いを命じる終審判決が言い渡されております(2020年12月)。

本審判事件は、深圳市旭冉電子有限公司が当社提訴後に本件特許の無効を求めたものです。中華人民共和国国家知的財産局はこれに対し、本件特許を維持する審決※3を言い渡し、相手方はこれを不服として中華人民共和国北京知識産権法院へ訴訟提起していましたが、今回、上記のように特許を維持する判決が言い渡されました。

当社は今後も知的財産を重視し、必要と判断した場合には具体的な措置を積極的に講じていきます。

※1上記特許権侵害訴訟において審理対象である請求項の全てを維持する判決
※2ダブル・スコープ株式会社(本社:東京都品川区)の中国における販売代理店

 

 

■気になったヤフーファイナンス掲示板の投稿

ダブル・スコープのヤフーファイナンス掲示板の投稿(2021/08/01 21:38)
が有益な情報のように思えるので、記載します。
要約すると、ダブル・スコープが侵害したとされる旭化成の特許は、回避方法がいくらでもある特許で、ダブル・スコープ事業や製品に致命的な影響を与えるものではない。という趣旨のようだと思います。


▼―――
(前略)
1 このセパレータの基本であるオレフィン(ポリチレン、ポリプロピレン)系の微多孔膜は、昔からあるもので、公知効用。 基本特許は存在しない、よってそれを侵害したのしないの争いは存在しない。

2 この微多孔膜をLIBセパレータとして使うためには、およそ下記の性能が鍵

 (1)製造工程(テープを高速でぐるぐる巻く、張力もかかる)で必要な長さ方向の強度 =ひっぱったときにちぎれるまでの強さ

 (2)電池が発熱したときに幅方向が縮むと、端っことめてるところが外れて壊れるので、熱での縮みの少なさ、縮んでも裂けないための幅方向の強度

 (3)リチウムイオンの行き来のしやすさを決める微多孔の度合い、すなわち空隙率 (湿式法でいえば、オレフィンと油分をとことん混ぜて、いわゆる相分離というやつを起こして、油分をあとで抜くと、そこが空隙になります。業界ではみんな知ってること、、、だと思う)

 (4)電池が熱暴走、発熱過多となったときにいち早く、リチウムイオンの行き来をとめるシャットダウン効果(=微多孔がとけてふさがる)を決める膜の融点
  これは、基本オレフィンの性質として決まっているが、分子構造として結晶質、非晶質の割合を変えると多少、融点というか、溶けるまでに被る熱エネルギーの量の多寡を上げたり下げたりできる(結晶は溶けるときに多くの熱エネルギーを要するから)

3 で、セパレータの各社が、競っているものの性質としては、上記の(1)~(4)のバランス、これをたてればあちらが立たずみたいなトレードオフ関係にあるので。 (セパレータへのセラミック塗工の話があるが、今回は、説明の範囲から外します)

4 で、今存在する特許とは、、(1)~(4)の各項目を新たにこんなバランスでできるようにしたよ、基本はトレードオフがあるからex(4)を立てれば、(3)が多少おちるけどね、今までのトレードオフを部分的だけど突破して、こんな性質の特徴あるやつができたよ、てやつです。  その具体的なデータは、従来はこれこれに対して、この発明はこれこれ といういわゆるパラメータ特許(わからんひとはググって)

5 また同時に、今存在する特許とは、セパレータの基本特許ではなく、いわゆる選択発明(基本の性質から、こんな良さをとんがらせて加えた”もの”)となり、セパレータの世界、特徴を全部制覇するものではない部分的なもの。
だって、上の例でいえば、(4)をよくしたんだけど、(3)は落ちてる、それを嫌がるユーザー、それでもいいというユーザーがいるのです。

6 各社は、それぞれに少しでもセパレータの性質での自社の優位性をとろうと、上記の4、5の開発を競う。 で、狙うとこは(1)~(4)のバランスのとり方だからどうしても同じうようなところの開発となる。 

7 よって出来上がったものについてどこかの社が先に特許をとれば、同じ開発をしていて特許を出すのが遅れた会社は先行者の特許を踏むことにはなる。 
「パクリ」とかそういものじゃなくて、開発の土俵がそう広くない選択発明の世界だからそうなる。 よって、この業界では、特許係争はよく起きる。 が、相手の生命線を断つような基本特許ではないので、またやられた会社は、(1)~(4)の別のバランスのとり方の開発品で勝負すれば、踏んだ特許のものの生産を止められても生きていける。

8 この構図は、セパレータ業界だけではなくて、製造業で仕事してる人で、そこそこ経験を積んでいれば常識。 (エレクトロニクスとかめちゃめちゃな相関図になってますよね) 特許は権利だから、きっちり勝負するけど、相手が意図的にパクったなんてケースはほぼない 
(会社は、開発を開始する前に、世界の特許をサーベイして、この開発テーマが、先行特許を踏まないか調べてから開発に入る。 じゃないと、あとで裁判するのもコストと労力かかるし、まけたら少なくともそのテーマ 無駄になるもんね)

(後略)
▲―――

 

 

 

■結 論

最近、日本製鉄が、特許侵害している中国企業の鋼板を購入したトヨタ自動車に損害賠償、製造・販売の差し止めをの裁判を起こしたことがニュースになっています。

特許権は、生産者でなく、その違反した製品を部品、部材とした製品を
販売、利用したものも損害賠償や差し止め、場合によっては刑事罰の対象になりうる強い権利です。
つまり、特許侵害をしているダブルスコープの製品を利用したサムソンSDIなど電池メーカーやその先の自動車会社などまでリスクが及びます。
仮に特許侵害の可能性が濃厚なら、ダブルスコープの製品が売れないと思いますが、旭化成の訴訟の後も、売上は拡大しています。

この事実は、我々素人でなく、サムソンSDIなど電池メーカーやその先の自動車会社など技術開発、資材調達、知的財産、法務の責任者などの玄人、プロがどう考えているかを示唆します。

http://www.thelec.kr/news/articleView.html?idxno=14376

は韓国語のサイトですが、ハラ・ホールディングスはW.C.Pに1,000億ウォンを投資しました。ハラ・ホールディングスの担当者は、「旭化成との特許裁判は問題ない」と判断して投資を実行した旨の記事があります。

少なくとも、私より、90億円近くを投資するハラ(ハンラ)の担当者の方がよく調べていると思いますし、調べる能力も高いと思いますので、
ハラ・ホールディングスの見解も参考になるかと思います。

 

 

■本の紹介

 特許や知的財産について興味を持った方へ、いくつか関連する本を紹介します。

 

ドラマ化もされた池井戸潤氏の小説、

ルーズヴェルト・ゲーム

下町ロケット では、大手企業から理不尽な特許侵害で訴えらえる主人公の会社が逆転勝利するようなストーリがありますが。
旭化成から訴えられたダブル・スコープは、あたかも青島製作所、佃製作所のように、資金繰りに困るような状況から、大逆転して、業績の急回復ができるのか楽しみです。W-SCOPEは、下町ロケットの小説のような特許紛争で取引停止、業績悪化という状況ではないようで、タイトルの(ダブル・スコープは下町セパレータではない)はそんな意味があります。
 

 

 

 

ちなみに、

 池井戸 潤氏の小説『半沢直樹』が有名ですが、以前、私は三菱UFJ銀行に半沢頭取の誕生を示唆していましたが、それが現実になりました。

 

 

知財戦略の中でも、特に重要なのは新規事業の武器となる特許を取得できる発明です。発明は、競争力のある製品・サービスの実用化・事業化とマネタイズを考える上で欠かせません。「先読み」の知財戦略の考え方、事業創出につなげるための企画の考え方を、具体的な企業の事例を挙げて解説している本です。

「控えめに控えめに言って最高すぎです。オモロい!!!オモロすぎる!」といった恋艇的なアマゾンのレビューが多いです。

 

W-SCOPEのような成長株投資に有益な本も紹介します。
WCPの上場でバリュー株と評価されるかもしれませんが、今後も売上が年10%を超えて拡大し、利益率も年々高くなることを考えると私は成長株投資と考えています。

成長株投資の場合、多少割高に思えて、会社の強い成長が続くまで、成長が鈍化するまで、保有するというのが大事だと思います。
何をもって強い成長とするか、何をもって成長の鈍化とするかは解説されている本をアマゾンのリンクでいくつか紹介します。

 

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